第18話 ノワールの真実
夜の冷たい風が肌を撫でていく。砂混じりの大地に、小さな焚き火の残り火がくすぶっている。ミルたちはすでに眠りにつき、寝息だけが静かに響いていた。
――寝れない。
胸の奥に残った焦燥が、どうしても眠りを拒んでいた。塔での出来事、ルミナの消失、そして俺の中に残った光。すべてが渦を巻いて頭を離れない。
ふと気づくと、黒い影が夜の縁に佇んでいる。
ノワールだ。月を避けるように闇へ溶け込んでいた。
「見張りか?」
声を掛けると、ノワールは振り返りもせず返した。
「……ただ眠れねえだけだよ」
「奇遇だな。俺もだ」
そう言って隣に立つと、ノワールは不機嫌そうに眉を寄せた。
「お前は寝とけ。雑魚は体力温存しとかねえとすぐ死ぬぞ」
「心配してるように聞こえるんだが?」
「はあ!? どこをどう聞いたらそうなる!」
ツンケンした返し。……けど、いつもと少し違った。
強がってる、そんな空気。
「ノワール。お前、何をそんなに抱えてる?」
核心に踏み込むと、彼は静かに目を伏せた。
いつもの皮肉を返さない。
黙ったまま夜空を見上げた彼の横顔は……妙に寂しげだった。
「……俺は影なんだ。本物じゃねえ」
ぽつりとこぼれたその言葉に、思わず息を飲んだ。
「どういう意味だ?」
ノワールは小さく息を吐いた。覚悟を決めたように。
「昔々、人と精霊が共に生きてた時代があったらしい。契約者って呼ばれる人間が、強大な力を持って支配してた世界だ」
その話、ゼルフィアやミルからも聞いたことがある。
だが――ノワールの話はそこから先へ踏み込んだ。
「ある契約者がいた。闇を統べる最強の男だ。そいつは自分の力と記憶を未来に残すために――」
ノワールは胸、心臓のあたりを握りしめる。
「影の分身を作った」
「お前が……その?」
「ああ。俺はコピーだ。複製体だ。本物の代わりに存在するだけの、出来損ないだ」
自嘲でもなく、事実をなぞるだけの声。
胸が痛むほど淡々としていた。
「本物の契約者は死んだ。だから俺は……居場所がねえ。生まれた意味も、存在する資格も……」
少し震える声。
ノワールがこんな声を出すのを見るのは、初めてだった。
「皆と一緒にいると……怖ぇんだよ。お前らは本物だから」
――なんだよそれ。
気づけば俺は笑っていた。ノワールが驚いた顔でこちらを見る。
「何が本物だよ。俺だって追放された落ちこぼれだ」
「……は?」
「影だろうとコピーだろうと関係ない。お前はその人の代わりに、今を生きてるんだ」
ノワールが大きく目を見開いた。
闇のような瞳が、微かに揺れる。
「……そんな風に言う奴、初めてだ」
「だろうな。でも俺は本気だ。お前がいてくれて良かったって、何度も思ってる」
ノワールは視線を逸らし、耳まで赤くなっていた。
「っ……バカか、お前は」
その言葉が、夜風に溶けて消える。
でも――確かに聞こえた。
不意にノワールが額に手を当て苦しげに唸った。
「記憶……いや、映像か? 一瞬だけ蘇るんだ。巨大な祭壇……炎と影の紋章……封印された精霊兵器……」
封印――精霊兵器――
アステルたちが追い求めていたものと、繋がっている。
「その場所、知ってるのか?」
「いや……だが、近い気がする。俺たちの行く先にある気がするんだ」
その瞬間、闇を裂く羽ばたきが響いた。
「っ!」
黒い鳥の形をした魔導監視機が上空を旋回していた。
ノワールは影を伸ばし、瞬時に撃ち落とす。
「……見られてたな。敵はもう動いてる」
「アステルか?」
「あいつじゃねえ……もっと……ヤベえ奴だ」
ノワールの声に、俺は無意識に剣を握っていた。
「レオン」
「ん?」
ノワールは初めて――照れたように笑った。
「俺はお前らと行く。影が誰かを照らせるかどうか……試してみてえ」
「――ああ」
その言葉だけで十分だった。
闇に隠れながらも、確かに光を宿した影。
それがノワールの本当の姿だと――俺はもう知っている。
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