四天王の動向
「何故我々魔族がわざわざ他族の者の手を借りなければならぬのだ。それもこれも、すべて勇者の特性のせいだ」
四天王のブラドは、他の四天王の事をよく思っていなかった。本来、魔王というのは魔族の王だ。だから、四天王も当然魔族で占められるべきである。だが、実際は四天王の魔族はブラド一人で、あとは竜人族のドラグル、レイス族のレイラン、獣人族のフレディという他族の者である。
ブラドが気にしている勇者の特性とは、勇者は魔王に対して特効を持つということである。また、魔王以外の魔族にも有利に働く。なぜそうなのかは分かっていないが、逆に魔王は勇者以外からのダメージを軽減する能力を持っている。なので、勇者は魔王に強く、魔王は勇者以外に強い。しかし、勇者は魔族以外には普通の人類以上の身体能力を誇るだけで、必ず勝てるというほど強くはない。だから、魔王は四天王に他族を入れた。そのおかげで、勇者は四天王を倒す事が出来ず、戦闘が膠着状態になった。
あまりに両軍が何の手も打てないため、魔王が勇者と世界を分けるという、なんとも情けない状態になっている。それも、四天王に他族が入っているせいでもあった。他族は、魔族ほど魔王を神聖視していない。そのため、今は大人しく従っているものの、隙があれば魔王を倒して自分の種族を世界の王としたいと思っているはずだ。しかし、魔王は四天王よりも強いため、それが出来ない。なので、膠着状態なのだ。
「忌々しい。さっさと街を落として、魔族の領土を広げねば」
魔族の総数は、寿命が長いせいもあって少ない。出生率も低いため、それほど領土を必要としていなかった。しかし、他族を入れたせいで領土が手狭になった。四天王はそれぞれ、自分の領土を得るために別々の街を落とす事になっている。力の順で、一番大きな領土はドラグルが、次いで大きな領土はブラドが、その次に大きな街はフレディが落とす事になっている。唯一、レイス族という領土を必要としないレイランだけが好き勝手やるみたいだが。そして、一番早く街を落としたものにサウスサイドの街を落とす権利が得られる事になっている。なので、ブラドとしては必ず魔族の領土を増やすために自分の担当の街を落としたいのだ。
「魔族の精鋭は魔王城の守りに必要だ。吾輩の手の者だけで攻め落とさねばならぬ。しかし……」
ブラドは吸血鬼だ。そのため、明るすぎる日中は行動できない。その代わり、夜には……特に月が輝く日には力が倍増するのだが。ブラドは、今の時期は夜よりも日中の方が長いため、他の者たちよりも出遅れている気がしてならない。実際の進軍速度はそれほどの差がないとしても、気がはやる。
「魔王様、待っていて居て下さいませ。吾輩が必ず、必ずや魔王様に領土を献上します故」
ブラドは、見えない魔王城に向かって深々とお辞儀をするのだった。
一方、馬のシルバから奪った内臓を無理やり使用して生き残ったレイランは、自分の研究所へと戻ってきていた。
「よくもやってくれたわね、あいつら。私のお気に入りの体を使用不可能にしちゃって!」
レイラン自身は霊体の為、肉体を持たない。その代わりに、相手の体内の魔石を奪うことによって肉体自体を奪う事が出来る。そして、自らの研究の成果で、魔石を通してある程度操れるようになったのだ。レイスは死者の魂の総称のため、レイス族とは言っているが、別に仲間意識は無く、何より増える手段がない。死した者から、恨みや未練があればレイスとなるだけだ。だから、レイランとしては四天王が勝手に人間を殺したり、逆に殺されたりしてレイスとなったものが居ればうまく使ってやろうというくらいの感覚でしかなかった。
「こうなったら、やっぱり見た目よりも能力かしらね。ふふふっ、私のコレクションの中でも、生身の人間にとって必殺と言っていい程の性能を持つあれを使うしか無いわね。ただ、可愛くないのよね」
レイランは、昔たまたま見つけたメデューサの肉体を持っていた。メデューサは、頭の蛇と目を合わせると、人間を石化させることが出来る。当然、肉体を持たないレイランにとってはメデューサは全く脅威では無かったが、人間にとっては脅威そのものだ。過去にメデューサを討伐する事に成功した人間は、目をつぶっても戦える盲目の剣士か、機転を利かせて鏡越しに姿を確認しながら戦った戦士くらいしか思いつかない。まあ、メデューサ自体と遭遇するのが珍しい。基本、メデューサは石化した小動物を食べるくらいで、わざわざ人間を狙わないからだ。
「仕方ないわね、せめて可愛い服で誤魔化すしかないわ」
さっそく、メデューサの肉体に入り、ドレスを着る。頭は蛇でもじゃもじゃのため、帽子もかぶれない。メデューサはそれほど知能が高くないため、ぼろぼろの布切れを着ているか、動物の皮を着ていればいいほうで、大体は裸に近い格好をしている。
「うーん、多少はマシになったかしら」
準備が整ったレイランは、復讐を果たすために再びエリザ達を探すのだった。




