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精霊契約でパーティー追放されたけど、今さら戻ってこいとか言われても遅い!  作者: 夢見叶
第6章 氷の王国と契約の少女

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第3話 氷精霊の囁き

 ――風が、消えた。


 城外の雪原に出て、三つ数えたところで世界から音が抜け落ちた。

 降り続く雪が、まるで宙で止まっているみたいに静かだ。吐いた息だけが白い靄になり、すぐ潰れて消える。


「無音帯ですね」

 リアが囁いた――はずだが、音は耳より先に皮膚へ触れた。

 カイが目で合図を送る。ここからは身振り手振りだ。


 胸の《炎紋》に意識を落とす。微かな熱の脈を放つと、空気の層が反応して、見えない壁に跳ね返った。

 反射の遅れ――あっちだ。


 ゼルフィアが指を二回弾く。青白い放電が輪になり、方角を固定する。

 ミルは足元の雪に薄い風の膜を敷いて、踏み跡を拡散させる。

 リアは杖を胸に抱え、祈りで精霊素の逆流を抑える。封印がこちらを「敵」と誤認しないように。


 無音の中心へ進むほど、肌の内側が冷えていく。熱を奪われているのではない。世界の温度が、こちらの鼓動を測っている――そんな感じだ。


 白い斜面が終わった場所に、それはあった。

 雪面に刻まれた、花弁状の氷。六枚の花びらが、幾重にも重なって輪を作っている。

 中心は薄氷の鏡。そこに、少女の影が眠っていた。両手を胸の前で組み、凍った睡りの中で呼吸だけをしている。


 氷の輪の縁に、微かな紋路が走っている。

 協会の刻印で見慣れた角ばった線と、古い、曲線の祈りが絡み合い、ところどころでねじれていた。


「原式は解凍=再生。……上から凍結=隔離で書き換えられています」

 リアの指先が、古い祈りの母音をなぞる。

 協会は壁を作るのが得意だ。世界が繋ぐための門に、鍵ではなく扉を重ねる。


 ――たす、けて。


 声は、音になりきれない息で届いた。薄氷の鏡の奥から、胸の奥へまっすぐ来る。

 俺は花弁の輪の前に膝をつき、掌を鏡へ近づけた。


「待て。アラームが走る」

 ゼルフィアの電光が、結晶の縁で小さく跳ねた。やつの言うとおり、空気の奥で鈴の芯が震え始める。

「音の輪郭は私が削る!」

 ミルが風層を厚くし、鈴の高音をやわらげる。

 リアは息を吸い、古の母音をひとつ、置いた。祈りは、音楽より静かで、刃より鋭い。


 俺の胸で炎紋が熱を返す。痛みじゃない。試されている。

 「独りじゃない」

 と示さなきゃいけない種類の扉だ。


 肩に温い手が触れた。リアが祈りを俺に分かち、輪の外、ゼルフィアとミル、そして後方のカイの気配が線で繋がる。

 ――契約は、独りでは結ばれない。


「行く」

 掌を薄氷へそっと置く。炎紋の色が金紅から、白金へゆっくり転じた。

 氷の中の紋路が、花脈みたいに明滅する。


 リアの母音が二つ。ゼルフィアが微振動で六度、数を刻む。

 花弁が一枚、音もなく外側へ翻った。

 また二つ。二枚目が開く。

 呼吸を合わせ、薄氷の花をひらいていく。

 五枚、六枚――氷の花は満開になった。


 最後の中心が、すうっと溶けるでも砕けるでもなく、ただ形をほどいた。

 青銀の髪が流れ、氷色の瞳がゆっくり開く。

 少女が現れた。裸足。肌の表面に微細な結晶が羽衣のように浮き、吐く息が鈴の余韻を残す。


 膝が崩れかける。俺は支えようと手を伸ばし――指先に、冷たい薄膜が触れた。

「……ふれないで」

 囁き。拒絶というより、守るための距離。

 でも彼女の視線が俺の胸の炎紋に止まると、その尖りがほんの少し鈍った。


 世界の温度が一段、下がる。無音帯の沈黙が戻り、結晶の輪は役目を終えたみたいに淡く薄れた。


「レオン、時間がない」

 カイの声が、今度はちゃんと耳に届いた。

 街の方角で、刻印検査の鏡が霜色に光ったのが遠目にも分かる。解除の位相を拾われた。

 城壁の上で、氷鎧の巨影――封印守スヴァルドが、顔を上げる気配がした。


 少女の周りに残った封氷陣の残響が、静かに崩れる。雪に六花の紋が一輪、濃く残った。


 俺は名を名乗ろうと口を開き――先に彼女が、息を吸った。


「……封印を解いてくれた……あなた、何者?」


 氷の瞳が、まっすぐこちらを射る。警戒、戸惑い、そして一滴の興味。

 応えようとした瞬間、遠くで氷の鼓動が鳴った。低く、重い脈動。

 少女――彼女は眉根を寄せ、睫を震わせる。


「……王が……目覚めようとしている」


 氷精霊王。ここを支える根だ。封印の脈が乱れているということは――。


「ね、ねえ、また変なの増えた?」

 ミルが小声で言い、空気がほんの少しだけ軽くなる。

 ゼルフィアが短く笑って、すぐ真顔に戻った。

「撤収ルートは確保済み。だが追跡は来る。選べ、レオン」


 俺はうなずき、少女へ手を差し出す代わりに、言葉を差し出した。

「俺はレオン。精霊の契約者だ。……君をここから連れ出す。名を教えてくれ」


 青い睫が一度だけ伏せられる。

 鈴の余韻のように、か細い音が名前の形を作った。


「……フローリア」


 無音帯の雪が、午後の光みたいにきらめいた。

 凍った夜が、わずかに緩む。

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