クリムゾン
ローランドが馬を走らせ、1日が経った。街一番の名馬というだけあって普通の馬より体力も速度もはるかに高く、早かった。実はこの名馬――ローランドはクリムゾンと名付けた――は、馬型の魔物の血が混じっており、魔力を持っていた。そして、無意識ではあるが身体強化を行っていたのだ。
「よし、そろそろ暗くなってくる頃だね。今日はこのあたりで野営をしよう」
ローランドはクリムゾンから降りて野営の準備を始める。たった1日ではあるが、ローランドもクリムゾンの異常性を感じ取っていた。言葉が通じている節があるし、木なんかに繋がなくても逃げない。何より、草だけではなく肉まで食うのだ。雑食性の馬なんて聞いたことないが、大量の飼葉を用意しなくても、狩りでまかなえるのは冒険者としてはある意味助かる。放っておけば、その辺の草や兎なんかを勝手に食べてくれるし。試してはいないが、恐らく魔物や人間の死体でも食うだろう。……それは勝手に食ってないよな?
「……おや?」
ローランドは、Aランク冒険者としての実力は本物であるので、ある程度離れていても気配を感じる事が出来た。
「……人数は30人程度、実力は一番高いものでBランククラスか。野盗かな?」
この道は、王都へと向かう道の中で一番よく使われるものだ。なので、商人や旅人で襲いやすい標的を定めるには都合がいいだろう。しかし……。
「変だね、街に近すぎる」
普通の馬よりはるかに早いクリムゾンではあるが、それでも普通の馬でも全力で走らせれば1日でイーストサイドの街へ着く距離しか走っていない。もし、こんなところで盗賊行為をすれば、あっという間に街から兵士が駆けつけてくるだろう。
ローランドは、奇襲に警戒しながら気配のする方へと向かう。盗賊程度に負けるつもりはない。
「残念だが、ここは通行止めだ」
しばらく進むと、向こうから先に姿を現してくれた。ただ、その格好はきちんとした装備を整えた冒険者の姿だった。
「私はイーストサイドの街から来たんだ。君たちは、なぜこんなところに居るんだい?」
冒険者であれば、30人もの大人数で行動する意味が分からない。大討伐クエストでもあればありえるかもしれないが、そんな話を聞かないし、イーストサイドの街の戦争を知っていて応援へ向かうつもりだったのなら、イーストサイドの街から来るものに対して先ほどのセリフを吐くのはおかしい。
「聞こえなかったのか? ここは通行止めだからさっさと帰れ。でないと、痛い目を見る事になるぜ」
「私も、なぜここに居るのかと聞いているのだけど。下っ端の君じゃ理由を知らないのかな?」
ローランドはあえて冒険者を煽る言い方をする。そして、思惑通り冒険者は見るからに不機嫌そうな顔になった。
「痛い目を見ないと分からないらしいな」
冒険者らしき男は、一応殺す気は無いのか、近くに落ちていた打撃性能のありそうな木の枝を拾うと、それを振り上げて殴り掛かってきた。どう見ても、ローランドの方がいい装備をしているのに、それすら分からないのか。
「話にならないね」
ローランドは、木の枝を避けると、そのまま男に腹を殴る。男は、木の枝を落として、腹を抑える。
「ぐふっ、やってくれたな。お前はもう殺す。おーい、敵だ!」
男は後ろの林に向かって大声で叫ぶ。すると、何人かの気配がこちらに向かってくるのが分かった。
「何があった?」
「イーストサイドから一人、男が来やがった。俺達に逆らうつもりらしいから、やっちまうぞ」
男は自分から殴り掛かってきたのを棚に上げて、ローランドが喧嘩をふっかけてきたかのように言う。それを真に受けた男の仲間が、それぞれの得物を抜く。その仲間の男たちも、きちんとした冒険者風の装備を付けていた。
「っておい、俺はこいつを知ってるぞ。Aランク冒険者の白銀のローランドじゃねーか!」
「そう言う君も、どこかで見た事があるな。名前は知らないけれど、王都の冒険者ギルドで見た事がある」
「……なあ、あんたはこっち側じゃ無いのか?」
「どういう意味だい?」
新しく現れた冒険者は、意味深なセリフをローランドに吐く。
「あいつらは、王都のCランク冒険者以上には声をかけているはずだ。あんたも、ほら、誰かから勧誘を受けなかったか?」
「受けてないよ。何の話だい?」
こっち側……つまり、ここに居る冒険者達は魔族側に着いた王都の冒険者達であった。そして、当然ローランドのパーティにも勧誘はかけられており、ローランドの仲間はすでにあっち側だ。だが、ローランドの性格を知っているパーティメンバーは、ローランドには裏切りの話をもちかけていないのでローランドは知らない。
「知らないなら教えてやる。今、魔族が人間の街に大軍を差し向けているんだ。恐らく、人間側は負けるだろうな。あの四天王たちが自ら向かっているらしいからな。俺達は、魔族に味方する事にした冒険者だ。王都とイーストサイドで連携を取られないようにするために、ここで待機して封鎖をしているんだ」
男は、この話をすれば、普通の冒険者であれば必ず味方になってくれると確信していたので、重要な話を全て伝える。それにもし、味方にならなかったなら殺せばいい。Aランク冒険者とはいえ、Bランク冒険者のパーティも複数いるこの大人数に勝てるはずがない。
「へぇ。君たちは人類を裏切ったんだね」
ローランドは、怒りを堪えるのに必死だった。ローランドが一番嫌いな、裏切りという行為を許すことが出来ない。男も、ローランドの怒気を感じてやばいと感じたのか、口封じの方を選ぶ。
「勧誘失敗だ、殺せ!」
隠れていた弓使い達が、すでに構えていた矢を放つ。しかし、ローランドはその殺気を感じてすべての矢を躱す。
「馬鹿な! どうして矢の飛んでくる位置が分かるんだ!」
「それは、殺気を消さないからだよ。まあ、殺すのが日常になるくらいの暗殺者じゃない限り、そうそう殺気は消せないだろうけどね」
「複数人でかかれ!」
何人かの接近戦を得意とする冒険者が、ローランドに襲い掛かる。だが、男たちは知らなかった。BランクとAランクの間には、想像するよりはるかに実力の差があるという事を。




