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精霊契約でパーティー追放されたけど、今さら戻ってこいとか言われても遅い!  作者: 夢見叶
第6章 氷の王国と契約の少女

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第14話 王女の涙

 最初に冷たくなったのは、空気の音だった。


 王核室前の広間に、白い風が走る。

 エリシアの肩口――鈴刃に裂かれた傷痕から、細い氷光が脈打って床へ落ちる。淡金の古式誓句が、白青のノイズを帯びてきしんだ。


 王核が低く鈴を鳴らす。広間の氷文字がざわつき、氷の暴風が起きた。

 近づこうとしたフローリアの手が、弾かれる。ミルの風は巻き上げられ、リアの祈りは乱反射で散った。

 スヴァルドが剣を半ば抜きかけて止める。

「無闇な介入は均衡を壊す」


 エリシアは胸を抱いたまま、呼吸が乱れている。ほおを伝う涙が、床で結晶になって弾けた。


「来ないで……来ないで……!」

 細い声は、風の刃になって自分を守る方へ曲がる。


 黒銀の旗が角の向こうで再編の気配を立てる。ゼファードは距離を取り、計測だけを続けているようだった。


 俺は右手を上げる。六花紋が胸の炎と同拍で鳴った。


「遮る」

 掌から淡金の輪を広げる。共鳴遮断――半径数歩の無音帯が広間にひとつ、浮いた。

 胸の呼吸を数える。均熱:丸め:間=三:二:一。三拍吐き、二拍で角を丸め、最後の一拍で空ける。


 凍焼の痺れが腕に走る。大丈夫、持つ。


 俺は暴風の中心へ声を投げた。命令じゃない、宣言で。


「奪わない。閉ざさない。――隣に在るために、俺は来た」


 エリシアが顔を上げる。瞳の奥で、氷と人の二重紋がぶつかっている。

 反射で拒絶しかけた唇から、言葉がこぼれた。


「わたしは……人でも、精霊でもないの……! どちらにもなれない……!」


 風が鋭くなる。床のノイズが、さざ波から波頭へ変わる。


「なら、こうしよう」

 俺は一歩、さらに踏み込む。六花の輪が足元でちりと音を立てた。

 掌を上に向けて差し出す。支配でも服従でもない合図。――ただ間に立っていると示す手。


「そんなことない。お前はお前だ。人でも精霊でもないその間に、立てるのがお前だ」


 触れそうで、触れられない距離で、彼女の指が震える。

 結晶の涙がもう一粒、落ちる。――割れずに、溶けた。


 彼女の手が、そっと、俺の掌に重なった。


 同拍が合う。

 六花紋と混血紋が一度だけ強く光り、暴風の縁が丸くなった。

 リアの祈りがようやく通る。ゼルフィアの位相板に、ノイズが減衰するグラフが滑っていく。

 スヴァルドが剣先を下げた。

「均衡、戻る」


 フローリアがふたたび肩に触れる。今度は弾かれない。

 彼女の冷は柔らかく傷口の周りを包み、痛みの角を丸める。


「……ごめんなさい」

 エリシアが、俺の手を握ったまま小さく息を吐く。

「怖かった……どちらにも、嫌われるのが」


「嫌われてない」

 俺は首を振る。

「俺が、ここにいる」

「……ずるい言い方」

 うっすら笑ってから、彼女の目にまた涙が溜まる。今度は水のまま、静かに落ちた。


 そのときだ。

 広間全体の拍が、自然にそろってしまったのが分かった。

 火――俺。氷――フローリアと奥に横たわる王核。間――エリシア。

 三者同拍が、誰も意図せず成立する。


 王核室の扉に刻まれた封印紋が、ひとつ、またひとつとほどけていく。

 逆流する黒銀の棘線ではない。古式の、淡金の手順。

 ゼルフィアが青ざめた声を上げる。

「待って、これ――正規解錠で動いてる!」

 リアの祈りが震える。

「原初の誓句の通りに……扉が……」


 角の向こうで、ゼファードが振り返る気配はなかった。彼は顔色ひとつ変えず、副官へ短く命じる。

 「後段式へ移行」


 封印紋の最後の花弁が、音もなく解けた。

 広間の床下で、巨大な翼のような影がうごめく。冷気が内側から天窓へ伸び、霜が瞬く間に咲いた。


 エリシアが力を込めて、俺の手を握る。

「わたし、間に立つ。――もう、逃げない」

「ああ」

「レオンは?」

「隣に在る。何度でも」


 ミルが空気を読まず小声で「キマってる~」と言い、リアが肘で小突いた。カイは壁にもたれ、痛い笑いで親指を立てる。スヴァルドは扉の前で、静かに剣を構え直した。


 扉の向こうで、氷翼が広がる音がした。

 天窓の霜が内側から砕け、細かな雪が広間へ舞い落ちる。

 白い風が戻り、けれど今度は、最初に冷たくなった音が――歌に近づいている。


 封印は、もう開く。


 俺はエリシアの手を離さず、胸の拍を整えた。

 次の一言を、受け止めるために。

 最後までお読みいただきありがとうございます。


「面白かった!」


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