ソルナ
「ところで、あなたのその話し方、聞き取りづらいんだけど」
エリザはソルナに向かってそう言った。
「そーいわれても、わたし、このせかいのことば、なれてないし。日本語なら普通に話せるんだけどね。けど、これだとここじゃ誰とも話せないし」
ロイとグレンから言葉を習ってからまだ数年しか経っていない。日常生活には困らないが、発音や言い回しがうまくいかないのだ。
「私は分かるけれど、他の人に伝わらないんじゃ困るわね」
「分かるの! 日本っていう国……異世界の言語なのに!」
異なる世界の言語だろうと、伝えたいという意思がある限りエリザには伝わる。けれどエリザだけが分かっても仕方がないので、どうしようかと思案する。
「それなら、わたしが話せるようにしてあげるわ」
エリザは、クロン達にやったのと同じ様にソルナを話せるようにする。
「あー、あー。どう? 私、きちんと言葉を話せているかな?」
ソルナはロイに確認の為話しかける。
「ええ、すごく流暢に聞こえていますよ。……僕は、前の方が可愛らしくて好きですが……」
「えぇっ! そう言われても……。わざとへたにしゃべれば、こんなかんじ?」
「だから、聞き取りづらいって言ってるのよ」
ソルナは、ロイの前だけは下手に話してあげようかと考える。なんだかんだで、世話になったお返しをしなければとは感じているからだ。
「って、それよりも、日本語が分かるって事はどういう事なの?! あなた、何者?」
「私は、どんな言葉でも分かるわよ? いわゆる、神だもの」
「え? 神様?」
ロイは、エリザの突然のカミングアウトに固まる。
「け、けれど、女神さまとはお声が違う気がしますが」
ロイは能力としてこの世界の女神の信託で女神の声を聴いたことがある。その声と違う事で信じられないという顔をした。
「ああ、この世界の神じゃ無いわよ。この世界はこの世界の神がいるんでしょうけど、まだ見てないわね」
世界を統べる神は、自分の管理している世界の事はすべてわかる。ただ、それはきちんと意識を向けたらという前提で、いつもつねに気にかけている訳では無い。世界が壊れる災いなどが起こらない限り、基本的には放置である。人間が水槽で飼う金魚を見る感じで、金魚が自給自足できるなら、たまに見る程度だ。そのたまには人間の感覚と違って数年単位という事もザラにある。
「さすがに、私という異物が紛れているのはもうバレていると思うけど、まだ接触は無いわねぇ」
最初の頃の様に、ほぼ人間として紛れてしまえば、たとえこの世界の神でもすぐには分からない。数百万の金魚の中に、一匹だけランチュウが混じっても気が付かない。けれど、さすがに金魚の中にマグロが紛れれば気が付かないはずがない。最近は、目立つ行動ばかりしていたのでバレていても不思議ではない。けれど、女神の感覚にしてみれば、いつの間にか自分の世界に混じっていた他世界の神にとまどい、さらにそれが格上であれば触れないのが吉と考えてもおかしくはない。
「ねぇ! それよりも、神様なら、もしかして私を元の世界に戻せるの?」
「できるか出来ないかで言えば、出来ると思うけれど、戻していいのかしら?」
勝手に他人の世界の人間を移す事は、まあ、元々異世界の人間だから目をつぶるだろう。しかし、勇者として力を与えられたものである場合はどうであろうかと考える。
「私が戻ったら……うぅ、世界が混乱しそう」
自分が地球へ行った時に、自分の力を鑑みると、大人しく過ごせるとは思えなかった。絶対に瞬間移動とか、楽をするに決まっている。仮に世界を敵に回しても、余裕で勝てると思うし、と。
「それなら、私達と一緒に旅をしない? 強すぎる力に枷をつけて欲しいなら、つけてあげるわよ?」
「ちなみに、私を元の2人に戻す事は出来るの?」
「それは無理ね。完全に混じっているから元通りには分けにくいわ。適当に分けていいなら出来るけれど」
2人は、1キロの白糖と黒糖を袋に入れて数分振ったレベルで混じりあっている。時間をかければ分けることは可能かもしれないが、めんどくさい。適当に1キロずつ半分に分けるだけなら簡単だということだ。
「適当なのは嫌かな……。まあ、私自身も違和感ないし、このままでいいかな」
「それは……すみません」
ロイは、勝手に合体させたことを謝る。ただ、もし腕輪が無事であれば呪文で元に戻せたことは黙っておく。あの腕輪には、合体前につけた者の状態を記憶しておく機能もあったのだから。
「それなら、私も一緒に旅に着いて行こうかな。そっちの方が面白そうだし」
2人が1人になったため、ロイとグレンに対する感謝は変わらないが、意識は変わった。ロイの事が好きだったソルナと、グレンの事が好きだったルナは、ソルナとなったことで好意が相殺されたようだ。そのため、ロイやグレンと一緒に居ようと思う気持ちも薄れたため、旅に出るのもいいかなと思っていた。
「それなら、グレンが起きる前に出発していただけると助かります。グレンには、うまいこと話しておきますので」
ロイも、ソルナにこだわるのをやめた。というか、これ以上異世界の神に関わりたくなかったので、身を引くことを決めたというだけだが。野望が潰えた事はとっくに理解している。
「ただ、もし異世界に帰る時には、この世界の魔王をどうにかしていただきたく……」
「そうねぇ。その時は、ソルナに任せるわ」
「私? りょーかい」
魔王は魔王で、すでに城から出られないことに絶望し、完全に生きる気力を失っている。さらに言えば、ソルナはすでに城に魔族も人も出入りできないようにバリアを張ったことも完全に忘れているため、今のところこの世界に魔王の脅威が訪れることは無い。




