第24話 別れと旅立ち
――砂の地平線が、金色に染まっていく。
夜の冷たさが少しずつ薄れ、朝の光が灰の砂漠を照らし始めていた。
戦いの爪痕はまだ深く残っている。
焦げた地面、崩れた建物、そして焼けた風。
それでも、どこかで確かに“再生”の匂いがした。
俺たちは街の外れ、小さな焚き火の前に集まっていた。
ミルは腕を組み、ゼルフィアは無言で空を見上げている。
リアは祈りを捧げるように手を組み、目を閉じていた。
そして――その炎の前に、イグニスがいた。
「……どうやら、我の役目もここまでのようだ。」
その声は穏やかで、いつになく静かだった。
焚き火の炎が、彼の姿を透かすように揺れている。
「役目って……どういうことだよ。」
問いかけながらも、胸の奥で嫌な予感がした。
イグニスはわずかに笑った。
「炎帝の契約が果たされた。怒りの火も、もう鎮まった。我が核も休息を求めている。だから、少し眠るとしよう。」
「眠る? おい、勝手にそんな――」
思わず声が荒くなる。
まだ聞きたいことが山ほどあるのに。
まだ、一緒に見たい景色がたくさんあるのに。
イグニスは首を振って、俺の言葉を遮った。
「師に頼る弟子は、成長できぬぞ。」
そう言って、俺の胸に手を当てた。
熱が伝わる。いや、熱ではない。
炎そのものの心臓が、鼓動と共に打ち込まれるような感覚。
「我が炎はお前に託す。迷ったときは燃やせ。怒りのためではなく、信じるために――な。」
胸の中がじんわりと熱くなった。
痛くないのに、涙が出そうだった。
「イグニス……お前、まさか……」
「フッ、案ずるな。死ぬわけではない。ただ少し……静かな夢を見るだけだ。」
焚き火の炎がふっと強くなる。
イグニスの輪郭が淡く光り始めた。
「レオン。お前の炎は、もう一人の炎帝のそれとは違う。破壊ではなく、命を繋ぐ炎だ。……それを誇れ。」
「……ありがとう。お前がいたから、ここまで来られた。」
イグニスが目を細める。
「礼は無用だ。弟子が強くなれば、それで充分だ。」
炎が風に乗って舞い上がる。
光が砂漠を包み、温もりだけが残った。
「行け、レオン。世界はまだ……終わってなどおらぬ。」
最後の言葉と共に、イグニスの姿は光の粒になって消えた。
その光が胸に吸い込まれていくのを、俺はただ見ていた。
涙が頬を伝った。けれど、不思議と悲しくはなかった。
――炎は、消えてなどいない。
「……行っちゃったね。」
ミルがぽつりと呟く。
「でも、きっと見てるよ。」
ゼルフィアが微笑んだ。
「お前の胸の炎が、その証拠だ。」
俺は小さく頷いた。
胸の奥で《永久契約の炎紋》が微かに脈打つ。
あたたかい。まるで鼓動みたいに。
そのとき、リアが前に出た。
杖を胸に抱え、真っすぐこちらを見つめてくる。
「……私も、行きます。」
「え?」
リアの瞳には、迷いのない光が宿っていた。
「私は祈祷師として、精霊を信じてきました。でも、ダリオさんやイグニスを見て、思ったんです。信じるだけじゃ、届かない真実があるって。――この目で、精霊たちの真実を見たい。」
その声には、覚悟があった。
俺はゆっくりと頷く。
「なら、一緒に行こう。リア。」
「……はい。レオンさん。」
ミルが手を腰に当て、にやりと笑う。
「やれやれ、また真面目なのが増えたわね。」
ゼルフィアが笑う。
「素直に嬉しいって言えよ。」
「うるさいっ!」
そのやり取りに、思わず笑みがこぼれた。
――ああ、きっとこれが“仲間”ってやつだ。
夜明け前。
俺は一人で砂丘に立っていた。
空の向こう――北の方角に、白い光の帯が見える。
まるで、氷の風が空を裂くようなオーロラの輝き。
「……あれが、氷の心臓のある場所か。」
風が頬を撫でる。
胸の炎が静かに脈を打った。
「イグニス。……お前の炎、ちゃんと繋げてみせるよ。」
リアが後ろから歩いてくる。
「行きましょう、レオンさん。旅は、もう始まっています。」
俺は振り返り、頷いた。
「そうだな。」
遠く、東の空が赤く染まる。
ミルとゼルフィアが荷を背負い、手を振っていた。
笑顔の向こうに、確かな希望が見えた。
炎の物語が終わり、氷の伝承が始まる。
旅はまだ続く。
でも、今の俺たちなら――どんな運命だって越えていける。
そう信じられる朝だった。
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