第7話 理論の壁を越えて
翌朝。
俺とカイは、まだ夜気の残る薄暗い通路を歩いていた。目指すのは――協会の中心部にある巨大図書館。
「なあ、本当にこんな早朝に行く必要あったか?」
「ある。むしろ遅いくらいだ。お前の状態が協会にバレるのは時間の問題だ」
カイは鋭い目つきで周囲を見張りながら歩く。
昨夜から、確かに視線を感じていた。
(複数契約……バレたら終わり。隔離、実験、はい人生終了ってやつだ)
そんな状況なのに、俺はというと――
「ねむ……ノワール、肩に乗んなって。重たい」
「朝は乗るのが儀式だろ?」
黒猫精霊のノワールが、俺の首にしがみついてくる。
小さいくせに、なぜか妙に重い。
「重いんだよ! 儀式じゃねぇよ!」
「仲良しだな、お前ら……」
カイはため息まじりに、でもちょっと笑った。
◆
協会中央図書館――
天井が見えないほど高い本棚が迷路みたいに広がっている。
これ全部、精霊とか魔術の知識なんだとさ。
「うお……すっげえ……!」
思わず走り出しそうになった俺は
カイに後ろ襟をつかまれて引き戻された。
「ここでは静かにしろ。監視も多い」
なるほど、入口には魔力検査、精霊干渉検査。
ノワールの魔力が漏れただけで、すぐ警報がピーピー。
「ほら、だから言っただろ。猫の姿で遊ぶな」
「猫じゃねぇ。高貴な闇の王だ」
「王なら黙ってくれ」
カイが強引にノワールの魔力を抑えて、やっと入館できた。
◆
それから数刻。
カイは契約理論史の棚で、山積みの本をガンガン読み漁っていく。
「……やっぱり、そうか」
「何かわかったのか?」
俺が身を乗り出すと、カイは一冊を指差した。
精霊契約の大原則
『一魂一契(ひとつの魂につき精霊一体)』
「……あれ? でも俺、四体と契約して――」
「だから異常なんだって!」
カイは低く声を荒げた。
「魂の器が複数の精霊を繋ぐと、精神崩壊、暴走……ろくな結果にならない」
そのページには、悲惨な記録がいくつも並んでいた。
寒気が背中を走る。
(俺……そんな危ないことしてたのか)
「でも、俺の精霊たち、仲良いし。喧嘩しないし」
「それが異常なんだよ!」
カイは俺の胸に手を当て、魔力の流れを探った。
「……なんだ、この安定感。まるでお前を中心に、四体が手を繋いで輪を作ってるみたいだ」
俺と精霊たちの感情が、魔力の波として共鳴している。
「契約の支配構造が……存在しない?」
「支配とかじゃなくて……友達だからだよ」
俺が笑った瞬間――
空気が柔らかく震えた。
ノワール、シルフ、サラマンダー、ウンディーネがふわりと姿を現し
色とりどりの光が周囲を包む。
カイは息を呑んだ。
「精霊同士が……感情で繋がっている?これは……感情共鳴型契約!」
歴史にない、前例ゼロの契約。
でも同時に、カイの顔は強く険しくなる。
「協会が知れば、お前は研究対象として拘束される。非常に危険だ」
「……そんなに?」
ゴクリと喉が鳴る。
その時、ノワールが俺の肩に飛び乗った。
「レオンは俺たちの家だ。離れろと言われても拒否する」
「ノワール……」
「だからビビるな。俺がついてる」
その言葉に、俺は少しだけ肩の力を抜けた。
「ありがとう。みんなと出会えて、ほんとよかった」
精霊たちの光が喜ぶように強く瞬いた。
魔力の波が温かい。
◆
……だが。
ノワールの瞳が突然、揺れた。
(……なんだ、この光景……)
一瞬だけ――
壊れた戦場と、拘束された巨大な精霊兵器が脳裏をよぎった。
古代の戦争の残影……?
「ノワール?」
俺が顔を近づけると、ノワールはゆっくり首を振る。
「いや……なんでもない。ただ――思い出しそうなだけだ」
精霊の記憶……?
カイは眉を寄せ、何かに気づいたようだった。
(古代契約……まさか)
外では協会兵の巡回が増えはじめている。
包囲はもう始まってる。
俺はまだ知らない。
この奇跡が、世界のルールを揺るがす引き金だってことを。
感情は、理論を超えた。
その先にあるのは、希望か――破滅か。
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