フレディの奥の手
「待ちなさい。少し、話をさせてもらえないかしら?」
「話などするわけないのだ。撃て!」
フレディはエリザの言葉を無視して魔物に矢を射させる。だが、たかだか低位の魔物が放つ弓はエリザ達の脅威にはならない。いくら、強化されていようとも所詮は低位。中位クラスになろうとも、普通の兵士や冒険者であれば脅威になるだろうが、ここに居るメンバーは普通ではない。
エリザは矢が放たれる前に自分に当たるであろう位置から移動し、マオはシールドを張り防ぐ。クロンは盾や剣で防ぎ、いくつか当たる矢も鎧を通らない。ローランドも、Aランクに相応しい動きで矢を回避し、斬り払い、当たることは無い。レランは……。
「ちょっと、痛い、痛いって!」
レランは盾が無く、また鎧部分も少ないため肌の露出が多い。そのため、いくら2本のナイフで矢を防いでもいくつかは肌に当たった。さすがに刺さることは無いが、人間が鉛筆で肌をつつかれる程度には痛い。
「マオ、少し静かにさせて貰えるかしら」
「ならば、一度試してみたかった魔法を使うか。サン・ビーム」
巨大な魔法陣が上空に現れ、そこへ光が吸収される。そして、集められた光がレーザーとして薙ぎ、付近の魔物を焼き払った。それだけで、数百体の魔物が消滅する。
「な、何なのだ!」
低位とはいえ、強化された魔物が一瞬で倒される。それを目にしても、フレディはその現実を信じることが出来なかった。だが、その光が2発、3発と放たれるにつれてフレディの意識は現実だと認識する。
「やめろ、やめてくれ! 話を聞く、だからやめてくれ!」
魔物使いにとって、魔物は苦楽を共にした家族みたいなものだ。それが、数百単位で減っていくのを見ていることは出来ない。それも、戦って散るのではなく、一方的になすすべなくあっさりと散っていくのは見るに耐えられない。
「マオ、もういいわよ」
「ふむ、この魔法は一度発動すれば連続使用可能なのが便利だな。ただ、晴れの日の、それも日中しか使えないのが難点か」
マオは、自分の魔法の成果を確認し、満足する。上空から魔法陣が消えた。
「お前達、一度退避だ! 呼ぶまで離れているのだ!」
エリザ達とは無関係なイーストサイドの兵士たちは、これを好機ととらえてフレディの魔物へと攻撃していた。なので、一度イーストサイドから離れさせる。
「それで、話とは何なのだ? 撤退させて欲しいのか? それなら――」
「違うわよ。飽きたの」
「え? なん……」
「あなたたちのやることが、魔物の大群で攻めるっていうありきたりな方法ばかりで飽きたのよ。何か、他に無いの?」
エリザの意味不明な言葉にフレディの脳は思考の迷路へと入り込む。ありきたりな攻撃ということは、それだけ成果を上げられる方法だからだ。それを、やめろと言われるなら分かるが、飽きたとか、あまつさえ他にないのかと。意味が分からない。
「えっと、ぼくは魔物使いなので、他に方法が無いというか、なんというか」
「ドラグルも似たような事をしていたわよ」
「あ、ドラグルさんをご存じで。あの人は、魔物の方が勝手に従っているのでぼくとはまた違うというか」
「そうなの。それじゃあ、もう何も無いのね」
エリザのその一言に、フレディの背中がゾワリと泡立つ。何か無いか。何か無ければ、自分の命はここまでだと本能が警鐘を鳴らす。しかし、魔物使いとしては魔物を使う事しか出来ない。一応、自分自身も戦えるが、Cランク冒険者のシーフと同レベルの実力しかない。それなら、まだオーガを強化した方がよっぽど強い。
「くっ、ぼくは……ぼくはーー!」
フレディは、やりたくはないが、最後の方法を取るしかないことを理解した。家族ともいえる魔物たち。その魔石を自らに取り込むことによる強化を。
「お前達! ぼくに力を渡すのだ!」
「させないよ――」
ローランドが、フレディのやろうとしていることに危険を感じ、何かする前に斬り捨てようと一歩前に足を踏み出す。しかし、それをエリザはスッと手をローランドに向ける。
「待って。何をするのか見たいの」
「……私の冒険者の勘が、やらせない方が良いと判断しているみたいなんだけど」
「そうなの? 私の勘が、面白そうだと判断してるみたいなの」
エリザがニッと笑う。ローランドは、その笑顔に負けて足を止め、剣を仕舞う。ただ、フレディからは距離を取る。
フレディに魔物たちが走って集まってくる。そして、到着した者から順にフレディにぶつかっていく。だが、それは攻撃ではなく、フレディにぶつかった魔物はそのままフレディに取り込まれる。そして、その数が増えるほどフレディは巨大になっていった。
「さすがに、止めなくていいのかい?」
身長10メートルを超えたあたりで、ローランドはエリザに聞く。これは、どう見ても放置すれば放置するほど巨大になっていき、危険であると。10メートルくらいの今なら、まだ止められると。
「これは初めて見るわね。どこまで大きくなるのかしら?」
エリザに止める気は無いとローランドは判断し、ローランドは独断で攻撃を開始する。ローランドは飛び上がると、フレディの首に向かって剣を振る。
「月光刃!」
「あっ!」
エリザが止める間もなく、まだ大きくなっている途中のフレディの首を刎ねる。フレディの巨大化が止まってしまった。
「あーあ。何もしない間に終わっちゃったじゃない」
エリザが、もう終わりかと残念に思い、終わったならイーストサイドに向かおうとした時、再びフレディの巨大化が始まった。斬り飛ばされた首ももう一度体に吸収される。
「馬鹿な! 確かに、首を刎ね飛ばしたのに!」
「馬鹿はお前なのだ。今のぼくに、身体的な弱点なんて無いのだ。このまま押しつぶしてやるのだ!」
身長30メートルを超え、その大きさはイーストサイドの壁をも超える。その大きさはイーストサイドの街の中からも見えるからか、街の方から阿鼻叫喚の声が聞こえる。
フレディが腕を持ち上げ、そのままローランドに振り下ろす。動作が遅いため、ローランドはそれを簡単に回避する事が出来たが、フレディが打ち付けた地面にはクレーターが出来ていた。そこから、飛び散る小石や破片がローランドの鎧をカンカンと鳴らす。もし、当たっていれば一撃で圧死するだろう。
「そう言う手があるなら、最初からやればよかったんじゃないのかしら?」
「ぼくに吸収された家族たちは、もう二度と元には戻れないのだ。つまり、お前たちに殺されたも同然なのだ。家族の仇うち、食らうのだ!」
勝手に合体したのに仇と言われるエリザは、微妙に納得のいかない顔をしたが、何か無いかと催促したのも自分だ。それならば、今の状況を楽しむしかない。
「クロン、レラン、危険だと思ったら逃げなさい」
「僕は大丈夫です、ご主人様」
「あたしも、平気だよ、多分……」
レランは、クロンに負けないように言うが、実際の所はあの攻撃を人型で受けたら危険だと思っている。しかし、今はもうドラゴンの姿に戻れないと思っているので、そこそこ及び腰だ。さらに言えば、今の自分にあの巨体に通じる攻撃方法も無いと思っている。クロンの方は、あの程度の攻撃なら防げると考えて、積極的に攻撃に転じていた。アレクから教えてもらった剣技を思いきり試せると。しかし、剣でいくらフレディの足や手を傷つけても、すぐに肉がくっついて再生してしまう。ローランドが首を斬り飛ばしても効果が無かったのだから、あとは焼くくらいしかないのではないかと思う。しかし、ドラゴンブレスは人型の時にあまり使いたくない。口を火傷するので。
「マオ様、どうしますか?」
クロンはマオへと話しかける。基本的に、マオは積極的に戦闘に参加しないことは知っている。なぜなら、エリザが優先的に行動する事になっていると教えて貰ったからだ。だが、今の状況はそうもいっていられない状況のはずだ。クロンの認識では、エリザの矢ではあの巨体に効果が無いと判断しているからだ。
「シューディング・スター!」
それでも、エリザはフレディへと矢を放つ。その矢は正確に人型の胸の部分、心臓の部分を貫いて大きな穴を開ける。思ったよりも威力のある攻撃に、ローランドはおろか、クロンとレランも驚く。5メートルほどの穴を開けられたフレディはよろける。けれど、よろけただけでダメージは無さそうだ。開いた穴も、すぐに肉で埋まっていった。




