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精霊契約でパーティー追放されたけど、今さら戻ってこいとか言われても遅い!  作者: 夢見叶
第5章 灼熱の灼熱の砂漠と炎帝の影

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第19話 崩壊の静寂

 ――風の音だけが、残っていた。


 あれほど荒れ狂っていた紅蓮の嵐が止んで、どれくらい経ったのだろう。

 空はまだ黒煙に覆われているのに、不思議と夜明けの光だけは確かに差し込んでいた。


 俺は立ち尽くしていた。

 焼け焦げた大地の上、焦げた鉄の匂いと、乾いた砂の感触だけが確かにある。

 あの激闘が嘘みたいに、世界は静かだった。


 音がしない。

 叫び声も、炎の咆哮も、もうどこにもない。


 「……静かだな。」


 呟いた言葉が、風に溶けて消える。

 あまりにも静かすぎて、自分の声すら異物に感じた。


 少し離れた場所で、ミルが小さく座り込んでいた。

 焦げた髪を風に揺らしながら、瓦礫を見つめている。

 ゼルフィアは、折れた雷刃を拾い上げていた。刀身の表面はひびだらけだ。

 イグニスは無言で火を灯し、周囲を見回していた。彼の炎だけが、まだ温もりを持っていた。


「……終わったんだよね?」

 ミルの声が震えていた。

 俺は答えられなかった。


 終わったと口にした瞬間、本当に全部が終わってしまいそうで。

 そう言ってしまえば、あの炎も、あの声も、二度と戻らない気がして。


 風が吹いた。

 焦げた砂塵が舞い、夜明けの空が少しずつ青さを取り戻していく。


 「レオン。」


 低く、柔らかな声がした。

 振り向くと――黒衣の人影が瓦礫の向こうから現れた。


 リアだった。


 白い肌に、淡い金の髪。

 以前と変わらない、祈祷師の服装。

 ただ、その表情だけは、どこか穏やかで、悲しみを飲み込んでいるように見えた。


 彼女はゆっくりと杖を立てると、地面にそっと触れた。


 ――ぼうっ。


 小さな光が灯る。

 炎。けれど、赤くはない。

 それは、透き通るような白だった。


 淡い光が風に揺らめき、瓦礫の隙間を照らしていく。

 その炎は燃え広がらず、ただ包み込む。


「この炎は、悲しみを焼かない。ただ、痛みを包むだけ。」

 リアが静かに言った。


 その声に呼応するように、光が増えていく。

 倒れた兵士たちの身体をやさしく照らし、焦げた鎧の破片を包み込む。

 苦悶の表情さえも、ゆっくりと穏やかに変わっていく。


 まるで、悲しみごと赦していくような炎だった。


 ミルが両手を合わせて祈る。

 ゼルフィアは膝をつき、静かに頭を垂れた。

 イグニスは腕を組んだまま目を閉じ、「……悪くねぇな」と小さく呟いた。


 俺は、ただその光を見つめていた。


 ――燃やすためじゃない炎。

 ――憎しみを消すための光。


 あのダリオが求めていたのは、本当はこういう炎だったのかもしれない。

 誰かを焼くための力じゃなくて、守るための灯火。


 胸の奥が熱くなった。

 だけど、それは痛みでもあった。

 燃やすような熱じゃない。

 喪失の熱だ。


 リアが杖を下ろし、俺の方を見た。

 その瞳は、まっすぐだった。


「彼の魂は、まだここに留まっています。……行ってください。」


 声は静かだったけれど、そこには迷いがなかった。

 「あなたになら、まだ届くはずです。」


 俺は息を整え、うなずいた。

 全身が痛む。焦げたローブが崩れ、杖もひびだらけだ。

 それでも、足を動かした。


 瓦礫を踏み越え、一歩、また一歩。

 風が吹くたびに、灰が舞い上がって視界が白く霞む。

 それでも俺は前に進んだ。


 ――たどり着かなくちゃ。

 あの人のもとへ。


 街の中心――かつて広場だった場所。

 今は、何も残っていない。


 焼けた石畳。崩れた噴水。

 焦げた柱の影の中に、彼はいた。


 ダリオ。


 紅蓮の鎧は砕け散り、腕には黒い焦げ跡が走っている。

 それでも、その顔は穏やかだった。

 炎に焼かれたはずの肌は、どこか温かそうで――まるで眠っているようだった。


「……ダリオ。」


 膝をついて、そっと手を伸ばす。

 その手は冷たかった。けれど、完全に死の温度じゃない。

 微かに、脈がある。


 俺の喉が詰まった。

 あのときのままだ。

 何度も傷だらけになって、それでも前に進む。

 この人は、最後まで“炎帝”だった。


「……聞こえるか? また勝手に無茶して……お前らしいよ、本当に。」


 笑おうとした。

 でも、うまく笑えなかった。

 涙が頬を伝って落ちた。


 背後で、ミルが小さくすすり泣く声がした。

 ゼルフィアは唇を噛みしめて、拳を強く握っている。

 イグニスは何も言わなかった。ただ静かに見守っている。

 リアが一歩近づき、再び祈りの炎を灯す。


 白い炎が、ゆっくりと俺たちを包み込む。

 風が吹いて、灰が舞い上がる。

 まるで、炎が空へ還っていくようだった。


 俺はダリオの手を強く握った。


「……もし、赦しってやつがあるなら。

 せめて最後に――笑ってくれよ。」


 声が震えた。

 でも、言わなきゃいけなかった。

 あの人が、誰よりも人を想っていたことを、俺は知っているから。


 そのときだった。


 ダリオの指が、かすかに動いた。


 俺は息を呑んだ。

「……ダリオ!?」


 彼のまぶたが、ゆっくりと震え、開いた。

 その瞳が、俺を捉える。

 燃えるような赤じゃない。穏やかな橙――人間の色だった。


 その視線が、確かに俺を見ていた。


 胸の奥が、ぐしゃりと潰れるように痛む。

 喉の奥で、言葉が崩れた。


「……ダリオ、もう、喋らなくていい。今は……もう、何も言わなくていいから。」


 俺の手を握り返す力が、ほんの少し強くなった。

 その温もりだけで、もう十分だった。


 風が静かに吹いた。

 白い炎が空に溶け、灰が金色の光を帯びる。


 夜明けの太陽が、焦げた街を照らしていた。

 長い夜が終わり、世界が少しずつ色を取り戻していく。


 俺は、彼の手を握ったまま、空を見上げた。


「……朝だ。」


 もう、誰も戦わなくていい朝が来たんだ。

 それだけで、涙が止まらなかった。

 最後までお読みいただきありがとうございます。


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