第23話 協会の再始動
――王都の鐘が、夜を裂いた。
月明かりの下、聖導院の尖塔が静かに光を放っている。
昼間は祈りの声で満ちるこの場所も、夜になると息をひそめる。
蝋燭の炎の揺らめきだけが、廊下の石壁に影を踊らせていた。
私は、その影の中を歩いていた。
あの日、あの戦いの報告を抱えて。
――炎帝、討伐。
紙の上では、それだけの言葉。
けれど私の胸には、どうしようもない痛みが残っていた。
レオン。あなたは本当に、彼を倒したの?
それとも――救ったの?
聖導院の最奥。
黒曜石の扉を押し開くと、重い冷気が流れ込んできた。
そこにいたのは、協会元帥ゼファード。
漆黒の外套を羽織り、長い銀髪を肩に流した男。
あの人はいつだって静かで、そして恐ろしく正しい。
「……久しぶりですね、元帥殿。」
私がそう言うと、彼は視線だけをこちらに向けた。
「炎帝は、倒れたそうだな。」
「はい。報告どおり、レオン=アークライトが止めを。」
「……レオン。」
その名を口にした彼の声は、まるで味わうように低く響いた。
「奴はやはり器だったか。」
「器?」
「世界の理を繋ぐ、精霊核の器だ。」
その言葉に、私は息を飲んだ。
「……あなた、またあの研究を続けていたのね。」
「やめた覚えはない。」
ゼファードは机に広げた地図を指でなぞった。
北方の白い大陸、そこに刻まれた古い印章。
「古の記録によれば、精霊核は氷の地に封印されている。
ダリオが触れたのは、炎の断片に過ぎん。」
私は震える声で問い返す。
「……氷の心臓……本当に存在するの?」
「存在するとも。次はそこだ。」
彼の目が細められる。
氷のように冷たく、それでいて狂おしいほどの確信が宿っていた。
「でも、それは――危険すぎます。世界の理に手を出せば、何が起きるか……!」
私がそう言うと、ゼファードはふっと笑った。
「世界など、とうに壊れている。我らはただ、正しい姿に戻すだけだ。」
静かな声だった。怒りも迷いもない。
だからこそ、恐ろしい。
「あなたの正しいが、誰かの破滅になるかもしれないのに。」
「破滅もまた秩序だ。炎が燃え、灰が風に還るようにな。」
私は言葉を失った。
ゼファードの思想は、まるで炎帝のそれに似ていた。
だが彼の炎は、冷たく凍りついている。
ゼファードは地図を閉じ、私に背を向けた。
「明日から北方遠征の準備に入る。第二階梯聖騎士団を動員し、氷の巫女を探せ。」
氷の巫女――その言葉に心が跳ねた。
「……巫女?」
「氷の心臓の守護者だ。もし彼女が核の鍵なら利用する。従わぬなら――封印だ。」
彼の声に、一片の迷いもなかった。
「ゼファード……あなたは、本当に神を信じているの?」
そう問うと、彼は短く答えた。
「信じているとも。だが――その座は、奪い取るものだ。」
私はそれ以上、何も言えなかった。
ゼファードは部屋を出て行き、重い扉が閉まる。
残されたのは、私と、消えかけた蝋燭の灯だけ。
壁にかかった聖印を見つめながら、思わず呟いた。
「……レオン。あなたたちは、どうか間に合って。この狂気が世界を覆う前に。」
翌朝。
王都の空に、聖導院の旗が翻る。
鐘の音が鳴り響き、聖騎士団が北方遠征の準備を始めた。
雪用の装備、輸送艦、祈祷魔具。
すべてが整い、ただ命令を待つばかり。
私は塔の上からその光景を見下ろしていた。
朝の冷たい風が頬を撫でる。
遠く、北の空に白い光が瞬いた。
「氷の心臓……」
手の中に残る古い記録書を握りしめる。
あの文字には、確かに“精霊核”の名があった。
「……世界の答えは、そこにあるのね。」
私は空を見上げた。
遠くの光の先――きっと、彼も同じ空を見ている。
「レオン。あなたの炎が、私たちの未来を照らしますように。」
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