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手先が器用なドワーフだからってなんでもできると思うなよ

作者: 原雷火

 ひょんなことから人間族の若造と組むことになった、ワシはドワーフ。

 この人間ときたら、黒髪黒目で全身黒ずくめ。二刀流を自在に操り、やたらめったら強い。


 今日も山賊の砦で大暴れして帰ってきたところだ。


 酒場にて。水で薄めたような麦酒を喉の流し込み、干し肉をちびちびつまみながら訊く。


「なあ若造。なんでワシと組んだ?」

「はぁ? んなこともわかんねぇのかオッサン?」

「質問してるのはこっちじゃ。答えぬか」

「そりゃあ、ほら、異世界で冒険っつったらさ、ドワーフじゃん」

「後方から援護できるエルフの射手なり、お主のスピードについていける獣人の武闘家の方が良かったのではないかね。今日だってワシの足が遅いだの短足だのデブだの、好き放題言って一人でボスを倒してしまったではないか」


 中肉中背の若造だが、どこにそんな筋肉があるんだか。クソ重たい長剣を羽ぼうきでも扱うみたいに自在に振る。


 しかも速い。ワシが一人を相手にしている間に、五人は倒しちまう。


 正直、この町じゃ誰と組んでも足手まといだろう。ソロの方が良いんじゃね?


 麦酒を飲み干すワシを見ながら、若造は言った。


「オッサンさぁ、自分の価値わかってる? 大丈夫そ?」

「価値とな? ワシは壁役タンクじゃぞ。なのにお主ときたら、サクサク前に進みおって。じゃからの……もうやってられん。お主とは解散じゃ」

「二人しかいないのに、まさかのオレ追放!? 草生えるんだけど」


 だいたい何を言っているのかわからん。会話はできるんだが、ともかく変な物言いばかりする。


 草ってなんだ。草って。


 ああ、麦酒なんて水みたいなものだが、今日はやたらと回る。


「じゃあ言ってみろ若造。ワシと組む理由はなんじゃ?」


 若造はウインクした。


「ドワーフって言ったらさ、なんでも作れるんだろ?」

「はあっ? 何を言っとる」

「隠すなって。あのさ、オレってアイディアとか知識はめっちゃあんのよ。だけど、それを形にするには優秀なドワーフが必要なわけ。手先器用だよね? 宝石とか金属とか加工できるんでしょ?」

「……」


 何言ってんだこいつは。


「ワシは冒険者じゃ。技師でも職人でもないぞ」

「そんなこと言わずにさぁ! これ作ってよ」


 若造は丸めた紙をテーブルに広げた。何も書いてないそれに手をかざすと。


「はいコピペっと」


 精巧な図形が紙いっぱいに浮き上がった。板バネを丸めたものやら細かい歯車やら、ともかくやたら細かい。


 それを何枚も何枚も若造は束にした。


「なんじゃこれは」

「ん? 設計図だけど。ほら、オレってこういうのは出せるんだけどさ、結局、現物なかったらただの落書きされた紙じゃん?」


 設計図。見れば見るほど……細かくて美しい。歯車の噛み合いが芸術的で……いかん、酔った頭の中で細かいパーツが組み上がっていく。


 若造は笑顔だ。


「やっぱオッサンも好きなんじゃん。今日の山賊狩りの報酬と、これまで貯めた金で工房買ったたから、いっちょ作ってくんね?」

「な、なんじゃと!? 工房を……買ったじゃと!?」

「材料も工具も治具もまとめて一括でさ。おかげですっからかん。だから今夜はオッサンのおごりってことで」


 黒のコートの下から空っぽの財布を取り出して、何をヘラヘラしてるんだこいつ。


「ぐぬぬ……ど、どうなっても知らんぞ」

「オッサンなら出来るって! ほら! 今日は無礼講だからじゃんじゃん飲んで!」


 じゃんじゃんもなにもワシの金だが? 無一文が何を言ってるんだ。



 若造が買った工房にしばらくこもりきりになった。

 若造は「暇だしモンスターしばいてくるわ」と、ワシをおいてふらりとどこかへ行ってしまった。


 で、大戦果を挙げてると噂になった。ほれみたことか。ワシが足を引っ張ってたんじゃないか。


 若造の名は世間に広まり、貴族や大商人から直接依頼を受けるようになったようだ。


 ワシはといえば――


 とりあえず、謎の設計図通りに金属加工。昔は職人に憧れたもんだ。まあワシとてドワーフの端くれ。腕に自信はなくとも心得くらいはある。


 黙々と設計図にあった細かなパーツを作る。鋳造鍛造なんでもこいだ。


 三ヶ月があっという間に過ぎ去った。その間、生活費はたまにふらりと帰ってきた若造が置いて行く。


 解散するはずがずるずると……。どうしてこうなった?


 ほぼほぼ工房に監禁状態だが……日がな一日、図面や工具と格闘する。


 生涯、楯で相手の攻撃を受けきるくらいしかできないと思っていたけれど、こういう戦いも案外、悪い気はしなかった。



「さ、三千万じゃと!?」


 酒場のテーブルに乗りきらないほどの豪華なごちそうが並ぶ。


 普段の麦酒が上等なワインだ。


 若造はニッコリ。


「オッサンの処女作にしちゃ上出来じゃん」


 この若造、どこぞの大富豪にワシの作ったもんを売りさばいたらしい。


 趣味で作っただけなんだが、まさかそんな値段になるとは思うまい。


「しかし時計と腕輪を一つにするアイディアとは、驚いたんじゃが……それが三千万とな?」


 A級冒険者の年収を三ヶ月で手に入れてしまった。若造は胸を張る。


「ほら、やっぱりオレらって相性ばっちりだって。解散は撤回だよな?」


 ワシが作らされたのは腕時計なるもので、設計図はスイスとかいう国のものだとか。


「お主いったい何者じゃ?」

「オレはどこにでもいる転生者ってやつだよ。さて、オッサンにはこれからバシバシ新作発表してもらうから覚悟しろよ! 王侯貴族に大富豪とはパイプ作っておいたから!」

「う、うむぅ」

「他にも作ってほしいものは山ほどあるんだ。今日は無礼講だから、じゃんじゃん飲んで! 今度こそオレのおごりだし」


 本当にこのまま組んでいいんだろうか。


「良いか若造。いくら手先が器用なドワーフだからってなんでもできると思うなよ!!」

「おっ! いいねそういう頑固な職人っぽいの! 期待してっからなオッサン!!」

「で……次は何だ? また腕時計か?」

「実は蒸気機関っていうのがあってさ……」


 今夜の酒は今までの人生で一番、美味かった。

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