第1話 炎の都アグナへ
――砂だ。砂、砂、そしてまた砂。
俺たちは、ひたすら赤い大地を歩いていた。
太陽は剣のように鋭い光を突き刺し、息を吸うたび肺が焼ける。
「レオン、喉乾いたぁ……溶ける……」
ミルがフードを引っ張り、背中の羽根をぐったり垂らす。
「溶けない。お前は風属性」
「関係なく溶けるの!心が!」
「心は溶けない。俺の知る限りは」
「じゃあ溶かす~っ!」
彼女の手刀が俺の背中をチョップする。
……風のチョップって普通に痛い。
横ではカイが、砂漠用のゴーグル越しに俺たちを見て、肩を竦めた。
「お前ら、元気あるな……俺、もう汗出ないわ」
「出す汗がないんだよ、砂漠は」
「知識で慰めないで……精神が干からびる……」
炎天下でも変化のない声で、ノワールが影から浮かび上がる。
「我には汗腺がない。勝者は我」
「黙って地面に溶けてろ、影」
「溶けぬわ!」
会話だけ聞けばいつも通りだ。
でも、俺の胸には常に重たいざらつきが引っかかっている。
――協会の塔が崩れた夜
――ルミナが消えた光
――俺を反逆者と呼ぶ世界
もう後戻りはできない。
前へ進むしかない。
そして、赤い砂丘を越えた時だった。
風が熱を巻き上げ、視界が揺らぐ。
その先に――巨大な炎の都が姿を現した。
「うわ……なにあれ……燃えてる?」
ミルが目を輝かせる。
遠方にそびえる巨大な魔力塔の先端から、炎がゆっくりと立ち昇っていた。
そして都市上空を、炎の羽を持つ精霊たちが旋回している。
……だが。
「おかしいな。炎精霊の熱波、完全に制御できてない」
カイが眉をひそめた。
昇る炎はまるで、怒りが形になったようだ。
俺は耳を澄ました。
(……ァァ……ア……)
かすかに響く声。
炎が、泣いている。
「精霊たちが……苦しんでる」
言葉にした瞬間、背筋が冷たくなる。
ノワールも腕を組む。
「炎精霊の魔力濃度が異常に高い。人の手が入っている可能性があるな」
「協会か……?」
「断定はできんが、奴らが動かぬ理由はない」
アグナ王国――炎帝ダリオの故郷。
協会が炎帝の血脈を狙っているなら、ここに何かがある。
そう。必ず。
「よし、行こう」
俺が踏み出すと、ミルが俺の手を掴んだ。
「ねぇレオン。精霊たち、助けられる?」
少し迷って、微笑んだ。
「助けるに決まってる。だって俺の――」
言葉は、炎の咆哮に飲み込まれた。
ゴオオオオッッッ!!!
都市上空の炎精霊の一体が、急降下してきたのだ。
砂を巻き上げ、地面が震える。
「わっ――っ!?」
ミルが突風で吹き飛ばされかけ、俺は腕を掴んで踏ん張る。
精霊は炎の瞳をギラつかせ、こちらに牙を向けた。
「やめろっ!」
俺が叫ぶと同時に、ゼルフィアの雷が炸裂し、精霊の動きを制止した。
それでも精霊は苦しげに唸る。
「あぁ……壊れる……熱い……!」
声が俺の頭に流れ込む。
「お前……操られてるのか?」
炎精霊は叫び、急に踵を返して飛び去った。
残された熱波と焦げた砂。
ただならぬ気配が、確かにあった。
カイは短く息を吐く。
「やっぱり異常だ。精霊の意思が混線してる……」
「誰かが干渉してる」
ノワールが低く言う。
炎を押さえつける、無機質な闇。
その冷たさを俺も感じていた。
「急ごう。何が起きてるのか、確かめなきゃ」
俺が決意すると、ミルが笑った。
「うんっ。レオンがいるなら大丈夫!」
……そう思ってくれるなら。
その期待に、本気で応えたい。
背後には協会塔が遠く赤い空に霞み、前方には炎の都アグナ。
俺たちの歩む道は、どちらへも戻れない。
だがそれでいい。
「待ってろ、炎の精霊。今度は――絶対に助ける」
焦げる風が吹いた。
俺たちは灼熱の都へと足を踏み入れた。
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