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精霊契約でパーティー追放されたけど、今さら戻ってこいとか言われても遅い!  作者: 夢見叶
第6章 氷の王国と契約の少女

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第8話 氷獄の地下遺跡

 王城の底は、音を飲み込む。


 エリシアの封蝋が内扉の紋に触れた瞬間、蒼い光が筋になって走り、凍てた空気が喉を撫でた。背後では巡回の靴音が遠ざかっていく。――スヴァルドだ。正面からは救わない。けれど、見逃すための間だけを渡す。それが剣の中立。


「急ぎましょう。上は長く持ちません」

 フードの奥で、王女の瞳が静かに光る。


 階段を降り切った先に、回廊が口を開けていた。壁一面にびっしりと――曲線の文字。氷に刻まれた古い文様が、俺たちの呼気に合わせて淡く脈打つ。


 フローリアが掌を壁に当て、指先で一文字ずつ撫でる。

「この文字……古代契約者の誓約よ。力で縛る文じゃない、間を縫うための言葉」

 リアが祈りの母音をひとつ置くと、文字の端がやわらかく光った。

「歌と誓いは同じ根。……だから、書き換えで隔離に寄ると、歌は欠けるんです」


 入口に短い銘文があった。

 《誓いを持たぬ者は、力に触れるな》

 俺は胸の《炎紋》に触れた。燃やさない炎。ならす炎。――誓いで開く道なら、行ける。


 回廊の節目に、六角の石柱が立っている。表面は透明に近い氷、その中心に雪花の芯。

「六花の碑」とフローリアが囁いた。「触れれば、残滓が映る」


 俺は右手をそっと碑に置いた。冷たさが皮膚ではなく、鼓動に触れる。


 ――雪嵐。影と影が向かい合う。

 毛皮の外套の若者と、青い瞳の精霊。二人は互いの手のひらに額を寄せ、同じ拍で息をする。

『炎は奪わず、氷は閉ざさず』

 彼らの言葉が母音にほどけ、碑の上部に曲線の符が浮かぶ。

 リアが素早く書きとめ、ゼルフィアが発光の位相を採る。ミルは背後を見張り、カイは耳を立てた。


 金属の鈴が、遥か後方で一度だけ鳴った。検知の合図だ。

「追手、三分で接触」

 カイが手で三を作る。

「先へ」

 エリシアが言う。足取りは早いが、乱れない。


 二つ目の碑。俺が触れるより早く、氷面が勝手に映像を吐き出した。

 誓いの言葉もないまま力を振るい、氷河の村が崩れる。冷が閉ざし、炎が奪う。

 ――封氷は砕け、哭き声だけが残った。

「……誓い無き力は、隔離に堕ちる」

 フローリアの声は低い。今の協会のやり口が、そのまま古代の失敗の焼き直しに見えた。


 回廊の最奥に、円い扉があった。鏡みたいに滑らかな氷。中央に、小さな“欠け”。

 脇の銘文は簡潔だ。

 《火の誓、氷の誓、間を証する血。三つの紋、同拍ならば扉はひらく》

「三者同調……でも、誓句が足りない」

 リアが首を振る。

「最後の欠片が必要です」


「待って」

 フローリアが床に膝をつき、氷に耳を当てた。

「……この壁の下、かすかな拍。小さな碑が隠れてる」


 分岐の陰に、掌ほどの六花が埋まっていた。埃を払って、俺は触れた。


 ――昼の光、白い都。人と精霊が同じ水場で笑い、母音が生活の音に溶けている。

 二人の声が重なる。

『われらとなる。痛みは分かち、名は重ねず。奪わず、閉ざさず、ただ隣に在る。』

 胸の《炎紋》が白金に揺れ、細い記号がひとつ、奥に刻まれるのを感じた。同時に、視界の端を少年の横顔がかすめる。俺に似た――いや、鏡越しの俺のような。


「レオン?」

 ミルの声で我に返る。

「大丈夫だ。……行こう」


 後方で鈴が二度鳴った。距離が詰まる音。

「五十秒、稼ぐ」

 ゼルフィアが指を弾き、回廊の角に罠雷を置く。

「足音は散らす」

 ミルが風層を滑らせ、カイが脇道へ偽の足跡を描いた。


「今です」

 エリシアが鏡扉の前に立つ。

 俺は均熱の拍を整え、フローリアは六花を灯す。王女は胸に手を置き、混血の紋を明かした。


 三つの鼓動が――合う。


 扉は白く曇り、やがて薄く透けた。奥に雪原と灯の街が覗く。現実の地勢とは違う相貌。息を呑んだ瞬間、胸の奥で誓句が鳴り、意識が引かれる。


 ――雪の光、澄んだ呼び声。

 だれかが、俺の名を呼んだ気がした。

 いや、似ている。

 レオ――


 扉の向こうの光に、視界がほどける。

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