第15話 逃亡者たち
──塔の崩壊を告げる鐘が、まだ耳の奥で鳴っている気がした。
王都の朝はいつもと変わらず賑やかだった。なのに、俺の世界だけが音を失っていた。
「これより通達する! 反逆者レオン=アークライトの身柄を確保せよ!協会塔崩壊の首謀者にして、危険な精霊術の使用者!」
大通りで騎士団の声が高らかに響く。
掲げられた布には、俺の似顔絵。歪んだ笑みを浮かべるように描かれたそれに、周囲の人々が怯えた目を向けていた。
誰かが震える声で言った。
「精霊に魅入られた怪物だって……本当だったんだ……」
胸の奥がずきりと痛む。
怪物?
そうか。これがルミナを救えなかった俺に対する世界の答えか。
俺はフードを深くかぶり、視線を逸らした。
来る場所、間違えたな。
本当は、あの塔の前で倒れていたかったのに。
でも、死にたくなかったわけじゃない。
ただ──彼女が託した「願い」を、まだ果たしていない。
耳の奥で、ルミナの声が蘇る。
──あなたの光を、見せて。
「……ルミナ」
小さく名前を呼ぶと、胸がきしむように痛んだ。
◆
冒険者ギルドの裏通用口。
俺を見つけた受付嬢のアリシアは、驚きと……罪悪感を滲ませた目を向けた。
「あなた、本当に来ちゃだめ……! 協会の命令で、ギルドも──」
「隠れて仕事が欲しいわけじゃない。ただ、確かめたいことがある」
「……ごめんなさい。本当は、あなたのこと信じてる。でも……ギルド全体が監視されていて、味方することは……できないの」
彼女の声は震えていた。
俺を庇えば、彼女の居場所も失われる。
「謝るのは俺じゃなくて、あんたの側だ」
そう言うと、アリシアは噛みしめるように目を伏せた。
「……これを持って行って。食料と、最低限の薬。
私の独断。……もう二度と会えないかもしれないけれど」
そっと袋を押し付けられる。
俺は深くは言わなかった。
ただ、静かに礼を言って背を向けた。
◆
夜。王都外壁の影。
門は封鎖され、俺の名前が何度も叫ばれていた。
「反逆者レオン! 精霊使いを見つけた者には褒賞金!」
低く罵声混じりの声が飛ぶ。
──あの日も、そうだった。
弱いと笑われ、追放され、失うことしかできなかった。
なのに。
今の俺は、不思議と落ち着いていた。
「……また、追放かよ」
苦く笑う。
「でも、今度は怖くない」
俺は逃げてるんじゃない。
追いつきたいんだ──彼女が最後に見上げた、未来へ。
◆
「行くぞ」
小さな光が三つほど俺の肩や腰に寄り添った。
塔から一緒に逃げた小精霊たちだ。
「ピィ……」
「……大丈夫。俺が守る」
ルミナが遺した光が、まだ胸に確かにある気がする。
決意の息を吐き、壁の陰を走った。
見張りの死角を突き、古い排水口から外へ。
地面に落ちた瞬間、土の匂いと共に、冷たい夜風が頬を刺す。
「さよなら、王都。そして──待ってろ、ルミナ」
振り返れば、遠くに赤い炎のように崩れつつある塔。
そこには、俺の大切な光が眠っている。
拳に力が入る。
「必ず取り戻す。歪んだ真実も、精霊たちの未来も」
夜の闇が、俺たちを飲み込み、守るように包み込む。
逃亡者の旅が始まった。
だが、それは同時に──反撃の始まりでもあった。
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