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封印されていた最古の魔王。――外伝――  作者: 斉藤一


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撤退?

「嘘だろ、Bランクですら相手にならないのかよ!」


Cランク冒険者はあっさりと返り討ちに遭い、新たに駆けつけたBランク冒険者もローランドの敵ではなかった。ローランドも、一応盗賊行為をしているとはいえ、人間相手に命までは取ろうとしていないため、幸い死者は居ない。しかし、冒険者側はローランドがまだ手加減する余裕があると知って戦慄する。


「くそっ、こいつはもういい! 撤退だ!」


冒険者達の役目は王都とイーストサイドの街の連絡を途切れさせることにある。しかし、それももともと完全に防ぐ事は出来ないと思っており、絶対に通さないというような気概ではない。連絡だけなら、鳥や迂回などで取ることが出来るからだ。大体、もう戦争が始まっている時期なのでいまさら連絡が取れた所で救援は間に合わないだろうという判断だ。


「そこで寝ている仲間も連れて行っていいよ」


ローランドは剣先で気絶している冒険者を指す。ローランドとしても、ここで捕まえて街まで連れて行く事は出来ないし、放置されれば恐らく魔物に食われたりすることもあるだろう。なので、無事な冒険者に連れてってもらったほうが助かる。何より、ローランドとしては早くエリザと合流したいので、こんなところで道草を食っている場合ではない。

ローランドは、冒険者達が撤退するのを確認した後、クリムゾンの元へと向かう。幸い、クリムゾンは冒険者達に攻撃されていないようで無事だった。まあ、クリムゾンはCランク程度の冒険者から逃げる事が出来る身体能力はある。


「行こう、クリムゾン」


ローランドはクリムゾンにまたがり、林の中へと進む。


「な、なんだお前は! ぎゃあああ!」


まだ撤退しきれていない冒険者が居たのか、それとも撤退したと見せかけて再び奇襲でローランドを襲うつもりだったのか、どちらかは分からないが、近くに冒険者が残っていたようだ。それも、何かに襲われている?

ローランドは気配を探る。すると、複数の冒険者の気配と同じ場所に、異質な気配を感じた。そして、時間が経つにつれて冒険者の気配が消えていく。だが、死んだのとはまた違うようだ。気配はゆっくりと消えていき、気配が移動する様子が無い。逆に、異質な気配の方が移動している。


「一体、何がいるのかな?」


ローランドはクリムゾンから降りて剣の柄に手をかける。異質な気配はローランドの居場所が分かる様で、確実に最短距離で近づいてくるのが分かる。そして、林の下草をかき分けて、何かが出てくる。それは、緑色の肌をした女性だった。


「魔物……か?」


ローランドは、その肌の色を見て人間ではないと感じた。しかし、では何かと考えた時に該当する知識を持っていなかった。そして、自分が知らないという事は、魔物であると思ったのだ。


「失礼ね。これでも魔族なのよ」


「魔族……? 魔族の見た目も、それほど私達人間と変わらないはずだけど」


「ふふっ、魔族の中でもごく少数しかいない、希少な種類なのよ」


ローランドは、その魔族の態度に訝しむ。問答無用で襲ってくるわけでもなく、何故か知り合いの様に話に付き合ってくれるのだ。その戸惑いを感じたのか、魔族は正体をばらす事にした。


「あら、ごめんなさい。お礼を言うのが先だったかしら。この間は、私を助けてくれてありがとう」


「……何の話だい?」


ローランドとしてはまったく心当たりがない。見た事もない希少な魔族から、助けた覚えがないのにお礼が言われる。


「私はレイラン。貴方が乗っていた馬の体を使って生き延びる事が出来たわ。それで、私を潰したあのクソどもはどこだ?」


レイランは、自分が死にかけた事を思い出し、一瞬で態度を変える。そもそも、レイランを潰したのは暴走したドラグルであり、暴走させたのはレイランだ。自業自得ではあるが、追い詰めたのはエリザ達であり、恨みはそちらに晴らすつもりである。

そして、レイランはシルバの体を使っていたためか、何となくローランドの居場所が分かる様になっていた。レイランは、まだローランドとエリザ達が一緒に行動していると思っていたため、すぐにローランドのもとへと向かったのだが、思惑が外れたようだ。


「彼女たちは別行動さ」


「そう。それなら、貴方に用は無いわね。どこに居るのか教えてくれるなら、生かしておいてあげるわ」


「ふっ、それよりも、私にシルバの仇をとるチャンスが訪れた事に感謝するよ。クリムゾン、離れているんだ」


ローランドは、レイランに相棒であるシルバを殺された恨みがある。逆に、レイランはローランドに何かされたわけではないので興味は無かった。


「たかだか馬の一頭くらいでそんなに怒らないでよ。それに、新しい馬も手に入れたんでしょ?」


「貴様……!」


シルバをけなされた事で、ローランドの頭に血がのぼる。もともと、エリザ達の現在の居場所は知らないから答えられないが、たとえ知っていても教える事は無い。

ローランドは、剣を抜くとレイランに向かって走り寄る。


「それじゃあ、しゃべれる程度に手加減して……」


レイランは、かぶっていた帽子を少しずらして蛇を一匹ローランドへ向ける。


「何……を……」


ローランドは、その蛇と目が合った瞬間、体に違和感を感じた。


「な、何が!」


ローランドは、鎧の上からでは何が起こっているのか分からないが、体が徐々に動かなくなっていく感じがした。


「あなたの体を、ゆっくりと石化させているのよ。さあ、あのクソどもの居場所を教えなさい。そうすれば、石化を解いてあげても良いわよ」


「これが……冒険者達の気配がゆっくりと消えていった事の正体か……」


実は、レイランは石化の速度を速めたり遅くしたりすることは、込める魔力や使う蛇の数で調整出来る事は知っているが、石化を解く方法は知らない。そもそも、メデューサは石化した獲物を食べるために石化させているのであって、石化を解く必要が全く無いのだから。だが、石化したからと言ってすぐに死ぬわけではない。表面から徐々に石化していき、完全に死ぬのは心臓、もしくは脳が石化した時だ。


「それじゃあ、話してくれるわよね?」


「誰が教えるものか」


「死にたいの?」


「死んでも教えない、よ」


「そう……」


レイランは、ローランドの石化を待つ前に、今すぐ体を砕いて殺そうと思った。しかし、何故か実行に移そうと思った時、反発する気持ちが沸き起こるのを感じた。それがシルバの思いであることはレイランが知ることは無いが、結果的にレイランはローランドを殺すことが出来なかった。


「いいわ。自分で探す事にするわ」


レイランにも情報を集める手段はある。寝る事も疲れる事も無い霊を使役すれば、そう遠くないうちに見つける事が出来るだろう。レイラン自身も、寝る事も疲れる事も無いため、すぐにメデューサの体を使う事が出来たのだから。ただ、憑依している間は体の状態に依存するため疲れも眠気も感じる。


レイランはその場を離れ、石化させた冒険者の元へと向かう。そして、適当な石化した冒険者の腕を折ると、それにかぶりつく。さらに、石化した冒険者の体を砕いて回った。


「それじゃあ、探して頂戴」


今死んだばかりの冒険者の魂を、レイスの秘術を使って配下へと変える。その冒険者達が新たなレイスとなってエリザ達を探す手ごまとなったのだった。

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