第12話 覚醒の刻印
控えの間に転がり込んだ瞬間、右手の甲が――きらりと光った。
薄い六花が皮膚の下から浮かび、雪の息みたいにすぐ引っ込む。
自分の手なのに、他人の印がそこに置かれたみたいな違和感。けれど、胸の《炎紋》と喧嘩はしない。ただ、間で拍を合わせてくる。
「……今の、見た?」
「見た見た見た!」
ミルが顔を近づけてくる。
「何それ、ずるい! 前世イケメンとか反則!」
「今それどころ?」
カイが眉をしかめる。けど目はちゃっかり俺の手を見てる。
「沈黙。実験だ」
ゼルフィアがすでに計測用の薄板を取り出していた。
エリシアは半歩下がって胸に手を当て、頬に淡く色を差す。
そして、フローリアが静かに一歩。六花の睫がふるえ、俺の右手にそっと視線を落とした。
「あなた、やっぱり……彼の再来なのね」
胸の奥が、白金で一回鳴った。否定も肯定も追いつかない。
けれど――呼吸は合う。フローリアの冷と、俺の炎の間がぴたりと重なる。
「機能を見る」
ゼルフィアが言い切る。
「レオン、意識を手に落として。視界の変化を報告」
深く息をして、六花に拍を渡す。
世界が線の地図へ切り替わった。
床と壁に走る、淡い金の曲線――古式の誓句が生きているライン。
その上に、針のような黒銀の棘線――協会の改竄ルーンが被さっている。
良い音は丸く、悪い音は角だ。視える。……視えてしまう。
「ゼルフィア、右三歩の石板。黒銀の棘が集約してる」
「了解」
彼女が板を外す。中から、布で偽装された小型送信盤が出てきた。
「やっぱり」
「ほらね!」
ミルがどや顔をする。
「レオンのチート、発動です!」
「チートじゃない。鍵だ」
エリシアが小さく遮る。
「王家文庫に――輪を繋ぐ鍵の伝承があるわ。その紋に、とても似ている」
言葉を重ねるより早く、上層から痛み拍が落ちてきた。
鈴の高さが一段、耳を刺す。兵が眉間を押さえ、氷紋の子がしゃがみ込む。
「レオン!」
「やる」
右手の六花を灯す。掌から淡金の波紋が広がった。
半径数歩、音が消える。鈴は鳴っているはずなのに、ここだけ静かだ。
リアが息を呑む。
「外からの拍が――ミュートされた……!」
代償がすぐ来た。肘から先が凍て、指先が少し痺れる。
フローリアが肩に手を置き、冷の丸めで痺れをなだめた。
「無茶しない。あなたはならす人――壊す人じゃない」
「分かってる」
俺は短く笑って、痺れを振り払う。
「名前も鍵も、間のために使う」
「もう一つ、試す」
ゼルフィアの視線が鋭い。
「撤退ルートの安全綱」
頷いて、壁面の角に右手の花弁を押し当てる。
薄い花紋が開き、すぐ閉じた。そこに、ほとんど見えない返路の印が残る。
「返路アンカー。さっきの記憶界みたいに、短距離なら帰る場所を示せる。緊急用だ」
「それ、めちゃくちゃ便利!」
ミルが二度目の「ずるい!」を叫ぶ。
「過負荷で凍焼が出る。連発は不可」
ゼルフィアが釘を刺す。俺の指先がぴくりと応えた。
息が整ったところで、もう一度紋視に切り替える。
黒銀の棘線が、城内のどこへ流れているか――追う。
一本、二本。枝分かれは多いが、向かう先は同じだ。
上層の儀礼路、封鎖された古井戸――王家の裏通路。そこを通って、城の中心へ集まっている。
「終点は……王城の心臓」
ゼルフィアが図面に線を重ねる。
「図上は死に回線。けど今は黒銀が生きてる」
「つまり、目標はひとつ」
俺は言う。
エリシアがうなずいた。
「王核(氷精霊王の核)」
空気が揺れた。警鐘の拍が切り替わる。
戦闘配列。廊下の端で、黒銀の近衛が隊列を組む気配。刻印鏡の門が淡い光を立てた。
カイが耳飾りを叩く。
「盗れた。『黒銀第一隊、王核搬出路の確保開始』」
ちょうどそのとき、掌に小さな巻紙。スヴァルドの印だ。
――『均衡のため王核室は死守。通行権、王女へ。』
剣は、内乱ではなく外敵に刃を向けるつもりだ。喉の奥の冷気が、少しだけ温度を上げた。
「配置を決める」
俺は仲間を見渡す。
「前衛は、俺とフローリア。紋視で道を見て、共鳴遮断で鈴を黙らせる。
支援はリアとゼルフィア。母音で補強、位相固定と妨害雷は任せた。
遊撃はミルとカイ。視界と足場を崩して、背中を取る。
エリシアは王女権限で避難と通行権、王核室の鍵を」
「了解!」
ミルが親指を立てる。
「合言葉はずるいでいこう!」
「却下」
カイが乾いた笑いをひとつ。肩の包帯をぎゅっと締め直した。古傷の熱が戻っている顔だ。
「カイ、無理は――」
「無理する。今だけは」
短く、軽く。けれど目は笑っていない。
白銀の扉の前に立つ。曲がり角の向こうから、黒銀の旗。
拡声の声が響いた。ゼファードだ。
「王核は保全のため、協会が預かる」
保全。きれいな言葉だ。中身は、奪取。
右手の六花が、胸の炎と同拍で鳴る。
俺は一歩、前へ出た。
「――この国の精霊は渡さない!」
廊下の空気が張り詰めた。
ゼルフィアの指先で雷が細く踊り、リアの母音が息の底で温く溜まる。
フローリアの冷が肩に寄り添い、ミルの足元で風が靴を撫で、カイの刃が低い位置で光った。
白と黒が、角でぶつかる。
六花紋がまた、きらりと光った。
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