第20話 ダリオの最期
――朝の光が、灰の大地を照らしていた。
風は、あの夜よりもずっと優しかった。
焦げた匂いがまだ残っているのに、不思議と温かい。
まるでこの世界がようやく呼吸を取り戻したみたいだった。
俺は、ダリオの手を握っていた。
冷たくて、それでも微かに温もりが残っている。
指先が、わずかに震えていた。
「……ダリオ?」
呼びかけると、彼のまぶたがかすかに動く。
焦点の合わない瞳が、ゆっくりと俺を見上げた。
「……よぉ、レオン……」
かすれた声。
喉が焼けつくような、弱々しい呼吸。
それでも――笑っていた。
「無理するな。もう喋らなくていい。休んでいいんだ。」
「バカ言うな……まだ……言っとかねぇと……な……」
声は掠れていたけど、いつものダリオだった。
強がりで、意地っ張りで、最後まで俺を心配させる。
「……俺は……あのとき、怖かったんだ。」
その言葉に、息を呑んだ。
ダリオは天を見つめたまま、ゆっくりと続ける。
「力を手に入れれば……守れると思ってた。だけど……気づけば、みんなを……燃やしてた。」
苦しそうに笑う。
乾いた血の跡が口元を汚していた。
「お前が……戻ってこいって言ったとき……
嬉しかった……けど……それ以上に、怖かった。」
レオンの手に、力がこもる。
俺は答えた。
「……そんなの、当たり前だ。誰だって怖いさ。俺だって何度も逃げた。でも、それでも……あんたは来たじゃないか。ここに。」
ダリオが小さく息を吐く。
そして、微笑んだ。
「……そうだな。俺だけが……信じられなかった。……仲間を……自分を……」
沈黙が落ちた。
風が灰を巻き上げ、リアの祈りの炎が柔らかく揺れる。
その炎の光が、ダリオの顔を照らしていた。
燃やすための炎じゃない。
優しく包み込む、祈りの光。
その光の中で、ダリオが俺を見た。
もう焦点が合っている。
その瞳の奥に、確かな意思が宿っていた。
「……レオン。」
名前を呼ばれた瞬間、胸が痛くて呼吸が止まった。
「お前だけは……信じてよかったのかもな。」
言葉が途切れる。
でも、その一言だけで、全部伝わった。
俺は泣き笑いしながら、彼の手を握り返した。
「……遅いよ、バカ。」
泣きながら笑った。
泣いてるのに、笑いがこみ上げてくる。
こんな終わり方、ずるいだろ。
でも、これでいいんだ。
きっと、これが“赦し”なんだ。
ダリオは、ふっと目を細めた。
どこか懐かしそうに、優しい顔で。
「……ああ……そうかもな。」
そのまま、ゆっくりと息を吐いた。
穏やかに。
まるで眠るみたいに。
祈りの炎が揺れ、風が吹き抜ける。
リアが杖を胸に抱き、静かに呟いた。
「……炎は、魂を天へ導く。安らかに……」
イグニスが黙って右手を掲げ、小さな金色の炎を生み出す。
それは怒りの紅でも、悲しみの黒でもない。
ただ――温かい光。
その炎が、ダリオの身体を包み込んだ。
ミルが息を詰め、ゼルフィアが膝をつく。
俺はただ、その光景を見ていた。
燃えていくはずの炎が、不思議と静かだった。
まるで、彼自身が穏やかに空へ帰っていくように。
「……ありがとう、ダリオ。」
声が震えた。
だけど、もう涙は止まっていた。
俺は空を見上げた。
灰色だった空が、いつの間にか淡い金色に染まっている。
夜明けの光が、焼け跡を照らしていた。
金色の炎が風に乗って舞い上がる。
まるで、空のどこかで笑っているみたいに。
「お前がいたから、俺はここまで来れたんだ。」
呟くと、胸の奥がじんわりと熱くなった。
その熱は悲しみじゃない。
まだ生きている証のような――確かな“炎”だった。
背後でミルが涙を拭う。
「……もう、泣いていいんだよ。」
その言葉に、俺はようやく頷いた。
静かに目を閉じ、ダリオの手を握り締める。
指の隙間から、金色の光が溢れた。
やがてそれはふっと消え、風に溶けていく。
そして、空に一筋の光が走った。
「……さよなら、ダリオ。」
風が止み、世界が一瞬だけ静止した。
その静けさの中で、確かに聞こえた気がした。
――もう大丈夫だと。
そして、空に金色の炎が瞬いた。
まるで、彼の魂が微笑みながら天に昇っていくように。
俺は空を見上げたまま、目を閉じる。
心の奥で、確かに何かが終わり――そして始まった気がした。
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