ビッグ・アロー
「エリザ――!」
ローランドは、フレディの腕に貫かれたままの姿のエリザを見て叫ぶ。フレディの腕は、エリザの心臓を破壊したようで、その傷口からは大量の血が腕を伝って流れ落ちる。そして、フレディは動かなくなったエリザの体を、腕を振ってボロキレの様に投げ捨てる。
「マオ様! 早くエリザ様を治さないと!」
クロンは、自分がすぐに治ったように、エリザもすぐに治してもらえれば助かると思った。しかし、マオは首を振る。
「回復魔法は、本人の治癒能力を向上させるだけだ。再生能力の無い心臓は、治すことは出来ぬ」
エクストラヒールであれば、実は無から有を作り出す事が出来、どんな傷も一瞬で治るのだが、それを使うとレランの翼も治せることがレランにバレるため、マオはエリザ自身から使用を禁止されている。
「そん……な……」
クロンは、膝をついて途方に暮れる。自分に呪いをかけて人間の姿をさせたエリザではあるが、クロンは最近、人間の姿も悪くないと思っていた。人と会話できるし、何よりすべてのものが新鮮に感じられたのだ。生まれてから百数十年しか経っていないが、ドラゴンの寿命から言えばまだ子供。新しいものには目が無い。
「あれ、これであたしの呪いも解けるのか?」
そして、レランは人の姿にまったくこだわりが無かったので、エリザの死で人化の呪いが解ける事を少し喜んだ。呪いは、かけた本人が死ねば勝手に解けるというのがこの世界の共通認識である。逆に言えば、心臓を破壊され、エリザが即死したにも関わらず呪いが解けていない現状を見れば……。
「あー、久しぶりに痛みを味わったわね。マオにも味わわされたことがないのに」
おもむろに、エリザが立ち上がる。当然、心臓のあった場所には穴が開いている。しかし、みるみるその穴は塞がり、一緒に穴が開いた皮の鎧ごと再生……いや、復元する。
「あ……?」
あまりの出来事に、それをつぶやいたのはマオ以外の誰なのか分からない。フレディも、ローランドも、クロンもレランも理解が追い付かずに思考停止している。
「我も、今のお主の体なら傷をつける事が出来るのか?」
「当然できるわね。防御力は、ただの人間だもの。けれど、マオとやるなら絶対に普通の人間の体じゃやらないけど」
「まあ、そうであろうな」
マオも、別にエリザを傷つけたいわけではないが、いつか一矢報いてやりたいと思ってはいる。だが、フェアではない戦いをするつもりも、弱い者いじめをするつもりもない。ただ、聞いてみたかっただけだ。
「私、心臓が2個あるの。あっ、これは内緒よ?」
誰に言うでもなく、エリザはそう皆に伝える。実際は、心臓が無くても活動できるのだが、それを言ったら人間じゃ無い事がバレてしまう。まあ、心臓が複数ある時点で人間かどうか疑われるだろうし、どう見ても服が直った時点でおかしいと思われるが、まだごまかせる範囲だとエリザは思っている。それに、心臓が2つかどうかも体を開いて調べられない限りは分からない。まあ、調べられたら実は心臓が1つしかないのだが。ただの人間の体なので。身体能力は人間の限界を突破しているけれど。
「馬鹿な、そんな馬鹿なー!」
もう、何度目になるか分からないフレディの叫びが戦場に響き渡る。しかし、フレディはまだ負けた訳では無い。それに、心臓が2つあるなら、2つとも破壊すればさすがに死ぬだろうし、何なら脳の方を破壊すれば一発で殺れるかもしれないと思いなおす。
「死ね死ね死ね死ね、死ねなのだ―!」
両腕を両方とも尖らせるばかりか、新たに腕を2本生やして4本の槍の様な腕で連続突きをする。どこに心臓があるか分からないので、めった刺しにするつもりだ。
「そう、何度も食らわないわよ」
だが、さっきと違って誰かをかばっていないエリザは、フレディの単純な攻撃に当たることは無い。
「ピアシング・アロー!」
逆に、エリザはフレディに反撃する。一応、関節でもダメならとフレディの目を狙ったのだが、そこも同じ硬さだったので刺さらなかった。肉体的弱点が無いのは、巨大化していた時と変わらないようだ。しかし、魔石という核を狙おうにも、それがどこにあるのかも分からない。
「困ったわね」
ただの金属の塊の弱点を探しているようで、エリザは微妙な感じを覚える。それに、A級冒険者のローランドの必殺技ですら無傷のフレディを、矢で倒せるのか分からない。チートを使うにしても、何かきっかけが無いと使いづらい。普通に勝てる相手にまで、ずるをして勝つ必要は無い。
「マオ、魔法で特別な矢を作れないかしら?」
そこで、エリザはマオの力を借りることにする。チート魔道具を持つマオなら、多少の出来事も納得されると思ったからだ。エリザが、何もパワーアップする理由が無かったのに、いきなりフレディを吹き飛ばすよりは断然普通だ。
「どのような矢がいい? ただ硬いだけの矢ならすぐ作れる」
「それでいいわ。私の持っている矢じゃ、あの体は貫通出来ないもの」
ただの矢に、魔力をコーティングをする事は普通の冒険者もやっている。それで、ストーンゴーレムやロックタートルの様な硬い魔物も倒せると聞いているからだ。だが、さすがにそれ以上硬い魔物には矢自体をミスリルで作るとかしないと無理だとも聞いている。なので、マオに特別な矢を作ってもらうのだ。
「分かった」
マオは、地面に手をつけると、土魔法を応用して地面を固め、超高密度に圧縮して矢の形にする。はた目にはただの土の矢だが、強度を調べれば超合金並みの硬さがある。それを1本作り、エリザに投げ渡す。それをエリザは受け取り、弓につがえる。
「矢が1本あるからなんなのだ、それが何であろうと、ぼくを倒す事は出来ないのだ!」
フレディは、体の中に空洞の道を作り、魔石の位置をランダムに動かす。万が一、魔石の魔力を感知されて撃たれたら困ると考えたからだ。しかし、常に動かしていれば、たとえ感知できても外れるはず、そう考えて。
「それじゃあ、行くわよ。ビッグ・アロー」
エリザは、適当な名前を付けてマオから貰った矢を放つ。
「は?」
それは、フレディに近づくほど巨大化していった。そして、このままの巨大化を続けていけば、フレディに当たる頃には優にフレディの身長を超えるだろうと思われるため、フレディは回避行動に入る。
「アイス・バインド」
しかし、それをされると戦闘が長引いてめんどくさくなりそうだと思ったマオが、フレディの足に氷のツタを巻き付けて妨害する。
「な――」
何が起きたのか。フレディがそう言う前に、フレディの全身はエリザの矢を受けて粉々になった。




