表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊契約でパーティー追放されたけど、今さら戻ってこいとか言われても遅い!  作者: 夢見叶
第6章 氷の王国と契約の少女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/111

第18話 契約の再誓

 凍った核が、白銀の床の中心で呼吸していた。

 触れれば砕けるのではなく、近づけばこちらの拍を奪う。古代の絶望が、固い温度のまま閉じ込められているのが分かる。


 俺は一歩進み、胸の《炎紋》に指を当てた。右手の六花が、それに同拍でひらめく。


「――もう一度、共に歩もう」


 白い声が降りる。

「……ならば、この氷を融かしてみせよ」


 試す声じゃない。問う声だ。なら、答えるのは力じゃない。


 隣で、フローリアが俺の右手にそっと自分の手を重ねる。掌は上。支配でも服従でもない合図――ただ“間に立つ”手だ。


「いこう、レオン」

「ああ」


 呼吸を合わせる。均熱:丸め:間=三:二:一。

 胸の白金が静かに広がり、六花が二人の間で同拍になる。俺の手の六花は二重――心奥で受け取った核鍵片が第二層を刻んだからだ。


 床に薄い花弁の輪が咲き、凍核へ向けて通路が伸びた。


「始める」

 俺は宣言で言葉を置く。

「奪わず、閉ざさず、隣に在る」

 フローリアが頷く。

「痛みを分け、角を丸め、輪に戻す」


 二人の声がひとつに重なる。


「――《氷華契約ブリザード・リンク》!」


 白銀の空気が一歩、やわらぐ。凍核の表面に走っていた微細なひびが、音をやめた。


 まずは均熱だ。

 炎紋を白金域にとどめ、熱を燃やさずにならす。凍核の内側に積み重なっていた温度梯子――冷とさらに深い冷の段差が、ゆっくりと均された。

 氷は解けない。けれど、角へ至る最短経路が消える。熱と冷のけもの道が草に覆われていく感覚。


「次、わたし」

 フローリアの睫に、涙がひと粒、生まれる。落ちる前に光になり、通路へ染み込んだ。


 涙継ぎ。

 氷の中に封じられた言えなかった痛みが、細い水路で俺たちへ分けられてくる。胸の奥がひとつ、重くなる。けれど――切れない。

 遠くでリアの祈りが糸を太らせ、エリシアの橋が通路を安定させる。

「拍、大丈夫。通ってる」

 耳の片隅でゼルフィアの声。

「負荷、上限近い。三拍ごとに均熱で削って」

 了解、と短く返す。


 黒銀の棘線が外周から滲み込んだ。ゼファードだ。

「移送門残骸、再利用――後段式・改」

 彼の乾いた声。広間の縁に黒い柱が再び芽を出す。


「させない」

 ミルの風が視線を白に染め、スヴァルドの剣が結び目を正確に穿つ。

 カイが壁際で血の味を噛み殺し、「十拍は稼ぐ」と笑い、ゼルフィアの雷が棘線へ逆相を差し込む。

 味方のリズムが、俺たち二人の足場を支える。


「最後――つのを丸める」

 フローリアの指先に、氷花が咲いた。凍核片の鋭い稜に花が次々と重なり、角が丸面へ変わっていく。

 俺はその丸面へ、白金の均熱をそっと通す。焦らず、焦がさず、ただ温度差を削る。

 氷の中で、閉じ込められていた断片が水になる。水は通路を伝い、床の花環へ帰っていく。


 城下の誓環歌が、広間へ届いた。母音の輪が一段大きくなり、吹雪の粒が音符みたいに舞う。

 凍核の中心が、透明に透けた。

 俺は、古の一句をもう一度復唱する。


「精霊は人を信じたい。人もまた、精霊を信じるためにいる」


 白い声が、わずかに頷く。

 最後の角へ、二人の六花を重ねる。空気がきいんと澄み、氷が――解けた。


 吹雪が歌へと変わる。

 白銀の広間に、静かな和音が満ちた。王城の軋みが止まり、崩れていた細かな氷片が雪に戻って床をやさしく覆う。


 白光の外套が、人の輪郭へ収まっていく。

 氷の王――ルシエルが、こちらを見る。

 低く、短く。


「……応えよう」


 熱でも冷でもない、承認の言葉。

 次の瞬間、俺とフローリアの手の甲に印が刻まれた。二つの六花が絡み合い、輪を形作る――氷華輪紋。

 痛みもない。ただ、わずかな温が皮膚の下に広がった。


 広間の縁で、ゼファードが副官に短く告げる。

「目標、奪取不能。計画は次相に移行。――撤収だ」

 黒銀の柱が沈み、棘線がほどけていく。彼の灰の瞳は最後まで揺れない。けれど、その視線は負けを認めていた。


「ふぅ……終わった?」

 ミルが腰に手を当てて息を吐き、

「終わってない。次は始まりだ」

 カイが苦笑して、脇腹を押さえる。

 リアの祈りが細くなり、エリシアが胸の紋に手を添える。

「……橋は、保てた」


 ルシエルの視線が、ゆっくり王都の方角へ向いた。

 白い風が一度、屋根の上を撫でる。雪が新しい拍で舞い、街路の灯がひとつ、またひとつと温を取り戻す。


「重すぎる痛みは――」

 王は静かに言った。

「眠りに返そう」


 白い雪が、記憶の角を丸めるために降っていくのが分かった。泣き声は消えない。けれど、刺さらなくなる。

 それは奪う行為ではない。隣に在るための忘却だ。


 フローリアが、俺の手をぎゅっと握った。

 氷華輪紋が、二人の拍で微かに光る。


「ありがとう、レオン」

「こっちこそ」


 王の白光が少しだけ薄れ、広間に静寂が落ちる。

 遠くの誓環歌は、もう“祈り”というより“子守歌”に近かった。


 ルシエルの声が、本当に小さくなる。

 眠りの前に、灯を残すように。


「――お前の炎が、また世界を照らす日を願おう」


 胸の白金が、ふっと灯った。

 その温度を忘れないうちに、俺は目を閉じ、ひとつ呼吸を整えた。


 輪は歌に戻った。

 そして歌は、次の静けさへ。

 最後までお読みいただきありがとうございます。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークすると更新通知が受け取れるようになります!


ブクマ、評価は作者の励みになります!


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ