第6話 ダリオの宣告
砂嵐が止む気配はなかった。細かな粒が鎧を叩き、痛みとなって肌に刺さる。俺たちはつい先ほどまで暴走した炎精霊の群れと死闘を繰り広げていたばかりで、ほとんど休む暇もない。
「レオン、まだ来るよ!」
ミルの声に俺は構え直す。しかし、次に迫ってきたのは精霊の気配ではなかった。熱い――いや、あまりに濁った炎の気配。
その炎は、憎悪のような黒さを孕んでいた。
砂の海が波立ち、視界の向こうで火が渦を巻く。
「……嘘、だろ」
黒炎の中から、ゆっくりとひとりの男が姿を現す。焦げたマント、荒んだ目、その奥に宿る常軌を逸した光。
「……やっと見つけた」
低い声が、砂漠を震わせる。
「ダリオ……!」
俺は息を呑んだ。生きていた。その事実に安堵が広がる――が、それ以上に胸を締めつける異様な何かがあった。
あれは、俺の知っているダリオではない。
「ほう……まだ俺の名を呼ぶ余裕があるとはな」
「生きて……いたんだな。ずっと探して――」
「探した? 俺を置き去りにしといて?」
ザッ、と黒い砂煙が立ち昇るほどの怒気。
「全部お前のせいだ、レオン。全部……全部だ!」
その炎は噴き上がり、周囲の砂をガラスに変えた。
「お前が――俺から炎帝の力を奪った!」
「違う! 俺はお前を助けようと――」
「助ける? 滑稽だな!」
ダリオは嗤った。乾き切った喉から無理やり捻り出すような笑いだ。
「俺は選ばれたんだよ……炎帝が俺に力を授けた。あの日の崩落も、俺が試されていたからだ。弱者は焼き払う、それが炎の秩序……!」
「ダリオ、お前は――!」
「黙れッ!!!」
爆炎。砂漠そのものが唸りを上げた。俺は咄嗟にミルとリアを庇い、剣で炎を弾く。だが剣越しに伝わる熱は異常だ。これは精霊の炎じゃない、人の怨念が混ざっている。
「……やはりだ」
ノワールが低く呟く。
「あいつ、炎精霊の力を無理やり喰ってる」
「喰って……?」
「説明は後でいい」
ゼルフィアが一歩踏み出す。
「今は――敵だ」
俺はゼルフィアを手で制した。ここで戦えば取り返しがつかなくなる。ダリオは――友だ。
「ダリオ! あの時、俺はお前を救いたかった! 今だって――!」
「救う?」
ダリオの炎が、狂気の赤で揺らめく。
「救いが欲しいと思ったことは一度もない。欲しいのは復讐だ」
黒炎に照らされる瞳。その奥にあるのは、俺への――憎悪。
「次に会う時、お前たちは灰になっている」
「炎帝の復活が成されたとき、この世界には――火の理だけが残る」
ダリオは背を向け、砂嵐の中へ消えた。
残された熱だけが、未だ俺の喉を焼いている。
「レオン……」
震える声でリアが俺を見上げる。
「彼の中の炎は苦しんでいます。助けを……求めています」
リアの瞳は、炎の光を宿して揺れていた。その小さな手が、かすかに俺の袖を握った。
「精霊たちの悲鳴が聞こえる場所――試練の洞窟に行かねばなりません」
ミルは拳を握りしめ、ゼルフィアは静かに剣を鞘へ納める。
ノワールは俺の肩に飛び乗り、ため息まじりに呟く。
「行くんだろ? あいつを放っておけねぇよな」
……ああ。
俺は拳を握った。
黒く焦げた砂が、指の間からこぼれ落ちる。
(必ず救う。お前が炎帝に心を喰われようとも――絶対に取り戻してみせる)
「行こう。ダリオを救うために」
俺たちは砂嵐の向こうへと歩き出した。
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