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精霊契約でパーティー追放されたけど、今さら戻ってこいとか言われても遅い!  作者: 夢見叶
第6章 氷の王国と契約の少女

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第12話 覚醒の刻印

 控えの間に転がり込んだ瞬間、右手の甲が――きらりと光った。


 薄い六花が皮膚の下から浮かび、雪の息みたいにすぐ引っ込む。

 自分の手なのに、他人の印がそこに置かれたみたいな違和感。けれど、胸の《炎紋》と喧嘩はしない。ただ、間で拍を合わせてくる。


「……今の、見た?」

「見た見た見た!」

 ミルが顔を近づけてくる。

「何それ、ずるい! 前世イケメンとか反則!」

「今それどころ?」

 カイが眉をしかめる。けど目はちゃっかり俺の手を見てる。

「沈黙。実験だ」

 ゼルフィアがすでに計測用の薄板を取り出していた。

 エリシアは半歩下がって胸に手を当て、頬に淡く色を差す。

 そして、フローリアが静かに一歩。六花の睫がふるえ、俺の右手にそっと視線を落とした。


「あなた、やっぱり……彼の再来なのね」


 胸の奥が、白金で一回鳴った。否定も肯定も追いつかない。

 けれど――呼吸は合う。フローリアの冷と、俺の炎の間がぴたりと重なる。


「機能を見る」

 ゼルフィアが言い切る。

 「レオン、意識を手に落として。視界の変化を報告」


 深く息をして、六花に拍を渡す。

 世界が線の地図へ切り替わった。


 床と壁に走る、淡い金の曲線――古式の誓句が生きているライン。

 その上に、針のような黒銀の棘線――協会の改竄ルーンが被さっている。

 良い音は丸く、悪い音は角だ。視える。……視えてしまう。


「ゼルフィア、右三歩の石板。黒銀の棘が集約してる」

「了解」

 彼女が板を外す。中から、布で偽装された小型送信盤が出てきた。

「やっぱり」

「ほらね!」

 ミルがどや顔をする。

「レオンのチート、発動です!」

「チートじゃない。鍵だ」

エリシアが小さく遮る。

「王家文庫に――輪を繋ぐ鍵の伝承があるわ。その紋に、とても似ている」


 言葉を重ねるより早く、上層から痛み拍が落ちてきた。

 鈴の高さが一段、耳を刺す。兵が眉間を押さえ、氷紋の子がしゃがみ込む。


「レオン!」

「やる」


 右手の六花を灯す。掌から淡金の波紋が広がった。

 半径数歩、音が消える。鈴は鳴っているはずなのに、ここだけ静かだ。

 リアが息を呑む。

「外からの拍が――ミュートされた……!」


 代償がすぐ来た。肘から先が凍て、指先が少し痺れる。

 フローリアが肩に手を置き、冷の丸めで痺れをなだめた。

「無茶しない。あなたはならす人――壊す人じゃない」


「分かってる」

 俺は短く笑って、痺れを振り払う。

「名前も鍵も、間のために使う」


「もう一つ、試す」

 ゼルフィアの視線が鋭い。

「撤退ルートの安全綱」


 頷いて、壁面の角に右手の花弁を押し当てる。

 薄い花紋が開き、すぐ閉じた。そこに、ほとんど見えない返路の印が残る。

「返路アンカー。さっきの記憶界みたいに、短距離なら帰る場所を示せる。緊急用だ」

「それ、めちゃくちゃ便利!」

 ミルが二度目の「ずるい!」を叫ぶ。

「過負荷で凍焼が出る。連発は不可」

 ゼルフィアが釘を刺す。俺の指先がぴくりと応えた。


 息が整ったところで、もう一度紋視に切り替える。

 黒銀の棘線が、城内のどこへ流れているか――追う。


 一本、二本。枝分かれは多いが、向かう先は同じだ。

 上層の儀礼路、封鎖された古井戸――王家の裏通路。そこを通って、城の中心へ集まっている。


「終点は……王城の心臓」

 ゼルフィアが図面に線を重ねる。

「図上は死に回線。けど今は黒銀が生きてる」

「つまり、目標はひとつ」

 俺は言う。

 エリシアがうなずいた。

「王核(氷精霊王の核)」


 空気が揺れた。警鐘の拍が切り替わる。

 戦闘配列。廊下の端で、黒銀の近衛が隊列を組む気配。刻印鏡の門が淡い光を立てた。


 カイが耳飾りを叩く。

「盗れた。『黒銀第一隊、王核搬出路の確保開始』」

 ちょうどそのとき、掌に小さな巻紙。スヴァルドの印だ。

 ――『均衡のため王核室は死守。通行権、王女へ。』


 剣は、内乱ではなく外敵に刃を向けるつもりだ。喉の奥の冷気が、少しだけ温度を上げた。


「配置を決める」

 俺は仲間を見渡す。

「前衛は、俺とフローリア。紋視で道を見て、共鳴遮断で鈴を黙らせる。

 支援はリアとゼルフィア。母音で補強、位相固定と妨害雷は任せた。

 遊撃はミルとカイ。視界と足場を崩して、背中を取る。

 エリシアは王女権限で避難と通行権、王核室の鍵を」


「了解!」

 ミルが親指を立てる。

「合言葉はずるいでいこう!」

「却下」

 カイが乾いた笑いをひとつ。肩の包帯をぎゅっと締め直した。古傷の熱が戻っている顔だ。

「カイ、無理は――」

「無理する。今だけは」

 短く、軽く。けれど目は笑っていない。


 白銀の扉の前に立つ。曲がり角の向こうから、黒銀の旗。

 拡声の声が響いた。ゼファードだ。


「王核は保全のため、協会が預かる」


 保全。きれいな言葉だ。中身は、奪取。


 右手の六花が、胸の炎と同拍で鳴る。

 俺は一歩、前へ出た。


「――この国の精霊は渡さない!」


 廊下の空気が張り詰めた。

 ゼルフィアの指先で雷が細く踊り、リアの母音が息の底で温く溜まる。

 フローリアの冷が肩に寄り添い、ミルの足元で風が靴を撫で、カイの刃が低い位置で光った。


 白と黒が、角でぶつかる。

 六花紋がまた、きらりと光った。

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