第15話 カイの決断
炎都アグナは、もう街としての姿を保てていなかった。
建物が次々と崩れ、砂と炎の混じった黒煙が空を覆い隠している。
熱気で視界が揺らぎ、呼吸さえ焼けつくようだった。
ダリオの暴走は、もはや手の届かない領域へ突き進んでいた。
精霊たちの悲鳴も、次々と途切れていく。
俺の胸に、怒りと焦りが渦巻いていた。
「くそっ……! このままじゃ全部……!」
その時だ。
後方の魔導装置に取りすがり、魔力回路を解析する影が一つ。
カイだった。
「カイ!? 何してる!」
振り返ったカイの顔は、いつになく真剣で――どこか諦めの影を帯びていた。
「暴走源の装置を逆位相で動かす。そうすれば……奴の炎を抑えられる」
「でも、それは――」
「ああ。制御役は、焼ける」
その言葉が胸に突き刺さった。
カイの魔力回路はすでに限界に近い。
そんな真似すれば――命だって危ない。
「やめろ! そんな――」
「俺がやる」
即答だった。
一切の迷いもない声だった。
「……どうしてだよ……!」
俺の叫びが、ただ虚空に溶ける。
カイは淡く笑ってみせる。
いつもみたいな皮肉混じりの笑みではなかった。
――穏やかで、優しい笑みだった。
「仲間だからだよ。俺は……守りたいって思ったんだ」
ミルが震える声で叫ぶ。
「勝手に背負うなよ! 仲間だろうが!!」
「ミル……」
カイは肩を震わせ、ほんの少しだけ目を伏せる。
「仲間だから……背負えるんだ」
その言葉は、優しすぎた。
俺たちは結局――こいつに頼ってばかりだった。
「カイ、頼む……やめてくれ」
「レオン。君は、前だけ向いてろ」
それだけ言い残し、カイは装置に手を伸ばした。
バチィィィィンッ!!
「――っ!」
魔力が逆流し、紫電が迸る。
皮膚が焦げ落ちる音すらした。
カイの喉から漏れる苦痛の吐息。
それでも――叫び声は上げなかった。
「これで……少しは冷めただろ……?」
確かに、炎圧が一瞬だけ弱まった。
避難していた人々が、その隙に逃げ切る。
「カイ! しっかりしろ! おい!」
俺が駆け寄ると、カイはゆっくり崩れ落ちてきた。
全身が焼け焦げ、呼吸は浅い。
「……これで……良かったんだ……俺も……何か……出来た……」
ミルが涙を溢れさせ、カイの胸元を掴む。
「バカ! なんで……どうして……! 勝手に無茶すんなよ……っ!!」
小さな手が震えていた。
その震えが、俺の心を切り裂く。
「頼む……死ぬな……まだ終わってない!」
叫びは炎の轟音に掻き消される。
それでも、止められなかった。
「俺は……お前を……失いたくない……っ!」
しかし――カイの目は半ば閉じ、焦点が定まらない。
「……大丈夫……だって……レオンが……前に進むって……信じてる……」
そう言って笑おうとするが、血が口元を赤く染めるだけだった。
「カイ! 意識を保て! おい!」
「……任せたよ……エース……」
その囁きは、あまりに小さかった。
でも――耳の奥で一生忘れられないほど強く響いた。
その瞬間。
ズズズッ……!
俺たちの背後で、黒い波動が膨れ上がった。
振り返ると、ノワールが膝を抱えるようにして震えている。
「ノワール……?」
顔を上げた彼の瞳は――闇に侵され、真紅に染まっていた。
「俺は……誰だ……? 影……じゃない……俺は……」
その声は、ノワールのものではなかった。
「待てノワール! しっかりしろ!」
闇が噴き上がる――
黒炎となって夜の空へ伸び上がる。
「やめろ!! みんなを……守りたいんだろ!!!」
しかし届かない。
彼は闇の中で――崩れ落ちていく。
「う……あ……おオオオぉぉッ!!」
その叫びは、心が壊れる音だった。
ダリオだけじゃない。
ノワールまで奪われるというのか。
俺の足は震えていた。
悔しさで、怒りで、恐怖で。
でも――それでも俺は叫ぶ。
「お前はノワールだ! 俺の……仲間だ!!!」
砂漠の夜に、俺の声だけが虚しく響いた。
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