バーベキュー
クロンは、アレスに教えてもらえるようにキチンを頭を下げてお願いする。
「こっちから言い出した事だ。それに、これほどの宝石の原石を磨かなかったら勿体ないと思ってな。礼なら、飯でも食わせてくれればいい」
「食料ならいくらでもあるからいいわよ。それで、期間は? 私達は装備が完成し次第、王都へ戻る予定よ」
「できれば、俺が預かって数年教え込みたいくらいなんだが、とりあえず最低限の基礎基本は教えたい。その上達ぶりを見てからだな。もし、俺が納得する様ならお前たちに着いて行ってでも教えたいくらいだ」
「暇なの?」
「そんなわけあるか。俺は、この村の食料調達を担っている。今日狩ってきた獲物で数日は持つだろうが、また狩りに行かなきゃならん」
アレスは、村に数人いる狩り担当の一人だ。交代交代、もしくは複数人で大物を狩るなどして生計を立てている。大物を狩るには遠出をしなければならないが、近くでばかり狩っていては獲物が減るばかりなので仕方がない。幸い、アイテム袋は冒険者時代に手に入れた結構容量の入るものを持っていた。
「それじゃあ、最初に型を教えるぞ。これを覚えるだけでも攻撃後の隙が減る。魔物相手ならあまり考えることは無いが、人が相手だと大きな隙があるのは致命的だ」
アレスがクロンに教え始める。エリザは、それを興味深く見ている。マオは、剣術には興味があまりないので、ドワングの手伝いの方を選んだ。
ドワングは、まずは簡単なナイフから作るつもりで数キロのミスリルをマオに融かしてもらう。柄までミスリルを使うのは、本来ならすごく勿体ない使い方なのだが、今は他の金属を持ち合わせていないので100%ミスリルのナイフを作るつもりだ。あくまで練習なので、要らなければまた融かせばいいだけだ。
その日の夕方は、アレスを交えて焼肉をすることにした。というか、キッチンも何も無いから焼くくらいしかできない。包丁の代わりにドワングが作ったナイフが使われる。
「ウルフの解体にミスリルナイフを使うなんて……。俺がこのまま欲しいくらいだ」
「馬鹿いえ、貴重なミスリルをそう簡単にやれるか」
「はは、分かってるよ。これでも結構有名な冒険者だったんだ。ミスリルの価値くらい知っている」
アレスは、ミスリルなんてめったに扱えないと、進んで魔物の解体を請け負う。解体されたウルフの肉は、適当な大きさに切って置いていく。それを串に肉と野菜を交互に挟んで完成だ。土魔法で作ったかまどと、簡易的なテーブル、椅子を作る。
「街で買った調味料も使っていいわよ。その辺はマオの方が得意かしら?」
「くっ、ノロイのせいで散々作らされたからな」
マオは、エリザもクロンも料理ができない事を知っている。ドワングとアレスは作れるだろうが、調味料に関しては自分の方が詳しいと自負しているので、味付けは自分でやった方がいいと判断する。
調味料を使い、いくつかのタレを作る。そして、火魔法でしっかりと肉に火を通した。出来上がった串を皿に乗せ、全員分が完成したので食べ始める。
「うまいな、このタレ。どんどん食欲が沸くぞ」
「確かに。これだけうまい飯を作れるのなら、作ってもらえばよかったな」
「作らなくていいなら作りたくないからな。今回は、クロンを鍛えて貰っている礼だ」
マオにしても、クロンをすでに仲間判定している。最初は、エリザに目をつけられた可哀そうな奴くらいにしか思っていなかったが、一緒に居るうちに「あれ? こやつの境遇って我と似てるんじゃ」と親近感を感じたのだ。マオも、呪いのためにノロイの命令を受けてきた過去があるのだ。
「それで、クロンはどんな感じ?」
エリザはアレスにクロンの素質を聞く。結局、エリザがクロンを見ていたのは最初の十数分だけで、同じ型の繰り返しを見ているうちに飽きて寝ていたのだ。
「ああ、思ったよりもさらに才能があったよ。あっという間に型を覚えたし、その後に仕込んだ技も使えるようになった」
「ありがとうございます。師匠のおかげで、私はさらに強くなることが出来ました」
クロンは、アレスの事を師匠と呼んでいる。型を教わっているうちに、自然とそう呼んでいたのだ。アレスも、弟子が出来たようだと喜んだ。実際、弟子に取る時間が無いのが残念だと感じている。
「本当は、俺がもっと教えてやりたいんだけどな」
一度マサムネの所に戻ったドワングから、数日中に装備が完成するという報告を受けた。護衛期間としてはぎりぎり間に合うが、クロンに剣術を教え込むには短い期間だ。
「俺の代わりに獲物を狩ってきて貰っても、残念ながら教えきれねぇな」
「師匠……」
アレスは感じていた。クロンにこのまま剣術を教え込んでいけば、確実に強くなると。実際、軽く打ち込んだ感じでは、身体能力だけはすでにアレスを超えている。最初は力任せの大振りと、雑な移動でアレスに全く当たらなかった攻撃も、型を教えてからはアレスに防御させられるようになった。そして、技を覚えれば格段に戦いの幅が広がるはずだ。
「とりあえず、出来るところまで教える。ちゃんとついて来いよ」
「はい、師匠」
クロンは、力強く返事した。




