第14話 再会、炎の騎士ダリオ
雷都ヴァルスタの夜は、いつもより静かだった。
復興半ばの街には仮設灯りが並び、まだ所々に瓦礫が残っている。
それでも――ようやく平和を取り戻せる気がしていた。
「なぁレオン。次はあっちの区画、いくぞ」
カイが額の汗を拭う。
額の傷はまだ完治していないが、口元にはいつもの笑み。
「カイこそ、休め。負傷者代表なんだからな?」
「だーれが! 俺は頑丈なんだよ!」
「ふふん、レオンが倒れるよりはマシなのです!」
ミルが腰に手を当て、胸を張る。
「俺だって倒れ――」
「倒れたよね、前の戦いで」
ズバッとカイに刺される。
「ぐっ……正論……」
「レオン、もっと頼って。私たち、仲間なのですから」
「……ありがとうな」
何気ないその言葉のやり取りが、胸に温かく染みた。
そう、俺たちは前に進んでいる――。
そう確信した矢先。
***
――空気が変わった。
夜気が震え、皮膚が焼かれるような熱が走る。
「なんだ……? これ……」
ミルが表情を強張らせ、耳をピンと立てた。
「魔力……高熱、超圧縮。レオン、これ――」
「!」
ドゴォオオオオォォォン!!!
真上から炎の柱が降り注いだ。
地面が爆ぜ、瓦礫が吹き飛び、熱波が街路を薙ぎ払う。
「みんな避難しろーーっ!!」
叫ぶ俺の耳に、焼ける音。
真夜中の街が、一瞬で地獄の色に包まれた。
「まさか……」
炎の中から、重い足音が響く。
ゆらり。ゆらりと。
紅蓮を纏った影が現れる。
「……会いたかったぜ、レオン」
「っ……!」
息が止まる。
忘れるはずが、ない。
炎の騎士――ダリオが、生きていた。
「どうした? 泣きそうな顔だぞ?」
「お前は……死んだはずだ!」
「死に損ねただけさ。それに――俺には救いの手が差し伸べられたんでな」
背に刻まれた紋章が燃え上がる。
禍々しい炎が踊り狂う。
「炎帝の紋章……!」
「そうだ。俺はもう、昔の俺じゃねぇ。敗北の痛みが、俺をさらに強くした」
「強く……? それが強さだっていうのかよ!」
ダリオは笑い、俺を嘲る。
「レオン。お前は仲間なんてものに縋って、力を分けてもらってるだけだ」
「そんなこと……!」
「あるんだよ!!」
怒りの熱波が俺の顔を焼く。
「俺は全部奪われた!誇りも、部下も……俺の全てをだ!」
声が震えていた。
怒りの奥に、痛みが滲んでいた。
「だから俺は強さを求めたんだ。弱さを晒したままじゃ、死んでも死にきれねぇ!」
「ダリオ……」
「そして今度は俺が奪う番だ。――お前の全てをな」
炎の奔流が迫る。
「来るぞ!」
カイが剣を抜き、雷光が迸った。
「てめぇの相手は、この天才カイ様が――!」
「雑魚が吠えるな」
ドッ!!
カイの剣ごと、吹き飛ばされた。
「カイ!!」
「ぐっ……へへ、やべぇ……」
「よく避けたな。次は潰す」
迫る紅蓮。
ミルが飛び出した。
「レオンには触らせないのですっ!!」
雷の円盾が展開し、炎を受け止める。
「ほう……雷竜の末裔か」
「末裔じゃない! 現役の雷竜なのです!」
ミルが足を踏み込む。
その瞬間――炎が壁をすり抜けた。
「えっ……!?」
「炎は形を変える。――人の悲鳴を上げながらな」
ミルが吹き飛ばされる。
「ミルーーっ!!」
「だ、大丈夫なのです……!」
立ち上がる二人。
俺の体が震える。
怖い。悔しい。だけど――
「聞け、ダリオ」
俺は一歩、前に出た。
「俺は一人じゃ戦わない。それが弱さだと言うなら――」
胸を叩く。
「弱い俺は、仲間と一緒に……強くなる!」
「勘違いしてんじゃねぇ!!」
炎が爆発的に膨れ上がる。
「仲間なんざ足枷だ!背中を預けた分だけ裏切られるんだよ!!」
その叫びに、俺は確信した。
「お前は……誰にも救われたことが無いから、信じることを諦めたんだ」
「黙れぇえええ!!」
怒りの咆哮。
炎帝の紋章が赤黒く輝く。
「雷都を焼き尽くしてやる!俺の炎が、全てを支配する世界を創る!!」
「させない!」
「止める!」
「この街は……俺たちの大切な場所だ!!」
俺たち三人は同時に構えた。
背中合わせ。呼吸が揃う。
「カイ! 右から!」
「了解! 派手にいくぞゴラァァ!!」
「ミル! 左を頼む!」
「任せてなのです! 吹き飛ばしてやるのです!」
雷気が集い、俺の体が熱く満ちていく。
怖くても、震えても――
俺たちは前に進む。
「ダリオ!!」
剣を走らせ、雷光を纏わせ――
「今度こそ――俺がお前を止める!!!」
炎と雷が、雷都の夜を真紅に裂いた。
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