解石化
「ローランドに何かあった様ね。徐々に生命力が弱くなっていっているわ」
エリザは、ローランドに内緒で魔力のマーキングをしていた。
「ぐあっ?」
クロンがエリザに「どうするのですか?」と問う。今はもう王都の南側くらいまで移動しているので、急いで戻っても数時間はかかる距離だ。
「助けに戻るのか? ローランドほどの強者がやられるとなると、相手は残っている四天王かもしれぬな」
「四天王かどうかは分からないけれど……クロン、とりあえず戻りましょう。せっかくの玩……知り合いが殺されるかもしれないもの」
エリザはローランドを言動の面白い玩具として気に入っていた。ここで失うには惜しいと思う程度には思い入れがある。たとえ殺されていたとしても、肉体という器が残っていればマオの蘇生魔法で、マオで無理ならエリザの神力で何とかするつもりである。
「エリザ、急ぎなら我がそこまでワープさせてもよいが」
「うーん……そこまで緊急じゃなさそうだから、このままでいいわ」
「そうか」
マオはエリザとこそこそと話をする。マオは、ユグドラシルの力を得てから、一度行った場所へ戻る魔法を使えるようになっていた。イーストサイドの街ならば、すぐに戻ることが出来ると。けれど、それをしてしまうと、わざわざイーストサイドから王都へワープしなかった意味が無いとなってしまう。緊急手段は、本当に緊急の時のみに行うべきだとエリザは考える。まあ、エリザが緊急だと思うような事態が起こるかどうかは分からないし、エリザが緊急だと判断すること事態が大問題なのだが。仮に、この星があと数秒後に爆発する……そんな事態にならない限り、エリザは緊急と判断しないかもしれない。
「クロン、急ぎなさい。イーストサイドの街よ」
「くあぁ!」
エリザは気持ち程度にクロンを急かす。それを受けて、クロンは本気で飛翔する。急激に空気が押され、周りに爆音と衝撃波が発生するくらいに。幸い、上空なので地上に被害が無い。クロンは本能的に空気抵抗が低くなる上空へと先に向かい、その後イーストサイドの街へ向かって飛んだ。
ただ、上空には目印が無いため、魔力マーキングをしているエリザが逐次クロンに方向修正の指示を出す。なぜ、エリザがローランドの場所が分かるのかという事をクロンは疑問に思わない。レランは疑問に思ったが、口に出すような愚かなことはせず、そう言うもんだと思う事にした。
数時間後、予定の半分ほどの時間でイーストサイドの街近くの森へと着いた。その頃には、すでにレイラン及びレイス達は移動を終えていたため、近くにはいない。
「ここよ。クロンがこのまま降りると周りの木々が折れて邪魔になりそうだから、人化させるわよ」
「ぎゃう」
エリザがクロンを人化させると、4人は空中に放り出される状態になった。数十メートルの高さから、それぞれ無事に着地する。エリザは木を使って衝撃を方向をずらしながら、マオは風魔法でゆっくりと、クロンとレランはそのまま地面に潜るほどの衝撃で着地する。エリザとマオは、それぞれ足が半分ほど地面に埋まったクロンとレランを引き上げる。
「ありがとうございます」
「ついでに、泥も落としてやる」
土で汚れたクロンとレランを、マオは水魔法を使って綺麗にし、風魔法を使って乾かした。クロンとレランは再びマオにお礼を言う。
「これが、ローランド?」
「この馬は何でしょう」
道の真ん中に、一つの鎧が置かれていた。ヘルムをしているため、見た感じはただ鎧が置かれている様にしか見えない。そして、そのそばには赤い肌の馬が待機している。エリザは、慎重にヘルムを脱がせる。
「石化しているわね。何があったのかしら?」
「そんな……ローランドさん……」
「うぅ、いいやつだったのに」
エリザは平然としているが、クロンとレランは涙を浮かべる。この世界では、石化を使う魔物もいるので石化自体は知られている。例えば、コカトリスとか土竜のストーンブレスとか、バジリスクの石化光線とか。そして、一度石化してしまえば、治す手段が無いというのも常識だった。対処としては、石化は徐々に侵食するので、石化した部分を切り離すくらいしか方法が無い。
「マオ、お願い」
「アンチ・ストーン」
マオが解石化の魔法を唱える。灰色だったローランドの肌は、みるみる赤みを取り戻す。
「なっ! 治った!」
「マオ様、すげー!」
クロンとレランは、あまりの出来事に驚く。そして、石化を解かれたローランドは、きょろきょろと見回す。
「一体、何があったんだい? 私は魔族に石化させられたはず」
エリザは、まだ事態を理解しきれていないローランドに、落ち着くように言うのだった。




