第3話 炎帝神殿の巫女リア
砂漠の夜は冷えると聞いたが──今はその真逆だった。
空は燃えるように赤く、吹き荒れる砂嵐は炎を孕んだ熱風となって肌を刺す。
「くそっ……視界ゼロだ!」
ミルが必死に両手を広げ、風の結界で周囲を守ってくれている。
だが熱と砂の量は桁違いで、汗が止まらない。
「レオン、こっちに寄れ! 離れんなよ!」
ノワールの影が俺の腕を掴む。
無茶苦茶だが、頼もしさがあった。
そんな中だった──突然、俺の足元に、何かが崩れ落ちた。
白い影。
砂に半ば埋もれた、細い腕。少女だった。
「おいっ! 生きてるか!? おい!」
反応は微弱。
俺は咄嗟に少女を抱き上げ、ミルの作った小さな風壁の内側へ引きずり込む。
息が荒く、体温が異様に高い。
熱に侵されている──こんな環境じゃ当然か。
「……た……す、けて……」
弱い声。それでも、はっきりと聞こえた。
「今助ける。意識を保て!」
少女の瞼がゆっくりと開く。
揺らめく炎みたいな橙色の瞳。そこに映る苦痛と焦り。
「……精霊が……苦しんで……います……」
砂漠の熱のせいじゃない。
その声は、まるで誰かの悲鳴を代弁してるようだった。
「俺の声、聞こえるよな。話せるか?」
「わ、わたし……リア……炎帝神殿の巫女……です……」
リア。巫女。
額の炎の紋章が真紅に光る。
「砂漠の精霊たちが……暴れて……この地を覆う炎が……制御できなく……なって……」
言葉を継ぐほど、呼吸が乱れた。
俺は肩に手を添え、ゆっくりと深呼吸させる。
リアは震える指で、俺の胸へ触れ──目を見開いた。
「その光……精霊の……声……?」
胸の奥で、ルミナが残した光が脈動した。
問いかけるみたいに。
「あなた……精霊と共に歩む者……?」
「俺は……そうありたいと思ってる」
俺が答えると、リアの目から涙が零れた。
「よかった……わたし……ずっとひとりでした……精霊の声が聞こえるなんて、信じてもらえなくて……『狂った巫女』と呼ばれ……」
その言葉に、胸が疼いた。
俺だってそうだった。
誰にも理解されず、居場所がなかった。
「俺が信じる。君の力も、君の言葉も」
リアは小さく息を呑む。
「──ありがとう……」
その一言は、砂嵐の轟音をも圧して、心の奥に届いた。
カイが周囲を見張りながら、低い声で口を開く。
「理由はなんだ。精霊が荒れるほどの異常ってのは」
リアは瞳を伏せ、
「炎帝の封印が……壊れ始めています」
と告げた。
ミルが思わず声を上げる。
「炎帝って……あの伝説の?」
「はい。精霊の王……炎を統べる存在……封印が解ければ、この大地は……再び炎に飲まれます」
再び。
過去に何かあったということだ。
リアの肩が震える。
「その封印を……魔導協会が……」
聞いた瞬間、全てが繋がった。
精霊の力を奪い、兵器化しようとする協会の闇。
「止めなきゃな……」
俺が呟くと、リアは俺の手を掴んだ。
「お願いします……この地の精霊たちを……救ってください……!」
その手は小さく、熱を帯びていて、震えていた。
けれど、その握る力は確かな意志を宿していた。
ミルがニッと笑い、ノワールは闇の奥で目を細める。
カイは肩をすくめながらも頷いた。
「また厄介ごとだな、レオン」
「そうだな。でも──」
俺は炎の向こうに広がる砂漠を睨む。
「厄介ごとこそ、俺たちの道だ」
リアが砂の彼方を指し示す。
「炎帝神殿……封印の火が眠る場所です。私が案内します」
視界の奥で、燃え盛るような光柱が脈打っている。
まるで俺たちを呼んでいるように。
ルミナの光が、背中を押した。
行こう。救うために。奪われないために。
精霊も、人間も。
その未来を守るために。
そして俺は、灼熱の砂を踏みしめた。
──炎帝の影へと。
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