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精霊契約でパーティー追放されたけど、今さら戻ってこいとか言われても遅い!  作者: 夢見叶
第6章 氷の王国と契約の少女

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第13話 協会の襲撃

 黒銀の門が、廊下の角に並列で開いた。


 鏡面の向こうに、同じ廊下が見える。そこから、黒銀の近衛が波のように押し寄せる。刻印鏡の門――協会式の転移連結。鈴の乾いた音が拍を刻み、命令の言葉が主語を引いて走る。


「王核は保全のため、協会が預かる」

 拡声の声。ゼファードだ。灰の瞳は揺れない。


 俺は一歩、前に出た。右手の六花が胸の炎と同拍で鳴る。


「――この国の精霊は渡さない!」


 空気がきしむ。

 黒銀の幕が押し寄せ、白銀の床が低くうなる。


「分かれる」

 短く言って、仲間と視線を結ぶ。

「前衛は俺とフローリア。AとBの継ぎ目で共鳴遮断、突入口の鈴を黙らせる。支援はリアとゼルフィア。A側は位相固定→逆相崩し、B側は母音の補強。遊撃はミルとカイ。Cの搬出路を切断して攪乱。エリシアは通行権の確保と避難指示、王核室の鍵を」


「了解!」

 ミルが風の層を靴裏に纏い、カイが頷いて影に消えた。包帯の下、古傷の熱が戻っている顔だ。


 黒銀の近衛が霜封枷網を投げる。空気に張られた枷が、網のように関節を縫い留める。

「共鳴、落とす」

 俺は六花を灯し、淡金の輪を地に広げた。無音帯が伸び、鈴の波形が輪の縁でぷつりと切れる。


「今!」

 フローリアが氷花を散らし、関節の角を丸める。網は丸いものを掴みにくい。近衛の動きがなめらかに失速した。


「位相、固定」

 ゼルフィアの指先で稲光が微振動を刻む。鏡門の縁がわずかにずれ、転移した近衛同士が半歩ずれて衝突した。

「母音、入れる!」

 リアの声が、兵の耳の奥に温い間を置く。揺れた心拍が戻っていく。


 Aレーンはひとまず抑えた。だが、Bの主階段から新手が来る。Cの井戸――搬出路も黒銀が棘線で再活性化している。


「Cに入る」

 カイの声が耳飾り越しに落ちた。ミルと二人、井戸の鎖をすべる音。


 俺は視界を紋視に切り替える。床と壁に淡金の曲線、その上に黒銀の棘線。

 棘線の太い流れは、城の中心――王核室へ。


 Aレーンでの押し引きが一段落したところで、灰の外套がひとつ、前に出た。

 ゼファード。


 従属誓文の合唱が近衛の背後で響き、術の通りが一段、上がる。

「秩序は保管に宿る。名は束ねられるべきだ」

 命令の言葉が、術の骨格に主語を差し込む音がする。


「名は重ねない。間を保証するのが誓いだ」

 俺は答える。言葉は術だ。胸の炎が白金で鳴る。

 ゼファードのまぶたが、ほんのわずかに動いた。感情ではない。計測だ。


 従属誓文と霜封枷網の二段拘束が飛ぶ。

 俺は淡金の共鳴遮断で鈴の根を断ち、フローリアが氷花で角を丸め返す。

 術と術の翻訳。命令を宣言に戻し、縛りを保証へ返す。


 そのとき、耳飾りが短いノイズを吐いた。

「……着いた。ハブ、視界に」

 カイだ。息が上がっている。


「黒銀の棘、三本合流。そこを切れば搬出路は死ぬ」

 俺は視界の地図を言葉にして、カイの耳へ渡す。

「ミル、三拍後に風層で右へ。偽足跡は左に撒け」


「了解っ!」

 風の音が一度、細く鳴り、足音が二方向に分かれていく。追手の視線が迷う。


 金属と布が裂ける、乾いた音。

「……切った。――っ」

 同時に、短い吸気。

 耳の中に、血の匂いが流れ込んでくるようだった。


「カイ!」

「大丈夫……今は倒れない」

 刃の笑い。強がりの角が、喉に引っかかる。


 Bレーン、王核室前。

 白銀の扉の前に、スヴァルドが立っていた。氷鎧の巨影。柄に添えた手が、今は抜くための位置にある。


「今は均衡の剣だ。――共に立つ」

 短い宣言。

「借りる」

 俺は頷き、視界の棘線を指示に変える。

「右の柱、根元に結び目。そこを」


 スヴァルドの剣先が、冗談みたいに正確にそこへ入る。黒銀の棘がほどけ、術の縛りが緩む。

 フローリアが王核室の扉に霜花の楯を重ね、衝撃を丸める。


 階段の踊り場に、血を拭ったカイが現れた。脇腹の包帯が赤に濡れている。

「三十拍、稼ぐ」

 ミルがすぐ後ろで風層を斜面に変え、敵の足元を崩す。

 リアの止血祈りが遠距離で糸のように伸び、ゼルフィアの雷幕が射線を切る。


 ゼファードは微動だにしない。

「奪還だ。神座は空席のままを許さない」

「座を空けたのは、名を捨てた王の責任だ」

 言葉が、火花の形で空間に刺さる。

「俺たちは隣に在る責任を継ぐ」


 回廊の奥から、黒銀の搬出棺が現れた。四脚の台座に棘文。従属誓文が微細な命令で脚を動かし、音もなく進む。


 俺は紋視で搬出路の温度梯子を視る。白金を薄く流し、梯子の段差を削いだ。

 フローリアが霜花の奔流で棺の脚を丸氷に変える。丸は転がるが、止まる。自重に負け、棺は腰を落とした。


 鈴が一段、強くなる。

 ゼファードが出力を上げたのだ。城全体の痛み拍が、鈍く、重く、押し寄せる。

 共鳴遮断の輪を保つたび、右手の凍焼が指へ走る。痺れをフローリアの冷で丸め、もう一歩前へ出る。


「ここは私が開ける」

 エリシアが、王女の鍵を取り出した。混血の紋が肩口できらめき、王核室の正規儀礼路(淡金)が濃くなる。

「だから――守って」


 鍵が回った瞬間だった。

 音のない刃が、斜めに走った。

 鈴の形をした、透明の刃。鈴刃だ。


「――っ」

 エリシアが、王核を庇って身を傾ける。

 肩から胸へ、遅れて痛みが来る。氷と人の二重紋が逆流し、肌の下で位相がきしむ。


「エリシア!」

 手を伸ばしたフローリアの掌が、はじかれた。混血紋のノイズが周囲を弾く。


 王核が低く唸る。白銀の床の文字がざわつき、空気が冷たく尖る。


「退路、印す」

 俺は壁に返路アンカーを二点置いた。花紋が淡く開閉し、戻る場所を約束する。

「カイ、――」

「まだやれる。十拍」

 血の気の引いた顔に、笑いの線が一本、引かれている。強情な線だ。


 エリシアの瞳が氷光に濡れる。呼吸が荒く、言葉が途切れる。

「わたし……わたしは――」


 床に落ちた涙が、結晶になり、はじけた。

 王核がそれに呼応して、さらに低い鈴をひとつ鳴らす。


 ゼファードが視線だけで隊を下げる。撤収のふりだ。次の波を、もう組んでいる。

 黒銀の旗が一歩退き、角の向こうで再配置の足音が混ざる。


 俺はエリシアの前へ出た。六花紋が、胸の炎と強く同拍を取る。

 彼女の両肩を風と冷が避け、誰も近づけない中、ただ一つの間が俺の足元へ開いていた。


「――守る。王核も、この国も、お前も」

 言葉にした責任が、白金の輪になって足元で広がる。


 白と黒の境界が、再びきしむ。

 刃の音はない。鈴の音だけが、冬を長くする。


 俺は右手を握り、次の拍を待った。

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