第8話 炎帝イグニスの声
――炎帝の遺跡。
足を踏み入れた瞬間、胸の奥まで灼けるような熱気が襲ってきた。
通路は赤黒く脈打ち、まるで巨大な生き物の体内を歩いているようだった。
壁のひび割れから漏れるマグマが、脈動に合わせて光り、呼吸するみたいに熱風を吐き出す。
「なんか……生きてるみたいじゃん、ここ……」
ミルが不安げに呟く。汗が蒸発して、肌を白い湯気が包んだ。
「生きているさ。この遺跡が、炎帝そのものなのだからな」
ノワールは冷静な口調なのに、剣を握る手だけが強張っている。
とにかく、暑い。
呼吸をするだけで喉が焼けそうだ。
砂漠の昼が涼しく思えるほどの地獄の熱さ。
「ああもう無理ぃ……死ぬ……髪も焦げる……レオン見て、ジュって言ったよ!?」
「俺に見せられても……」
「慰めてよ!? 俺は今めっちゃデリケートな――」
「黙って歩け」
ノワールの一喝が飛び、ミルは情けなく肩を落とした。
……妙に落ち着く。
どんな危険な場所でも、この仲間たちとなら前へ進める――そんな気がした。
そう思った矢先だった。
ドゴォォォォォォォン!!!
地獄の底から響き上がるような轟音。
通路の突き当たり――炎が天へ伸び、巨大な柱を形成する。
その中心に――赤く光る瞳が、俺たちを見下ろしていた。
心臓が圧縮されるような重圧。
耳ではなく、魂が震わされる。
『――問おう』
それは言葉ではなく、存在そのものが響かせた声だった。
『汝――何を求める』
背筋を凍らせるほどの恐怖。
けれど俺は……退けなかった。
思い出す。
苦しむ精霊――助けられなかった命――悔し涙。
あの日の無力な俺の両手に、まだ痛みが残っている。
「……精霊を救うための力を」
喉が焼けているのに、声は震えなかった。
『救う、だと』
炎が膨れ、笑うような音を立てる。
炎の渦が龍のように空を這い回った。
『よかろう。ならば問う。汝――その覚悟を示せ』
俺は一歩前へ踏み出した。
「俺は逃げない。苦しむ精霊を、人を――救えるなら……命だって賭ける!」
ノワールが目を見開く。
ミルは息を止め、リアは静かに微笑んだ。
リアが祈りの姿勢を取る。
その周りに金の光が舞い、炎が俺の周りに渦を描き始めた。
「炎帝イグニス……この者に試練を与え、その未来をお示しください」
熱は痛みを超え、意識が削がれそうだ。
でも、不思議と恐怖は薄れていた。
『ならば――始めよう』
閃光。
世界が裏返るような感覚。
「レオン!!」
仲間の声が遠ざかる。
伸ばされた手が見えた気がする。
でももう、振り返れない。
そのとき――カイの叫びが響く。
「魔導通信に異常! 別の場所で……強制継承が始まってる!」
リアの顔色が青ざめた。
「ダリオ……! 二重継承はどちらかが必ず暴走します!」
激震。
地面が裂け、炎が血管のように走る。
「まずい! レオンを止めるんだ!」
ノワールが叫ぶ。
(……俺は戻る。必ず)
炎が視界を飲み込み、俺は深い闇に落ちていく。
『試練は、すでに始まっている』
炎帝イグニスの声が、消えゆく意識に刺さった。
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