第9話 幻影の試練 ― 過去との対峙
どれだけ歩いたかわからない。
気づけば、ダンジョン内の薄暗い通路は深い靄に飲まれていた。
──視界が歪む。
霧が色を変え、景色が捻じ曲がる。
目を開いた瞬間、息が止まった。
王都の中央広場。
石畳、建物の配置、風の匂いまでもが、あの日と同じだった。
追放宣告の日。
「無能が粋がっても無駄なんだよっ!」
「コピー? そんなの誰でもできるだろ!」
「お前は英雄候補の面汚しだ!」
俺を囲み、罵倒する声が次々と浴びせられる。
石が飛ぶ。唾が飛ぶ。笑い声が刺さる。
胸を抉られる記憶。
忘れたことなんて、一度だってなかった。
「……はぁ、はぁ……幻覚だ……」
わかってる。
だけど、身体がすくむ。足が動かない。
俺は視線を落とし、拳を見つめる。
震えている。
あの時の感情が、膿みのように湧き上がる。
悔しさ。
情けなさ。
自分自身への怒り。
押し潰されそうになる。
その時、幻影の中で一番見たくないやつが現れた。
元パーティーメンバー──
かつて俺が尊敬した王国最強候補。
顔をしかめ、つまらなさそうに言い放つ。
「お前は最初から欠陥品だ。仲間の力をコピーしても、本物にはなれない。二番煎じの劣化品──それがお前の全てだ」
胃の奥から酸っぱいものが込み上げた。
「違う……俺は……!」
声が震えた。
言葉に力が入らない。
すると──小さな影が前に出た。
幼い俺だった。
「僕を見捨てたのは、君自身だよ?」
「……やめろ」
幼い俺は、ひどく冷たい目で笑う。
「君に何ができる?邪魔者だよ。重荷だ。誰にも必要とされない」
カッと視界が滲んだ。
「っ……やめろ……!」
膝が崩れ、地面に手をつく。
頭の奥がガンガン痛む。息が掠れる。
「レオンはそんなのじゃない」
はっと顔を上げた。
幻影のミルが、目の前に笑顔で立っていた。
だけど。
「弱い男に魅力なんてないのよ?」
ザクリと心を切り裂く毒笑。
もう一度、心臓を掴まれる。
続いて現れるのは──セリナ。
だがその瞳は、どこまでも空虚だった。
「あなたが傷つく価値なんて、ない」
世界が音を失った。
俺は両耳を塞いだ。
「違う……聞きたくない……!」
幻影たちは容赦なく近づく。
「逃げるなよ無能!」
「また泣き喚くのか?」
「お前なんて、生まれてこなければよかった!」
ついに心が折れかけたその瞬間──
ガシッ!!!
誰かが腕を掴み、強く引き寄せた。
「レオン!!」
驚いて振り向くと──
瞳を赤くし、荒い息を吐きながら走ってきた本物のミルがいた。
「あ……あれ……?」
ミルは涙のにじんだ目で、俺を睨む。
「何してんのよっ!」
そして怒鳴りながら、俺の胸ぐらを掴む。
「ひとりで勝手に沈んでんじゃないわよ、この大バカ!」
「ミ、ル……?」
「レオンがいなくなるなんて……嫌に決まってるでしょ……!」
泣き声が混じった怒鳴り声。
その震えが胸を揺らす。
「後ろばっか見てんじゃないわよ!あたしが……今ここにいるでしょ!その手、離したことなんてないんだから!」
「……ミル……」
言葉にならない。
ミルは唇を噛みしめ、涙を流しながら訴える。
「辛かったなら、ちゃんと言いなさいよ……あたしが聞くから……!慰めるから……!笑わせるから……!……だから……ひとりで苦しまないでよ……」
その一言で、全ての重りが外れた気がした。
俺はミルを無意識に抱きしめていた。
「……ありがとう。お前がいてくれて……本当に良かった」
ミルは驚きで少し硬直したが──
次第に俺の背中に両腕を回してくる。
「もう……いなくならない?」
耳元で震える声。
小さすぎる声。
俺はそっと彼女の頭を撫でた。
「離れないよ。絶対に」
「……っ、約束だからね……!」
ミルの温度が、俺に強烈な現実を返してくれた。
胸の霧が消え去る。
その瞬間。
パリンッ!!
周囲の幻影たちが砕け散った。
白い光が溢れ、霧は一気に晴れていく。
ミルと繋いだ手から、暖かい魔力が溢れ出していた。
融合コピー──
俺たちの力が共鳴し、形を成す。
影が俺の周囲を包み、風が背中の翼となる。
「これが……俺の力……!」
ミルが涙を拭いながら、ニッと笑った。
「ほらね。レオンは無能なんかじゃないわよ」
その笑顔は、世界のどんな光よりも眩しかった。
──だが。
足元に、不穏な魔法陣が浮かび上がった。
脈打つ禍々しい光。
耳鳴りのような低い音。
ミルの表情が引き締まる。
「……まだ終わりじゃないみたいね」
俺も頷いた。
「むしろ、ここからが本番だ」
ミルの手を強く握る。
「一緒に行こう、ミル」
「当たり前でしょ!……あたしの大馬鹿レオン」
俺たちは同時に前へ踏み出した。
暗闇の奥で、何かが唸り声を上げている。
協会が仕掛けた陰謀が、牙を剥こうとしていた。
でも──
もう俺は怯えない。
だってミルが傍にいる。
そして。
遠くで光が瞬いた。
セリナがこちらを探しているのが、直感でわかった。
俺には──
守りたいものが、こんなにもある。
拳を握る。
「行くぞ。仲間を助けに」
「合図もなしに走るんじゃないわよ!……ちゃんと隣を見なさい」
ミルが照れ隠しに俺の肩を小突く。
その横顔に笑い、一緒に駆け出した。
幻影の試練は終わった。
逃げずに、痛みと向き合えたから。
次は──
俺の力で未来を掴む番だ。
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