第8話 ノワールの記憶の欠片
夜の静寂が落ちた宿舎。
なのに、俺の胸はざわついたまま眠れない。
王都エルドリアに来てから、ずっと何かがおかしい。
街中の精霊たちが――黙っている。
いつもなら、そこかしこで感じる気配やささやきが、ピタリと途絶えていた。
「……ノワール」
足元を見ると、黒い小さな体が丸まっている。
影の精霊ノワールは、寝息ひとつ立てず、じっと俺の足に寄り添っていた。
珍しい……こいつ、いつも堂々と寝るくせに。
そっと頭を撫でた――その時だった。
「……やめ……ろ……」
ノワールの口から掠れた呻き声。
体を震わせ、爪を食い込ませるように床を掻く。
「ノワール!? 大丈夫か!?」
触れた瞬間――視界が弾けた。
◆ ◆ ◆
荒野。
ひび割れた大地。
黒い稲妻が空を裂き、絶叫の風が吹き荒れていた。
そして俺の目に飛び込んだのは――
巨大な魔術兵器に繋がれ、苦痛に蠢く数多の精霊たち。
「な……んだここは……!?」
耳をつんざく怒号。
「精霊は道具だ!戦争を動かす燃料だ!」
次の瞬間――
視界に、見覚えのある黒い影が映った。
ノワール。
いや、ノワールと瓜二つの姿の――
剣のような形へと変貌し、
冷たい瞳で戦場を切り裂いていく“兵器”。
そして、それを操る男が叫んだ。
「従え!影よ!我こそが精霊の王だ!!」
俺の全身に寒気が走る。
ノワールは――兵器だったのか。
そこまで考えた瞬間、景色が掻き消えた。
◆ ◆ ◆
「っ――!」
ベッドの上、俺は息を荒げて身体を起こした。
ノワールは肩で息をし、爪を震わせている。
「……見たのか、レオン」
その声は、ひどく弱々しい。
「俺は、戦争で使われた。精霊の王だと名乗る愚かな契約者に、影の力を、奪われていた」
自嘲するように笑う。
「きっと、俺はその残り物だ。兵器の残滓だ。お前のそばにいる資格なんて――」
「あるに決まってんだろ」
言葉を遮っていた。
考えるより先に、口が動いていた。
「兵器? 道具? そんなもん、関係あるか」
ノワールが顔を上げる。
「お前は――俺の仲間なんだよ」
沈黙。
小さな精霊の瞳に、震える光。
「……仲間」
「そうだ。ずっと一緒だ」
その時、ベッド下から声が聞こえた。
「ノワール、だいじょぶ?」
シルフが風に揺れながら覗き込む。
「お前、泣いてるのか?」
サラマンダーが豪快に笑う。
「ふふ……守ってあげる」
ウンディーネが優しく水を揺らした。
ノワールは耳を引っ込め、慌てて顔を背ける。
「うるせぇ……泣いてねぇ……」
だけど、尻尾が――ぽふぽふ震えていた。
……こいつ、ほんと不器用だ。
俺は深呼吸し、みんなを見回した。
「協会が何をしてるかわからない。だけど……あの街の精霊たち、泣いてる」
ノワールが顔を上げた。
「……助けるのか?」
「当たり前だ」
迷いは、もうなかった。
「なら、俺も行く」
ノワールはすっと俺の肩に飛び乗る。
「俺は兵器じゃねぇ。レオンの影だ。レオンの仲間だ」
その声音は、誇りに満ちていた。
俺は笑い返す。
「じゃあ決まりだ。潜入するぞ――精霊協会に」
ノワールの尻尾がビシッと立つ。
「任せろ」
闇が揺らぎ、影の分身たちが床に広がる。
ミルが目を輝かせて叫んだ。
「作戦名っ!《深夜のお散歩大作戦》!」
……そのネーミングはどうなんだ。
でも――
胸の奥に灯った炎が、消える気配はなかった。
これはもう、止められない。
俺は仲間たちとともに、闇の先へと踏み出す。
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