表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命の実  作者: 不動坊多喜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/45

命の実(14)4①

4①


さららさららと、たえず右手から風を受けながら二人は進んだ。

イマニームの乗ったカイを先頭に、荷物を積んだファイが続く。その後ろを、ひかりを乗せたラムダがついて行く。

ラムダは年寄りで、おまけにひかりは下手な乗り手だ。普通なら、前の二頭に遅れるところだろう。

しかし、イマニームは絶えず辺りを見回すため、ゆっくりと歩を進めていた。それは、ひかりには有り難かった。


ひかりも、望遠鏡を覗く。エフィルとはどういうものなのか、まだよく分からない。

ぐるりと首を回して、それらしきものを探す。

右手には、長い砂の壁が続いている。その壁に沿って移動していく。小さな砂丘ならこの世界に来ていくつも見たが、こんな大きなものは初めてだった。


三十分くらい経っただろうか。再び右手を見たひかりは、思わず言葉をもらした。

「砂丘が、近づいてる?」

砂丘と平行に進んでいたはずなのに、間が狭くなってきた気がする。

ひかりはラムダを走らせると、イマニームに並んだ。

「ねえ、砂丘がさっきより近くなってる気がするんだけど」

望遠鏡から目を離しもせず、イマニームは平然と答えた。

「風で砂が動くのよ」

「分かってる。だから、このまま進んで砂に飲み込まれるか、方向を少し変えるか決めないといけないんじゃないの」

「そうねえ。方向は変えたくないから、あいつがもっと大きくなる前に乗り越えましょう」

イマニームは、気のすすまない仕事に取り掛かるように、ふーと息をついた。しかし、カイの鼻を砂丘の方向に向けたときには、きっぱりとした表情になっていた。


「風が弱まったら、一気に駆け上がるわよ」

砂丘の高さは、ひかりたちの三倍はありそうだ。

切り立った壁は垂直に近く、その陰に入ると風は無かった。しかし、風が止んでいない証拠に、頂上からはらはらと雪のように砂が降ってくる。

(乗り越えられるだろうか)

砂と共に不安が降り積もってきた。そのとき、砂の雪が止まった。

「今よ」

イマニームが、カイの手綱を揺らした。カイが駆け出す。ファイも続く。

ひかりも心を引き締めると、ラムダを走らせた。少しでも緩い斜面を選び、斜めに駆け上がる。長い足を半分砂にうずめながら登っていく、カイとファイが見える。おそらく、ラムダもそうだろう。老体に鞭打ち、ずぶり、ずぶりと登っていく。

もう少しというところで、また、風が出てきた。

「がんばって」

ラムダの首筋を叩く。

一陣の風がベールと砂を舞い上げ、思わず目を閉じる。


目を開いたとき、ラムダは頂上に立っていた。

視界が一気に広がる。

三百六十度、延々と続くサンドベージュの海。そこに大小さまざまな波がうねり、文様を描いては消していく。

イマニームは砂丘の稜線をたどっている。ひかりも後に続く。

砂は、右手の緩やかな斜面をゆっくりと登り、頂上を越すと左手を転がり落ちていく。そうして、少しずつ前進していくのだ。

風が止むまで稜線をたどり、砂丘の裏へと駆け下りる。

砂丘に飲み込まれる心配の無いところまで来て、やっと昼食をとることができた。


食後はテントを張って眠る。

絨毯の上でうーんと伸びをする。さらさらと、乾いた風が心地よい。

「絶対、日本の学校も昼寝を取り入れるべきだわ」

つぶやきながら目を閉じると、すぐ眠りに引き込まれていく。

二、三時間眠ると、傾いた太陽がテントの裾から侵入してくる。そうして、自然に目が覚める。お茶を飲んで、テントを片付け、また旅が始まる。

一日二回眠るから、地球の倍の時間があるようで得した気分になる。

もちろん、一日が三十時間だから長いといえば長いのだが、基準となる一時間の長さを比べることができないので、本当のところは分からない。


夕方になると、しばらく風が止む。

「夕凪よ。このあと風の向きが変わるわ」

凪は、一日二回。日の出前と、日の入り前と。そうして、昼と夜では逆向きの風が吹く。まるで、昼間に運んだ砂を夜の間に元にもどそうとするようだ。


命あるもののように、動く砂。

不思議に美しかった。

『さばくが美しいのは、どこかに井戸をかくしているから』

そう言ったのは、『星の王子様』だ。

「本当だ」

口に出して、確認する。

けれど、隠しているのは井戸じゃない。エフィルだ。

イマニームのエフィルは、きっとどこかにある。

赤く染まった夕暮れの砂は、そう信じさせるのに十分な美しさがあった。

イマニームの強さも、こんなところからきているに違いない。

「わたしが探すエフィルも、きっと、ある」

口に出せば、真実が近くなる。


ひかりは、その日もヤーキッシュの位置を測った。

二人の進行方向は昨日とほぼ変わっていないにもかかわらず、昨日は右斜め前に出ていた月は、今日はほぼ正面から姿を現した。また、出てくる時刻も、昨日より遅かった。

その位置と時刻を、記入する。

それは、変化の無い沙漠で、けじめをつけるのに最適の作業だと思えた。

(毎日測ろう)

ひかりは、丁寧に器具をしまいこんだ。



夕食を終え、パクスティーを飲めば、お話タイムだ。

「今夜は、あなたの話を聞かせて欲しいわ」

そう言われ、困った。うつむいて、空になったティーカップの底を見つめる。

彼女がどんな話を求めているかは分かっていた。自分が話すべき内容も分かっていた。

けれど、それは、はばかられた。恥ずかしかった。自分のしたことを、自分の罪を、人に話すのは勇気のいることだ。なぜ、イマニームはそれができるのか、分からない。

「ごめん。話すこと、ない」

「それじゃあ、答は見つからないよ」

小さなため息をついた後、薪を一本追加する。

「じゃあ、私が小さい頃母から聞いた話で、アームの国で語り継がれている伝説を」

話が始まる合図のように、薪のはぜる音がした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ