第3話 雷鳴実験室の見学
雷都ヴァルデンの朝は、相変わらず空が騒々しい。
遠くで落ちる雷の音が鼓動に混ざって、不安と興奮を同時に煽ってくる。
「今日の案内は僕がする。ついてきて」
カイは無表情で、けれど期待に満ちた目だけは隠そうともせず、塔の奥へと歩いていった。
ギルドというより、研究機関の匂いが濃い。
魔力の帯電した空気が肌をチリチリ刺激してくる。
「なんか……ここ、落ち着かない」
ミルが俺の袖を掴んだ。耳の先まで逆立つように震えている。
「気合い入れろ。ビビってると余計に雷が寄ってくるぞ」
ノワールの皮肉にミルは情けない声で
「ひゃあああやめてぇぇぇ!」と跳ね回る。
……いや、確かに冗談に聞こえないくらい雷気が濃い。
◆
大きな扉が開かれた瞬間、空気が変わった。
眩い青白い光。
三日月型の巨大な装置の中央で雷が暴れ、
その周囲には……見覚えのある、小さな光の生き物たち。
――雷精霊だ。
「すげぇ……」
だが俺はすぐに息を呑む。
精霊たちはまるで飼い殺しにされるように、
魔導器の中へ吸い込まれていったのだ。
「これが……研究?」
俺が呟くと、カイは淡々と説明した。
「雷精霊は高純度の魔導エネルギーを産む。だからこうして抽出して利用するんだ」
抽出。
まるで資源だ。
「……それ、彼らは苦しんでるじゃないか」
「苦しむ? 精霊に感情なんてない」
その一言が胸を刺す。
ミルが眉を寄せる。
「あるよ! だって、あの子たち震えてるもん!」
「震え? それは電圧の変動だ。精霊の形質は物理法則の一部で――」
「違う!」
俺は思わず遮った。
言葉より早く、あの子たちの怯えが伝わってくるんだ。
契約者だからこそ、逃げ場のない声が聞こえる。
「精霊は、俺たちの仲間だ。お前たちがしてるのは搾取だ」
カイの瞳が細まる。
「仲間? それは思い込みだ。感情に頼るから、魔導は進歩しない」
ミルが俺の背に隠れ、ノワールは小さく舌を鳴らした。
「てめぇ頭でっかちのくせに、心がカラッポじゃねぇか」
カイの表情に初めて感情が灯った。
嘲りの色だ。
「……君たち、遅れてるよ。精霊を使役するなら、効率こそ正義だ」
どうしてわからない。
精霊は道具じゃない。
生きているんだ――想いを持って。
俺は強く拳を握った。
「俺は、お前とは絶対にわかり合えない」
「いいね。そうやって感情的になる君を観察するのも面白い」
バチンッ
雷精霊が火花を散らし、装置が軋む。
誰より先に、俺はその悲鳴に気づいた。
――助けたい。
触れれば俺は傷つくかもしれない。
でも、このまま見ていられるか。
俺が一歩踏み出すと、カイが冷たく告げた。
「勝手なことをするな。ここでは俺がルールだ」
その瞬間、胸の奥に熱い怒りが渦巻いた。
精霊を縛る世界なんて――認めない。
俺が握る拳は、雷の鼓動と同じテンポで震え続けていた。
◆
研究室を出ると、外気がやけに冷たく感じた。
遠くの塔で雷鳴が低く響く。
ノワールが肩で笑う。
「どうした、青筋立てちゃって。あのガキがムカつくってか?」
「……ムカつく。けど、それだけじゃないんだ」
ミルがそっと手を重ねてきた。
「怖かったけど……レオンの言ったこと、正しいと思う。精霊は、あんな扱いされるために生まれてきたんじゃないよ」
俺はミルの手を握り返した。
雷の光が手の間を照らす。
「ありがとう。俺は、精霊を守れる強さが欲しい」
胸に宿った決意は、雷よりも熱く燃えていた。
――だがその夜。
俺の信念を試す事件が、街を襲うことになる。
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