第5話 模擬討伐 ― 森の魔獣を狩れ!
「それじゃあ、次の試験項目を始める! 準備できたパーティーから出発しろ!」
ギルド職員の号令が響くと、広場が一気に騒がしくなった。
試験参加者たちが武器を構え、緊張感が漂う。
標的は――
「《サーベントウルフ》。B級魔獣の討伐任務、ね」
肩に乗ったミルが、腕を組んでうんうんとうなずく。
「ワンコなんて余裕っしょ! 風でぴゅーん!よ!」
「いやいや、相手は獰猛な魔獣だぞ。油断は禁物だ」
横でノワールが影の中から端正な顔を覗かせ、冷たく言い放つ。
「ふん。風の小娘が調子に乗るなよ」
「言ったわね闇オバケ!?」
「オバケではない。闇の高位精霊だ」
うん、相変わらず仲悪いなこの二人。
「喧嘩するな。戦う相手は魔獣だぞ」
「「こいつが先に!!」」
ぴしゃり、ハモった。
……大丈夫かな本当に。
森の入口。
樹々が影を落とし、空気がひんやりしてくる。
「ここが試験会場か」
視界の奥で、遠吠えが聞こえた気がした。
《サーベントウルフ》――大きな牙と毒爪を持つ狼型魔獣。
集団行動で狩りをする、危険な存在だ。
「油断すんなよ。索敵はミル、補助はノワール頼む」
「任せて! レオンの期待には応えてみせる!」
ミルは腰に手を当て、風を纏って森へと飛び込む。
「契約者、無茶はするなよ」
「お前が暴れすぎなければな」
ノワールは影と一体化し、周囲を探るように広がっていく。
――ここはチームとしての力量が試される。
しばらく歩くとミルが戻ってきた。
「いた! 大きいのと中くらいのが二匹!」
「多頭構成か……普通に厄介だな」
「レオン、どう動く?」
ノワールが低い声で促す。
「ミルが注意を引いて、その間に俺とノワールで一体を確実に落とす」
「了解っ!」
ミルは風を纏い、軽やかに駆け出す。
「おーい! こっちよワンコたち!」
茂みが揺れ、牙を剥いた魔獣が飛び出した。
《ガルルゥオォォ!》
一回り大きい。確かにB級だ。
「いいぞミル、こっちの分離成功!」
「じゃあ任せるねっ!」
ミルがそれを誘導し、背を向けて跳ぶ。
風のステップで木々の間を滑るように駆け回る。
「影縛り《シャドウバインド》」
ノワールの闇が地を伸び、狼の動きを拘束する。
「今だ、レオン!」
「風刃!」
ミルが放った無数の風の刃が、狼へと襲いかかる。
「ぐっ!?」
牙を食いしばり耐えた魔獣が、咆哮しながら突進してきた。
「耐えるか……なら!」
「レオン、後ろ!」
もう一体が、影のように飛びかかってきていた。
間に合わない――!
「どけッ!」
ノワールがすぐに影の盾を展開し、衝撃を防ぐ。
だが衝突の勢いが強すぎて、俺まで吹き飛ばされた。
「レオンッ!!」
背中を木に打ち、痛みが走る。
「くっ……!」
ミルが駆け寄ろうとした瞬間、最初の魔獣が牙を剥いた。
「危ない、ミル!」
――影が弾けた。
ノワールがミルを抱えて後方へ移動していた。
「ふん。足手纏いめ」
「なッ……!?」
「お前が落ちたらレオンが困るだろうが」
その言葉に、ミルが一瞬固まった。
「な、なによ……素直に言えばいいじゃない……」
「言っているだろうが」
あれ、仲良いの?
いやそんなわけは……
そんな二人のやり取りの間も、魔獣は迫りくる。
「終わりだ!」
俺は剣を構え、風を纏わせた。
「ミル、援護を!」
「了解っ!」
ミルが風の矢を放ち、狼の脚を狙って撃ち抜く。
「今!」
「影裂き《シャドウスラッシュ》!」
ノワールの闇が肉体を貫き、魔獣が地に伏した。
「よし……!」
息を整え周囲を確認すると、もう一体も倒れていた。
「私が風でぶん殴った!」
ミルがどや顔。
「いや、俺の影で削った分が決め手だろう」
「なにおー!?」
再び喧嘩が始まりそうになり、慌てて両手を広げて止めた。
「はいはい! 二人とも十分すごかったから!」
「「まぁな!」」
……息ぴったりじゃねぇか。
「見事だったぞ、レオン」
戻った俺たちを、ギルド長エドガーが迎えた。
「精霊二体の連携……噂以上だな」
ミルの胸がどんどん張っていく。
「でしょでしょ! レオンはすごいんだから!」
「レオンの実力ではなく、我らの実力だ」
「はあ!? レオンあっての私たちでしょ!?」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ二匹(※一人と一体)。
エドガーは思わず笑った。
「……これからが楽しみだ」
その目は、ギルド長というより賭博師のようにギラついている。
「さて、休憩時間中は自由だ。次は――」
「次は?」
「……チーム試験の前に、急きょ追加項目が入った」
嫌な予感しかしない。
「――暴走防止テストだ」
ミルとノワールを見る。
ミルは震える。
ノワールは目を逸らす。
俺も思わず天を仰ぐ。
「……お前らのせいだな?」
「「違う!!(きっぱり)」」
――嘘つけ。
エドガーは肩をすくめ、書類を投げてよこした。
「お前たち、想定外の力を持っている。それを証明してもらう」
つまり――
精霊複数契約者の能力を、より深く検証するってことだ。
「レオン! 休憩中はデートしよ!」
「契約者。闇の訓練だ。付き合え」
「ちょっと!? なんで闇オバケとデートなのよ!」
「デートと言った覚えはない」
「いいからやめろ二人ともっ!」
もう、頭が痛くなってきた。
でも――悪くない。
誰にも必要とされなかった俺が。
いま、こんなにも賑やかに戦っている。
「次も勝って、最高の結果を出すぞ」
俺がそう言うと、二体は同時に胸を張った。
「当然!」
「任せておけ」
日差しの降り注ぐ広場に、俺たちの声が響いた。
――無能と呼ばれた俺の、成り上がりは止まらない。
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