第10話 炎帝の暴走
熱い――では足りなかった。
皮膚を刺すどころか、血の一滴さえ沸騰させるような灼熱が、儀式場全体を包み込んでいた。
空気を吸い込むたび、喉が焼け落ちて声を失いそうになる。
なのに、俺は叫んでいた。叫ばずにはいられなかった。
精霊たちの悲鳴が聞こえるからだ。
「レオン! 制御しろ、魔力が暴れてる!」
カイが必死に詠唱の手を止めない。
額から流れる汗が、床へ落ちる前に蒸発した。
視界が滲む。歪む。
その向こうに――俺が決して忘れられない顔があった。
「……ダリオ……」
紅蓮の渦の中心。
そこには、人の形をかろうじて残した怪物が立っていた。
皮膚はひび割れ、赤黒く焦げ、
肉の隙間からは炎が漏れ出す。
その目だけが、人間だった頃以上にギラついている。
「ハ……ハハ……ハハハハハァア!!」
狂気が、笑い声の形をして飛び散る。
それはまるで――
奪った命への勝利を誇示するようだった。
「やめろ、やめてくれ……ダリオ!」
そう叫ぶ俺のすぐ横で、
小さな火の精霊が、ダリオの魔力の余波だけで弾き飛ばされ――
床に叩きつけられた瞬間、火が消えるように消滅した。
断末魔すら残せない。
残るのは、焼け焦げた悲鳴の残滓だけ。
そのとき――
――レオン。
――お願い。
――苦しい。
声が、頭の奥で直接鳴る。
言葉の意味ではない。
純粋な恐怖と、助けを求める“感情”の泣き声。
俺は歯を食いしばる。
奥歯が砕けそうなほど強く。
「精霊たちが……泣いている……!」
リアの膝が崩れ落ち、
祈りを捧げながら涙を流していた。
彼女の肩を抱く小さな火の精霊たちも震えている。
炎すら、恐怖に震えられるのか――
今、その答えを見せつけられていた。
この地獄を作り出している男。
かつての親友。
「やめるつもりは……ないのか」
「やめる!? なぜ俺が!?」
ダリオは口を裂けるほど笑う。
「俺はお前より強い!俺は選ばれた!俺は! 炎帝に! 認められるはずだった!!」
吐き捨てるような恨み。
それは――
俺に向けられた嫉妬の炎。
「お前が……邪魔をしたんだよ、レオンォオ!!」
轟音と共に烈火が飛び散り、
何十体もの炎精霊が吹き飛び、燃え潰れ、砕け――消える。
――痛い
――もう嫌だ
――死にたくない
泣き声が、脳を掻きむしる。
何度目かもわからない叫びが、俺の喉を裂いた。
「ダリオォォォッ!!」
怒りが、体内の魔力を破裂させる。
儀式場の床石が砕け、
赤い光が俺の足元から噴き出し、
大気が唸った。
「レオン!
そのままじゃ、お前も暴走する!!」
カイの声が焦りで震える。
ミルが俺の腕を強引に掴んだ。
「レオン、目を開けて!アンタの炎は、壊すためのものじゃない!」
「……ミル……?」
「怖いなら、私が隣にいる! だから……一緒に進むんでしょ!?」
握られた腕から、熱くない温もりが伝わる。
それは、俺がまだ人間である証。
だが――
「クク……ハハハハハァ! 見ろォレオン! これが選ばれた力だ!!」
ダリオが吠え、炎が爆ぜる。
祭壇に捧げられた炎精霊たちが、次々と炎の中で形を失う。
燃える魂の匂いが、鼻を突く。
もう耐えられなかった。
「イグニスッ!! 聞こえてるんだろう! 力を……力を寄越せぇぇッ!!」
叫んだ瞬間。
世界の色が反転し――
炎が凍りついたように静止した。
空間が割れ、
燃える王冠を戴く何かが姿を覗かせる。
その声は、地鳴りより重く、太陽より熱い。
――その怒りは、何のためだ。
「俺は……!」
言葉が喉に詰まりそうになりながら、
吐き出す。
「俺は、精霊を……仲間を……救いたいんだ!!」
静寂。
その後……
炎帝は、低く響く声で告げた。
――では、燃えよ。
渇望のままに。
憎悪を焦がし、願いを鍛えろ。
その心、試させてもらう。
足元が崩れ、意識が灼熱に沈む。
炎の底へ――底へ――さらに底へ。
「レオンッ!!」
ミルの声が遠ざかる。
リアの祈りが揺れる。
精霊たちの悲鳴が薄れていく。
最後に聞こえたのは――
――負けるな。
――貴方は……火を灯す人。
――レオン。
その声を胸に、俺は闇ではなく、炎の世界へ堕ちた。
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