第6話 暴走!ミル vs ノワール
「ふぅ……なんとか模擬討伐も終わったな」
俺が訓練場のベンチにどさっと腰を下ろした瞬間、ミルはテーブルの上にピョンと飛び乗り、ジュースをぐびぐびとうまそうに飲み干した。
「うんっ! あの狼、意外としぶとかったね!
でもミルの風には勝てなかったけど!」
隣で腕を組むノワールが冷ややかな声で被せてくる。
「我が影結界がなければお前の矢など届いていない」
「何よその言い方! レオンを助けられたのはミルの功績なんだから!」
「勘違いするな。契約者を守ったのは我だ」
「はぁ!? 影が偉そうに言うなぁ!」
バチバチバチッ――
風と影が本気でぶつかり始める。
(あー……また始まった)
俺は両手を上げて急いで割って入った。
「ちょ、ちょっと! 休憩中ぐらい静かにしよう!?」
「レオン! 見てたよね!? ミルのサポートが完璧だったって!」
「いや、我の力がなければ倒しきれていない。つまり――」
ノワールが一歩前へ出た瞬間。
ミルが俺の腕をぐいっと掴む。
「レオン、ミルのほうが必要だよね? ね?」
「……どっちも必要だけど?」
「優先順位を誤るなよ、契約者」
「優先って何の話!?」
「決まっている。我が第一契約者だ」
「はぁぁ!? ミルが一番に決まってるでしょ!!
風の精霊はレオンの相棒なんだから!」
「我は闇。上位精霊に近しい存在だ。比べるまでもない」
「それ言う!? 喧嘩売ってる!? 買うから!!」
ミルが風を巻き上げ、ノワールの影が滲む。
(やばいって!!)
「このギルドで暴れるなって!」
俺の声なんて届かない。
――ビュオォォォ!!
突風が訓練場を荒らす。
「うわぁぁ! 書類が飛ぶーー!!」
「なんだ台風か!? 精霊同士の喧嘩か!?」
「ミルやめろ! 職員さんが被害受けてる!」
「うるさい! ノワールの影を吹き飛ばすの!」
「笑止。やってみろ」
――ゴゴゴゴゴ……
地面に影が触手みたいに蠢き出す。
俺の背筋が凍る。
「消すぞ。雑音を」
「消すなぁぁぁ!!!」
もはや俺のツッコミも虚しい。
◆
「レオンはどっちを選ぶの?」
ミルが挑発的な視線を向けてくる。
「選択を誤れば後悔するぞ、契約者」
ノワールも詰めてくる。
「なんで俺が二択迫られてるんだよ!?
二人とも大切だって! 仲間だろ!?」
「ふん、仲間? 我は主に仕えているだけだ」
「レオンはミルの旦那だもん!!」
……は?
ギルド中が凍りつく。
「旦那……?」
「あれ……レオンくん結婚してたの……?」
「ち、違う!! 誤解だ!!」
顔が爆発しそうに熱くなる。
「ミル! そういう意味じゃないからな!?」
「誤解じゃないよ! ミルはレオンが大好きなんだもん!」
ノワールが鼻で笑う。
「子供の独占欲か。愚かだ」
「なっ……!」
――ドォォォォン!!!
爆風と影の衝突に、訓練場が半壊。
「おいこらァァ!! 何やってやがる!!」
「す、すみません!!!」
俺は即土下座。
ミル&ノワール
『どっちが大切なのか答えろ!!!』
「両方だよ!!」
「……ほんと?」
「嘘ならば魂を喰らう」
「ほんとだってばぁぁぁ!!」(泣)
ぴたり。
風が止まり、影が消える。
ミルは頬を赤くしてそっぽを向く。
「……なら、いいけど」
ノワールも目を逸らしながら。
「誤解するな。我が優位なのは変わらぬ」
「なんだと!?」
「はいストップおおおお!!」
また喧嘩しそうになる二人を必死に押さえた。
職員「ったく……手のかかる新人だ」
俺「すみません……本当にすみません……」
◆
ギルドを出た俺は、ぐったりと腰を落とした。
「精神力の消耗が激しすぎる……」
ミルがちょこんと隣に座り、袖をそっとつまむ。
「……レオン、ごめん。
ミル……暴走しちゃった」
「俺だって助かってるよ。ありがとう」
そう言うと、ミルの顔がぱぁっと明るくなった。
「じゃあ! ミルが一番――」
「はいその話はストップ!」
俺はすぐさまノワールを見る。
影の精霊は木に寄りかかり、そっぽを向いたまま小声で呟く。
「……悪かった」
「ノワールが謝った!?!?」
「聞かなかったことにしろ」
……ほんと、扱いづらい。
空を見上げると、心地良い風が吹いていた。
「試験はまだ続く。三人で、力を合わせていくぞ」
「もちろんだよ、レオン!」
「ふん。好きに使うがいい、主」
(ほんと、不器用な奴ら)
だけど――
ちゃんと、俺の仲間だ。
◆
そしてその時。
ギルドの陰から視線を感じた。
振り返ると――
白い法衣の少女がこちらをじっと見ていた。
銀の髪に、淡く光を宿す瞳。
(……誰だ?)
少女は小さく息を吸い、
祈るように呟いた。
「レオン・アルヴェン……
あなたは――精霊に、好かれる人……」
どこか寂しげで、
それでいて強い光を秘めた瞳。
次の出会いが、確かに始まろうとしていた。
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