第5話:協会長アステルとの会談
厚い扉が、低い音を立てて閉じた。
俺は一人、精霊協会の最奥――協会長室に通されていた。
部屋は異様なほど静かで、壁一面に飾られた古い資料や魔法具が、まるでこちらを観察しているかのようだった。
ノワールは姿を見せず、俺の影に潜んでいる。
その時――
「よく来てくれた、レオン=アークライト君」
重く澄んだ声が響いた。
白髪の老魔導士が、机の前に静かに立っていた。
整った顔立ちに皺一つ無駄がない。背筋は剣のように伸びている。
威圧ではなく、理性。
力ではなく、支配。
そんな男だと、直観した。
「あなたが……協会長、アステルさんですか」
「いかにも」
アステルはゆっくりと近づいてきた。
深い皺の刻まれた目が、俺を覗き込む。
「歴史に名を残す逸材だ。精霊との複数契約――前例は存在しない。いや、正しくは……誰にも成功させなかったのだ」
成功させなかった?
妙に引っかかる言い方だった。
「なぜ俺を……そんな大袈裟に?」
「大袈裟なものか。君は、人類の命運を左右する存在だよ」
人類の命運?
俺の表情を読んだのか、アステルは椅子へと案内した。
「精霊は強大だ。時に暴走し、国を一つ滅ぼすことすらある」
アステルは優雅な仕草で指を鳴らした。
壁の魔導スクリーンに、過去の精霊災害の映像が映し出される。
火の海に沈んだ都市、氷に閉ざされた王国、空から落ちる浮遊都市――。
「人類は常に精霊に怯えてきた。だが、君の力があれば、その恐怖は払拭できる」
「どういう意味ですか」
アステルは笑みを深める。
その優しい表情が、氷より冷たく見えた。
「精霊を――完全に制御するのだ」
背筋が、ぞわりとした。
「制御って……精霊は道具じゃない」
言葉を絞り出すように返す。
「道具だとも。人類より愚かで、力だけは持つ存在だ」
「そんな言い方……!」
思わず一歩踏み出す俺。
アステルは優しく諭すような声で言った。
「レオン君。綺麗事で世界は救えんよ」
「綺麗事じゃない。ミルもノワールも、俺にとっては……仲間だ」
次の瞬間、アステルの瞳が細められた。
「ふむ。ならばいずれ……君は理解するだろう。仲間と呼ぶものが、どれほど人類の脅威となるかを」
階段から突き落とされるような、嫌悪感。
何かが違う。これは絶対に許せない。
「俺は……精霊を管理なんてしない。守る。共に生きる。それだけです」
アステルは、ゆっくりと椅子に背を預けた。
「ならば好きにすると良い。だが――我々は君を観察し続ける。その力が暴走しないように」
「……観察?」
「レオン君、安心したまえ」
穏やかな笑み。
しかし、その奥にある本音はひどく冷えていた。
「君ごと、な」
息が止まった。
その言葉だけで、喉の奥まで冷たく凍らされるようだった。
俺は口を開くこともできず、ただアステルを睨みつけた。
だが――あの男には、俺の視線すら届いちゃいない。
「会談は以上だ。期待しているよ、精霊の英雄君」
解放された瞬間、俺の膝はわずかに震えていた。
部屋を出た途端、影からノワールが囁く。
「レオン、あの老人……魂が濁っている。近づくな。必ず害になる」
「あぁ……わかってる」
けれどもう遅い。
奴らは俺を――
敵として見定めた。
そして俺もまた、
精霊協会という巨大な影の存在を、確かに理解してしまった。
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