第4話 裏で蠢く協会の影
「次の試験まで時間が空くな。少し休んでおけ」
エドガーの声が響き、観客のざわめきもゆっくりと落ち着いていく。
熱戦の余韻が残る闘技場で、レオンは大きく息を吐いた。
「ふぅ……引き分けだってさ」
「勝ったよ! あれは完全に勝ってたからね!」
肩に乗ったミルはぷんすか怒りながら、勝利のVサインを掲げる。
「結果は結果だよ」
「レオンは優しすぎるんだよ! あんなやつ、風で全裸にしてやればよかったのに!」
「やめろ!?」
ぎゃいぎゃいと騒いでいると――
「……レオン・アルヴェン、と言ったな」
背後から、氷のような声が降りてきた。
振り返ると、黒いローブをまとった男が立っていた。
その胸元には、銀色の紋章――
ミルが小さく震える。
「……あの紋章、精霊協会……」
「初めまして。私は協会本部から派遣された調査官、レクス=グラディウス」
笑っていない口元。
笑っていない目。
「精霊を……二体、従えているのだな」
「別に、従えてるってほどじゃ……」
「ほう。では、どう呼べばいい?」
ノワールが影からゆらりと現れた。
「貴様の視線、気に食わぬな。人間」
ぞわり、と闇が広がり周囲の空気が重くなる。
観客が息を呑む。
レクスは眉一つ動かさず、ノワールを上から下まで観察した。
「闇の精霊……しかもこの圧……興味深い」
「興味……?」
「研究材料として、だ」
即答。
悪びれもない。
ミルの顔から血の気が引いた。
「レオン、やだ。目が完全に変態のそれ」
「協会は精霊を保護する機関……だったよな?」
「言葉の解釈次第だ」
ノワールが一歩前に出る。
「レオン、下がれ。コイツ……本物の悪意だ」
「さて。試験、楽しみにしているよ。結果次第では――」
レクスは、まるで上質な宝石を値踏みするような目でレオンを見た。
「君を協会に引き取らせてもらう」
「冗談じゃない!」
ミルが風を巻き起こし、警戒態勢を取る。
「邪魔だ」
レクスが手を軽く振ると――
ミルの身体がふっと消えた。
「えっ!? ちょ、どこ!?」
観客席の屋根の上にワープしていた。
「ぬおおお!? なんであたし空の上ぇぇぇええ!?」
「安心しろ、すぐ落ちる」
「落ち──わああああああ!」
レオンが急いで風を生み、受け止める。
「一つ忠告を」
レクスはレオンの耳元で低く呟いた。
「精霊を持つ者は、皆……協会の管理下にある」
そして背を向ける。
「逃げられると思わないことだ」
黒いローブが闘技場を去ると同時に、周囲の空気がようやく解放された。
レオンは息を呑んだ。
「……なんだったんだ、アイツ」
ノワールは忌々しそうに舌打ちする。
「精霊を管理か。薄汚い思想だ」
「協会って、そんなところなのか?」
「昔からだ。精霊の力を道具としか見とらん」
ミルが目を潤ませながら戻ってきた。
「レオン……あたし、怖かった」
「大丈夫。俺がいる」
「うん……」
ノワールが鼻で笑う。
「貴様が守れるとは限らんがな」
「ノワール」
「……と言いつつ、俺もこの器を気に入っている。奪われては困る」
ツンデレか。
◆
控室へ戻ると、ギルド長エドガーが腕を組んで待っていた。
「さっきの使者……まさか協会に目ぇ付けられるとはな」
「ギルド長、協会って……」
「言葉は綺麗だが、やってることは真っ黒だ。精霊使いは皆、監視対象だ」
「監視……」
ミルが怯え、ノワールが闇を濃くする。
「気にするな。お前はギルドの保護下だ。俺のツラに泥さえ塗らなきゃ守ってやる」
「それ慰めになってませんよ」
エドガーは豪快に笑い、
「大丈夫だ。精霊たちと一緒なら、どんな敵も敵じゃねぇ。その力、存分に見せてやれ」
レオンの目に火が宿る。
「もちろんです」
「で、次の試験だが――」
ギルド長は手を叩き、書類を差し出した。
「模擬討伐試験。場所は城外の魔獣の森だ。実戦形式だな」
「森! やだぁ虫がいるとこ!」
「魔獣の心配しろ!!」
ノワールがにやりと笑う。
「良い。戦いが続く方が退屈せずに済む」
レオンは拳を握りしめた。
「協会なんかに負けない。俺たちの力を見せてやる」
ミルは胸を張り、ノワールは暗く微笑む。
三人の影が、ひとつに交わった。
「模擬討伐、楽しみだな」
その言葉が、静かな闇を呼び覚ましていた。
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