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精霊契約でパーティー追放されたけど、今さら戻ってこいとか言われても遅い!  作者: 夢見叶
第6章 氷の王国と契約の少女

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第11話 滅びの約定

 白王の間を出たあと、記憶の街は音から壊れていった。


 最初に乱れたのは鈴だった。祈りの合図ではない、不整の拍。氷運河が逆流し、橋の欄干に埋め込まれた六花の碑が、母音の欠落を淡い光で示した。

 人の声と精霊のさざめきが重なる場所で、別の調子が頭をもたげる――命令の声だ。


 古代協会の工房を覗く。刻線台が並び、白衣の学匠たちが、誓句の曲線を角に削っている。

「保管封氷で循環を止める。まずは安全確保だ」

「従属誓文で指示系を単純化する。主語を置け。命じろ」

「核片抽出。核を砕いて器に嵌める……これで“戦える”」


 ――誓いが、兵器に変わっていく。


 街角の母音が、規律音に置き換わっていくたび、胸の拍が寒くなる。

 氷の床下で溜まっていた凍痛が形を取り、狼の影や鳥の刃になって溢れた。祈りで眠らせてきた痛みが、牙を持つ。


「こっちへ!」

 幼い頃の――過去のフローリアが、泣きながら人々を避難させている。白い羽衣が破けても、その指は祈りの母音を離さない。

 俺は影だから触れない。けれど、呼気だけは合わせられる。均熱、丸め、間――せめて、彼女の声が切れないように。


 レオニスは学院と鏡林を往還し、上書きされた従属誓文の上から、原初の誓句を重ねて歩く。

 線と線が擦れ合い、裂ける音。修復の拍は届くが、届くより早く命令の角が伸びてくる。

 息が足りない。世界の方が先に壊れていく。


 白王の間に戻ると、ルシエルは鏡湖に世界の位相図を広げていた。

 白い地図は、あちこちに黒いひびを抱えている。断裂。そして、各地の“凍痛”が結び合い、一本の川になろうとしていた。


「時間をください。まだ――戻せます」

 レオニスの声は震えない。震えないが、間が足りない。

 隣のフローリアが、言葉を探すみたいに唇を噛んで、祈りの母音だけをそっと添えた。


 ルシエルは静かに首を振った。

「輪を保つために、輪を凍らせるしかない」


 それが結論だった。


「滅びの約定を告げる」

 白王の間の光が、少しだけ低くなった。


 ルシエルは淡々と手順を述べた。

 一、世界に大氷結を敷き、循環を低温で延命する。

 二、誓いと生活の像を記憶界として保存する。

 三、継ぐ者が現れた時、鍵(誓環)でもう一度、設計を書き換えられるように。


 そして、宣言する。


「この記憶を継ぐ者が現れるまで――」

 白い声が、湖の底に沈んでいく。

「私は名を捨て、世界の痛みを引き受ける」


 誓句の構文に、主語はない。けれど、いまだけは、王が名を引いて前へ出た。


 大氷結の儀が始まる。

 白王の間から白金の拍が放たれ、氷脈が樹状に世界へ伸びる。海が固まり、空に霜の輪がかかる。

 街の時間は緩慢になり、音の高さがどんどん落ちていく。最後に残るのは、長い鈴の持続音――冬の低音だ。


「レオニス!」

 フローリアが彼の胸に誓環の札を押し当て、震える呼気で母音を支える。

 レオニスは頷き、札の半分を鏡へ翳した。


 ――光が、こちらへ跳ねた。


 胸の《炎紋》が白金に過負荷で光り、右手の甲へ冷たい痛みが走る。

 薄い六花が、一瞬だけ肌の下から浮き上がって――すぐ、雪みたいに消えた。


 ルシエルが、鏡越しにこちらを見た。

 言葉は届かない。けれど口の形は読める。


 継ぐ者。


 過去のフローリアが、見えない誰か――つまり僕に、気づいたように微笑んだ。涙が一粒、白い湖へ落ちる。輪紋は小さな光となって、扉の縁に宿った。


「……輪が再び歌う日まで、眠れ」

 ルシエルの声が、静かに封をする。

「――そして、継げ」


 白がすべてを塗り潰した。



 息を吸った。現実の冷気だ。

 氷の回廊。扉の向こうの白光は消え、縁に刻んだ帰還の花紋だけが淡く灯っている。


「戻った!」

 ミルの声。

 ゼルフィアの罠雷が最後の一発を跳ねさせ、回廊の角で追手の足が止まる。

 カイが囮の足跡をもう一列付け、エリシアは蒼白なまま同拍の残響を押さえて息を吐いた。


 フローリアが一歩近づき、俺の肩をそっと支えた。

 呼吸が合う。彼女の六花と、俺の炎の間に、同じ拍が確かにある。


「……継ぐ」

 自分でも驚くくらい、静かな声が出た。

「必ず」


 走り出す直前、右手の甲がきらりと光った。

「ちょっと待って、今の何!?」

 ミルが目を剥く。

「今、手の甲キラッとした! ねえ、ずるくない!? その光り方は――」


「走りながら話して!」

 カイに腕を引かれ、俺たちは回廊を駆ける。

 右手の皮膚の下で、さっきの六花が、まだ微かに疼いていた。


 ルシエルの声が、遠い鈴に混じって残っている。

 ――この記憶を継ぐ者が現れるまで。


 世界は冬の音を鳴らしている。

 なら、俺はならす。炎でも、氷でも、名でもなく、間で世界を繋ぎ直すために。

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