第11話 レオン、イグニスと契約す
──熱い。
目を開けると、そこは真っ赤に染まった異空間だった。足元には地面もない。ただ燃え盛る炎の海が広がり、天井すら存在しない。吐き出す息も炎となり、視界が揺れる。
「……ここは?」
俺が問うと、炎の中から巨大な影が立ち上がった。黒曜石の如き角、燃える鬣、双眸は溶岩よりも濃く赤い。
『試練の間だ。我が名は──イグニス』
炎帝。かつてダリオが求め、しかし拒絶された精霊王。
『契約を望むのか、人の子よ』
「……望む。あいつを……止めなきゃならない」
『生半可な覚悟では焼き尽くされるぞ。さあ──証を見せよ』
イグニスの足元から炎が噴き上がり、世界が捻じ曲げられる。
次の瞬間、俺は見覚えのある村に立っていた。
あの、追放の日。
燻んだ視線。嘲笑。突き刺さる言葉。
『精霊も扱えない役立たずが』
『出ていけ、村の恥さらし』
耳を塞ぎたいほどの蔑み。
でも、足はすくみ、喉が震えて声が出ない。
あの日の自分が、無様に俯いている。
逃げることしか、できなかった。
「やめろ……やめてくれ……!」
炎が過去の幻を照らし、俺の弱さを赤裸々に映し出す。
『この程度か? 貴様はまた逃げるのか?』
違う。違うんだ。
でも──心が軋む。
別の幻が現れる。
ダリオの背中。
暴走し、炎に呑まれていく友。
叫び声すら届かない地獄。
俺はまた、無力のまま立ち尽くしている。
──助けたいのに!
膝が折れた。指先が震える。
俺はこのまま、何度も同じ後悔を繰り返すのか?
苦しさに意識が沈みかけた、その時。
『……おい、レオン』
聞き慣れた声が、頭の奥から響いた。
『そんなとこで座り込んでんじゃねえよ。お前、私の契約者だろ?』
「ミル……?」
『あいつを助けたいんだろ。だったら立てよ、バカ!』
胸の奥が熱くなる。
ミルが……俺を呼んでいる。
置いていかれたくない。
失いたくない。
「俺は──」
ゆっくりと、地を踏みしめて立ち上がる。
「俺は……もう逃げない!!」
その言葉を吐き出した瞬間、幻が炎となって砕け散った。
炎の海が再び視界を満たし、イグニスが俺を見下ろす。
『ほう──その心、灼熱に値する』
鼓動が荒ぶり、血管が燃え上がる。
ミルの羽根が背から迸り、炎の粒子が俺を包む。
『名を呼べ。我が力、解き放つ鍵となろう』
俺は拳を握りしめ、叫んだ。
「俺は、レオン・アークライト! 炎帝イグニス! 俺と共に来い!!」
真紅の炎柱が天まで突き抜け、視界を焼き尽くす。
『契約成立だ、人の子。その魂、我が炎と共に──』
炎の王が咆哮し、俺の体に宿る。
激痛と共に、全身の魔力が沸騰するように膨れ上がった。
「ぐっ……! ああああああ!!」
皮膚の内側で火が暴れ、骨すら灼く。
でも──熱いほど、俺は生きていると実感した。
『立て、レオン。戦いはまだ終わらん』
目を開くと、現実世界。
崩壊しかけた大広間。
紅蓮の巨躯と化したダリオが、狂ったように吠えていた。
──今、間に合った。
「待ってろ、ダリオ。絶対に……助ける」
俺の背で、風が渦巻いた。
『遅ぇぞ、契約者!』
ミルが現れ、いつもの悪態をつく。
でもその声が、涙が出るほど嬉しかった。
「行こう、ミル」
『ああ! 全部吹き飛ばしてやろうぜ!!』
俺の剣が、紅蓮に燃え上がる。
風と炎が共鳴し──新たな力が目覚めた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
「面白かった!」
「続きが気になる、読みたい!」
「今後どうなるのっ……!」
と思ったら
下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!
ブックマークすると更新通知が受け取れるようになります!
ブクマ、評価は作者の励みになります!
何卒よろしくお願いいたします。




