野望
グレンは先ほどのマオの魔法のダメージで気絶したため、ロイが説明する。
「……僕たちの両親は、腕の立つ冒険者パーティのメンバーだったのですが、ある日、冒険から帰らなくなり、人づてに亡くなったといわれました。その後、小さかった僕とグレンは、孤児院で育てられました。ある程度大きくなり、僕たちは強さを求めました。しかし、僕に適性があったのは支援でした。ただ、幸いにもグレンは親の才能を受け継いだようで、強力な魔法を使う事ができました」
ロイは、気絶しているグレンに目をやる。まだ目を覚ましそうにないので、そのまま言葉を繋いだ。
「そして、孤児院を出なければならない年齢になった頃、魔族に対抗するために勇者が召喚されるという噂を聞きました。実際、召喚の儀式が行われたようです。しかし、本来一人しか召喚されないはずの勇者が、同時に二人召喚されてしまう異例の事態がおこりました。そのためか分かりませんが、召喚した教会は吹き飛び、詳細を知るものは全て亡くなっています」
「そのゆーしゃが、わたしね。とーじのことはほとんどおぼえてないんだけど、ことばもわからないわたしたちを、ロイとグレンがひろってくれたことはおぼえてる」
「当時は、勇者だとは知りませんでした。僕たちのような孤児だと思い、保護しようと考えました。言葉も話せず、異国の地では大層苦労された事でしょう」
「うん……」
ソルナは、当時の暮らしを思い出してうつむく。言葉が伝わらず、服も高校の制服で目立ち、気味悪がられて誰も近づいて来ない。ただ、この世界に来たときに得た能力で食いつなぐことは出来ていたが、心細さはどうにもならない。そんなとき、ロイとグレンがソルスとルナに言葉を教え、食事を与えてくれた。なお、ソルスとルナというのは勇者2人……日陽と月夜が自分の名前を太陽や月を指して伝えた結果、中途半端に伝わってつけられた名前だった。
「それから僕たちは、身体能力の高さから、2人が勇者だと気がつき、ダンジョンへ行って実力をつけました。僕たちの野望である、世界征服の夢を叶える為に」
「ロイたちのゆめが、せかいせーふくだななて、知らなかったんだけど」
「そうですね。世界平和の方が協力して貰えると思い、そう伝えていました。実際、脅威となる魔族さえ倒せれば何でもよかったんですよ。まあ、あれだけ脅威だった魔族が、ソルスとルナにとってはまったく脅威にならなかったので利用する方向へ舵を切りましたが」
「それで、どうして私達に戦いを挑んだのかしら?」
ロイの話は分かった。しかし、なぜエリザ達と戦おうと思ったのが全く分からない。
「……ソルスとルナの気晴らしに、現地視察を兼ねて来ただけですよ。ただ、まさかこのような事態になるとはまったく思いませんでしたが」
「お主ら、運が悪いのだな。我らが居なければ、その世界征服やらの夢も叶っていただろうに」
マオは、特にこの世界を救うとかは考えていなかった。エリザが楽しめる方向で進むために人側にいるだけで、エリザが魔族側が楽しそうだと思えば、きっと魔族側についていただろうから。つまり、進んでロイたちの事を邪魔する事は無かっただろう。
「それでは、どうします? このまま、僕たちを殺しますか?」
ロイは、殺される覚悟を決めていた。決闘とは言っていたが、最初はともかく2度目の今は、世界征服の邪魔になりそうなエリザ達を完全に殺すつもりだった。だから、自分が殺されても仕方ないと思っている。
「別に、どうもしないわよ? まあまあ面白いイベントだったし」
「……え?」
「ただ、その話じゃ、もうすでに人と魔族の勝敗は決してしまっている様ね。それは残念だわ」
四天王を倒し、これから魔王と戦おうという流れの中、実はすでに魔王は負けていたと言われたエリザは、目標を失った。まだ魔王は生きているが、ソルスとルナ以下の強さであれば、もう戦う意味が感じられなかった。
今後の予定を決めるに当たり、エリザはクロンとレランが目覚めるのを待つ事にした。




