第4話 神殿の炎
赤く燃える夕日が、砂漠の果てに沈みかけていた。
風が運ぶ砂粒が肌を刺し、視界をじりじりと赤く染める。
その向こうに――巨大な神殿が姿を現した。
赤い石で築かれた、塔のようにそびえる建造物。
かつて精霊信仰の中心だったという 炎帝神殿だ。
「ここが……」
思わず息を飲む。
この場所の空気には、明らかに異質な熱が混じっている。
隣を歩くリアが、決意を宿した眼差しで振り返った。
「本当は、外部の方をお通ししてはいけないのです。しかし……もう、皆さまの力なしには、どうにもなりません」
その声には、迷いよりも覚悟があった。
「ありがとう、リア。案内を頼む」
リアは小さく頷き、先頭を歩き出した。
参道を進むたび、奇妙な音が耳をかすめる。
ごおおお……と地の底で炎が唸るような、低い震えだ。
割れた石碑、崩れた灯籠。
祈りを捧げるための場が、まるで怒りに荒らされた後のように荒廃している。
ミルが眉をひそめる。
「この神殿……なんか、すごく荒れてない?」
「精霊異常が始まってから、手が回らなくなったのです」
リアが悲しげに答える。
——異常。
その言葉が胸に突き刺さる。
ここにも精霊たちの苦しみがあったのだ。
やがて、巨大な扉の前にたどり着いた。
リアは震える手で祈りの仕草をし、扉へ触れる。
「失礼、いたします……」
重低音とともに扉が開いた瞬間、
俺たちの視界を埋め尽くしたのは――
――燃え盛る巨炎だった。
天井に届くほどの、巨大な火柱。
赤ではなく、黒みを帯びた禍々しい炎がうねり続けている。
ミルが息をのむ。
「な、なにあれ……」
カイの顔が険しくなる。
「魔力濃度が異常だ。自然に燃えてる炎じゃない……魔術で無理やり支えられてる」
背筋に冷たいものが走る。
そして、横から聞こえた低い声がその恐怖を濃くする。
ノワールが炎を睨みつけ、歯を噛み締めた。
「この炎……精霊の力だけじゃねぇ。人の怨念が混じってやがる。誰だ、こんな無茶を……」
怨念の炎。
その言葉を聞いただけで、炎の熱が皮膚を焦がす錯覚が走った。
リアが膝をつき、息を荒げる。
「……っ、炎帝イグニス様が……苦しまれている……封印が……解けかけているのです……!」
炎の奥から、たしかに声が聞こえる。
泣き叫ぶような、助けを求めるような――精霊の声だ。
胸が締め付けられる。
まただ。
また精霊は人間に利用され、傷つけられている。
「……許せない」
握りしめた拳が震える。
「レオン」
ゼルフィアが封印基部の魔術刻印を指し示した。
「この魔術式……王都の塔で一度見たことがある。おそらく、同じ術者が関わっている」
王都の塔――
あの地獄を生んだ男。
脳裏に浮かぶ炎の中の笑み。
ダリオ。
奴が、ここに?
胸の奥で、静かに怒りが燃え上がった。
リアがか細い声で俺の手を握った。
「……お願いです。このままでは炎帝イグニス様は、怨念に呑まれてしまう」
「……絶対に守る」
迷いはなかった。
「火脈を調べないと。封印を維持できなくなる」
カイが地図を広げる。
「夜の砂漠は危険だぞ?」
ミルが不安そうに言う。
「行かなきゃいけない」
自分でも驚くほど、声は強かった。
「苦しんでるなら、助ける。精霊を救うためなら、どこへでも」
リアが驚いたように目を見開き――
次の瞬間、震える瞳で俺を見つめた。
「……あなたなら、救えると、思いますから」
柔らかな温度が、手のひらから伝わってきた。
その温もりに、俺は応えると心に誓った。
砂漠に繰り返される夜風が、炎帝神殿をざわめかせる。
遠く、闇の奥で燃え上がるような光が弾けた。
不吉な予感が背を押す。
暗闇の中――
俺たちは次の戦いへ足を踏み出す。
精霊の叫びは、まだ終わらない。
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