第20話 導きの魔導士
夜空を引き裂くように、稲光が奔った。
雷都の夜は、本来もっと静かだったはずなのに。
塔の最上階から街を見下ろしながら、
俺は無意識に手を握りしめていた。
――最近、精霊たちの声が大きすぎる。
力が増したせいなのか。
それとも、精霊界が揺らいでいるのか。
「レオン、こっちだ」
呼ばれて振り返ると、カイが書類の山に埋もれた机の前にいた。
彼はいつも通りクールな顔をしていたが……
その手はわずかに震えていた。
「どうした? らしくないな」
「緊張してるんだよ。……君のせいでね」
「俺の?」
「この資料を見れば分かる」
差し出されたデータには、俺とミル、そしてゼルフィアとの複合契約による
魔力波形の異常値がびっしり並んでいた。
「……高すぎるだろ、これ」
「君がやっているのは、前例のないことだ。精霊協会は、こういう現象を――恐れる」
その言葉に、胸の奥で何かがざわついた。
恐れる?
俺を?
精霊との信頼を?
「君は、精霊の意志を聞ける。それは、協会には再現不可能な能力なんだよ」
カイがゆっくりとこちらへ歩み寄る。
「僕はね、レオン。精霊を理解したい。魔法で、理論で、人間の手で」
彼の眼鏡越しの瞳が、真っ直ぐに俺を貫く。
「だけど君は違う。君は精霊と、共に在りたい」
ふっと息がこぼれた。
「大した違いじゃないさ」
「とんでもなく大きい違いだ。管理と共存。支配と共鳴。僕らは、全く逆の方向を見てる」
言い切ったあと、カイは笑った。
「だけど、だからこそ協力できる。君の信じる道を、僕は知りたい」
静かに拳を突き出してくる。
俺も拳を合わせた。
雷の鼓動が手のひら越しに伝わる気がした。
「ありがとな、カイ。俺は俺の力で、精霊を守る。誰かの道具にさせてたまるか」
「僕はその未来を証明してみせる。一緒にね」
そこへ、
「ふぁ……レオン、まだ起きてるの?」
寝ぼけ声のミルが入ってきた。
ノワールが肩に乗って、尻尾で俺の頬をぺしぺし叩く。
「ほら言ったにゃ、寝ないとダメになるにゃ」
「なるかよ」
「むぅ。レオン、無理すると倒れちゃうよ?ミル、おやすみの魔法かけてあげようか?」
「それはいい。また変な夢見そうだけど」
「にゃはは! 悪夢確定にゃ!」
笑い声が、雷鳴に溶けた。
──その時だった。
【……レオン】
耳の奥に直接響く声。
雷がうねったかと思うと、室内の空気が震えた。
ゼルフィアが、姿を見せた。
雷光を纏い、長い銀髪が宙に舞う。
「ゼルフィア?」
彼女は俺の瞳を覗き込むように近付いてきた。
「雷鳴が響く時、我はお前を見ている。忘れるな、人の子よ。次に会う時……敵か味方かは分からぬ」
背筋が凍りついた。
「どういう意味だ、ゼルフィア!」
問いかける間もなく、
その姿は稲光と共に消えた。
残されたのは、焦げた床と
不安だけ。
ミルがぎゅっと俺の腕を掴む。
「レオン……こわいの?」
俺は小さく笑った。
「怖いさ。でも……」
視線を、遠くの黒い雲へ向ける。
「俺は前に進む。精霊と共に生きるって、決めたんだ」
カイが息を吸い、短く言った。
「なら、僕が導く。君が信じるその未来へ」
外で轟音が響く。
雷鳴が空を裂き、世界を白く染める。
雷鳴が空を裂いた。
その光の中で、俺たちは次の戦場を見ていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
本日より短編で掲載しておりました
婚約破棄された伯爵令嬢ですが、森でパン屋を開いたら辺境伯に溺愛されました 〜悪女呼ばわりした元婚約者よ、助けを求められてももう遅い〜
を連載版でを本日より投稿しております。下記リンクより移動できます。
軽く紹介させていただきます。
公開断罪で婚約破棄され、「悪役令嬢」として北の辺境に追放された公爵令嬢リリアナ。
……なのに当人はどこか嬉しそう。
ブラック企業で働き詰めだった前世の記憶と、《生活鑑定》スキルを頼りに、
「今度こそ、のんびりカフェをやって生きていきます」と決めたから。
寒さ厳しいノルドハイムの街で、穀物コーヒーとあったかスープの小さな店を開いたら、
疲れ切った兵士たちや子どもたちが笑顔を取り戻し、
無愛想で怖いと噂の辺境伯様まで、いつの間にか奥の席の常連さんに。
罪人として捨てられたはずが、「ここにいてほしい」と望まれる居場所になっていく、
ごはんと恋とスローライフ、時々ざまぁな、ほっこり系異世界恋愛です。
もしよければお読みいただければと思います。




