第17話 決意の夜
夜の森は、不自然なほど静かだった。
葉の擦れる音も、虫の声も――まるで息を潜めているように。
俺たちは崩れ落ちた協会塔から逃げ延び、人気のない森まで辿り着いた。
疲労と緊張で身体はとっくに限界のはずなのに、目は冴えて眠れなかった。
焚火の小さな明かりだけが、暗闇を払いのけている。
俺の胸の奥には、ひりつく痛みが残っていた。
あの光――ルミナ。
封印された意識体。
闇の牢獄の中で、俺に救いを求めてくれた小さな光。
仲間として認められてすぐに、俺たちを守るために消えた。
思い出すたび、歯を食いしばる。
(救えなかった……)
そんな罪悪感が、何度も胸を刺す。
ーーその時だ。
「また顔が暗いぞ、レオン」
カイが無造作に枝を投げ込んだ。
火花が舞い上がり、少しだけ光が強くなる。
「お前らしくないな。いつもの馬鹿みたいな前向きさはどこ行った?」
「……馬鹿って言うなよ」
文句を言いながらも、ちょっとだけ気持ちが軽くなる。
こういうところが、こいつの長所なんだろう。
カイは片膝を立て、火を見据えながら言う。
「俺たち、もう後戻りはできないところまで来たんだ」
「……だな」
協会は俺を反逆者として追う。
国中に指名手配が広がるのも時間の問題。
でも不思議と、前みたいな絶望はなかった。
(あの時とは、違う)
俺はもう、一人じゃない。
「というかさ!」
ミルが急に大声を上げた。
小さな体をめいっぱい使って、胸に両拳を当てて宣言する。
「前に進むしかないでしょ!だってレオンは、私たちが選んだ契約者なんだから!」
……ミルにそんなこと言われたら、弱音なんて吐けない。
それに、こいつもルミナのこと、ちゃんと悼んでくれてる。
ミルの瞳の奥には怒りが宿っていた。
「またあんなの見たくない。精霊が道具にされて、泣いてるなんて……絶対イヤ!」
「ミル……」
ゼルフィアが静かに頷き、短く言った。
「レオン。私は協会塔で見た物を忘れない。精霊を兵器として扱う思想……断じて容認できない」
彼女の拳がわずかに震えていた。
怒りではなく、悔しさで。
ノワールは木の根に座り、黒い影のように動かない。
だがその沈黙こそ、彼が何を思っているかを物語っていた。
――こいつらは、本気で俺についてきてくれる。
温かいものが、胸に込み上げてくる。
「……ありがとう」
俺は焚火に手を伸ばしながら、はっきりと言った。
「精霊も、人も――俺が守る」
言葉は震えていない。
迷いも、恐怖も、吹き飛ばすように。
「ルミナの涙も、
未来に泣いてる誰かの涙も――絶対に……!」
ミルが「だから言ったでしょ!」と笑って飛びつく。
カイは「やっといつものレオンだ」と肩を叩く。
ゼルフィアはそっと目を閉じ、俺の宣言を受け止めた。
そしてノワール。
淡々とした声が暗闇を切り裂く。
「お前は昔からそうだな。無謀で、馬鹿で……だが、嫌いじゃない」
「褒めてるのか?」
「さあな」
たったそれだけで、心の底が温かくなる。
小さな火の輪の中。
それぞれの影が大きく揺らめく。
夜はまだ終わらない。
これから先、もっと過酷な戦いが待っている。
それでも――
(この仲間となら、絶対に乗り越えられる)
星のない夜空を見上げる。
吹き抜けた風が、少しだけ優しかった。
そして深夜。
皆が眠ったあと、暗闇の中のノワールがひとりごちた。
「守る、か……ふん。そんな台詞を真正面から言った奴なんて、あいつを除いて他にいなかった」
わずかに、影が震えた。
それは、かつての記憶の痛みか――
それとも、新しい絆の温度か。
俺は寝返りを打ちながら、薄く笑った。
(気づいてるぞ、ノワール……お前も俺と同じなんだよ)
闇の向こうに広がる未来は、まだ何も見えない。
だが――
一緒に進む。
決して、立ち止まらない。
この夜の記憶を、火の明かりのように灯し続けながら。
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