表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精霊契約でパーティー追放されたけど、今さら戻ってこいとか言われても遅い!  作者: 夢見叶
第6章 氷の王国と契約の少女

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/110

第16話 フローリアの覚悟

 白い風が一度だけ、広間の天蓋を撫でていった。

 氷意――王の息だ。その余韻に、フローリアの小さな肩が震える。


 さっきの直撃で、彼女は片膝をついた。氷花の盾は粉々に砕け、花片になって床に散っている。

 王の輪郭は、なお白光のまま。けれど、その目だけが確かに此方を量っていた。


 俺は右手の六花紋を灯し、半径数歩に無音帯を広げる。胸の《炎紋》は白金域へ――均熱:丸め:間=三:二:一。

 指先に凍焼の痺れ。ゼルフィアの位相板には、無理な踏み込みが危険だと赤い線が跳ねている。


「無闇な介入は均衡を壊す」

 剣を半ば抜いたスヴァルドが、低く忠告だけ置いて一歩引いた。ミルは風で視界を白くし、カイは片手で脇腹を押さえながら敵の再突入を抑えている。リアの祈りは細い糸になって、俺たちの拍を縫い止めていた。


 フローリアが、ゆっくり立ち上がる。砕けた花片を踏まないように、足さきで確かめる仕草がやけに慎重だ。

 彼女は震える指で胸の六花に触れ、はっきりと顔を上げた。


「逃げない。受け止めるって言ったのは――」

 一拍置き、言葉をつなぐ。

「あなたの痛みを、私の中に分けるってこと」


 王の白光が、わずかに濃くなる。問いが試しへ傾く、その境目の空気。

 俺はすぐに壁際へ返路アンカーをふたつ刻んだ。薄い花紋が開閉を繰り返し、「帰る場所」を約束する。


「フローリア」

「大丈夫。間で、いく」


 彼女は六花を逆手に取り、白光の内側へ一歩踏み出した。

 視界がひとつ、裏返る。――俺には、輪郭しか見えない。けれど、同拍が繋がっているからか、時々、白の向こうの映像が透けてくる。


 心象雪原。

 声にならない泣き声、名を捨てる宣言の残響、凍死を避けるための延命――滅びの約定の断片が、白い欠片になって舞っている。

 フローリアの肩が細かく震え、彼女は膝に手をついた。


「……これが、王が背負った温度」

 唇がかすかに青くなる。俺の指先にも、内側から冷が伝わってきた。


 白い声が雪原を渡る。

『分けられぬ痛みを凍らせる以外に、術はなかった』


 フローリアは、ゆっくり立ち上がった。

 涙が結晶になって睫に残り、光る。次の瞬間、彼女は噛み殺していた呼吸ごと、鋭い言葉を吐き出した。


「――そんな終わりしか選べなかったの?」

 白がびりっと震える。

「あなたは一人で全部抱えた! 輪は、分けるためにあったのに!」


 王意が波になって押し寄せ、風が強くなる。ゼルフィアの盤が警告を鳴らし、俺はミュートの輪を一段厚くした。凍焼が肘へ走る。

 リアの声が耳の底で温く、ミルの風が視界を白に整え、カイの靴音が敵を遠ざける。スヴァルドの剣先は微動だにせず、ただ結び目の位置だけを待っている。


 雪原の真ん中で、フローリアが両手をひらいた。

「奪わず、閉ざさず、隣に在る――なら、痛みだって分け合えるはずよ!」


 結晶だった涙が、水に変わった。ぽたりと落ち、六花に染み込むと、小さな光が雪原の風に混ざって角を丸くしていく。

 涙継ぎ――古い儀式の名が、なぜか俺の舌の裏で温度を持った。


『……分ける、か』

 白い声が、ほんのわずかに低く、穏やかになる。


 フローリアは雪に散らばる二つの欠片――滅びと記憶保存の断章――を両手で抱え、そっと合わせ面を作った。

「角を……丸めて」

 彼女の指先で、薄い花びらのような氷が咲く。氷花継手。冷たさの形が、輪になるための継ぎ手だ。

 合わせ目に淡金が差し、白の文様の中に、人のぬくもりが筋を通す。


 広間の床でも、同じ変化が起きた。白銀の文字に淡金が一本、降りてくる。俺の無音帯は保たれ、ゼルフィアが小声で告げる。

「通れる温度帯、あと三拍は持つ」


 雪原の風が静まり、王の輪郭が一段くっきりした。フローリアは掌を上に向け、もう一度差し出す。

「私が王の意志を受け止めます。でも――独りじゃない。輪で、一緒に」


 白光がその掌に触れた。温度の底で、微かな体温が混ざるのが分かる。

 試しは、再び問いへ戻った。


 その瞬間、雪原の正面に古の鏡門が立ち上がる。上部には原初誓句。


《奪わず/閉ざさず/隣に在る》


 鏡面の奥で、黄金時代の薄い昼が揺れた。レオニスと、白い王と、幼いフローリアの影。

 現実の広間で、俺の六花紋が白金に強く光る。鍵は揃った。


 フローリアが振り向く。――距離のはずのものが、距離でなくなる。彼女の視線が、まっすぐ俺に届いた。

「扉は開く。行って、レオン」

 囁きは、氷よりも澄んでいる。

「――あなたにしか触れられない場所がある」


「……分かった」

 俺は息を整え、あえて短く答えた。言葉を長くすると、拍が崩れる気がしたからだ。


 白い声が、静かに降りてくる。


『……問う者として、聴く』


 天蓋の吹雪が一拍だけ弱まり、城下の誓環歌が濃く聞こえた気がした。

 王国の白が、歌に近づく。


「行け」

 スヴァルドが視線だけで合わせる。

「三拍、稼ぐ」

 カイが血の味を噛み殺して微笑う。

「道は押さえるから!」

 ミルが風の指で廊を広げ、

「祈りは通る、今なら」

 リアが淡金の糸をさらに太くする。

 ゼルフィアの盤に青い線が灯る。

「ダイブ可能域、今」


 フローリアが、最後にもう一度だけ、雪原の王へ触れた。

「――あなたの記憶が……残酷すぎる。だから、分けよう。ここから先は、一緒に」


 白光の中で、極小の頷きがあったように見えた。

 鏡門の縁が、ゆっくりと開く。


 俺は右手の六花に拍を落とし、胸の炎をならす。

 均熱:丸め:間=三:二:一。

 きざはしが白の内側に延びる。


 ――行く。

 輪を、もう一度歌に戻すために。

 最後までお読みいただきありがとうございます。


「面白かった!」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後どうなるのっ……!」


と思ったら


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。


面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に感じた気持ちでもちろん大丈夫です!


ブックマークすると更新通知が受け取れるようになります!


ブクマ、評価は作者の励みになります!


何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ