剣士アレス
「へぇ、綺麗ね。これなら私も欲しいかも、使わないけど」
「思ったよりも、早くできるものなんですね」
「がはは、本来は不純物を取り除くのに何回も融かしては叩く必要があるが、ミスリルゴーレムは不純物無しの100%ミスリルだったから、作業が省けて早かっただけだ」
出来たのは正方形のミスリルの塊。光を受けると、ドワーフ秘伝の粉が混ざっていて虹色に見える。魔力を込めると、それがさらに輝く。宝石が好きなものなら絶対に欲しいと思える逸品だ。ただ、ミスリルの量が剣を作れる量の数倍あるため、よほどの金持ちで無いと買うことは出来ない。
ドワングは、正方形ミスリルを持ってマサムネの家へと戻る。土の壁はマオが元に戻した。家に入ると、マサムネは紙に魔法陣を描いているところだった。
「早いな、まさかもうできたのか?」
「純度100%のミスリルだったから、インゴットにする手間が省けたんだ」
「そうか。俺の方はまだかかるから休んでいてくれ。あと、出来た結晶を見せてくれ。その大きさに合わせて調整する」
「これだ」
ドワングは、アイテム袋からミスリルの結晶を取り出す。
「ほぅ、正方形なのか。杖の先にはめ込むみたいに球状かと思っていたんだが」
「この大きさのミスリルを球の形にするのは大変だと思ったから変更した。問題あるか?」
「魔法陣が円形だから、そのつもりで描いていたんだがな。まあ、ものがでかいから普通に魔法陣自体は描けるから問題ない」
円形の魔法陣を無駄なく描けるのは球状の結晶であるが、ドワングの作った結晶は魔法陣を描いてもまだ余裕があるほどでかい。普通の魔法使いが使う球の十倍以上の大きさがあるのだから、問題がないどころかさらに改造を加えることができる余裕がある。
「余った隙間に、サポート用の魔法陣も組み込むか。それに、積層魔法陣もできるな。浮かして追従するだけの機能だけじゃもったいないからな」
「そこはおぬしに任せるぞ。ワシは、まだあるミスリルで自分の腕を磨くわい」
ドワングは、マサムネが設計を終えるまで暇なのでミスリルでいろいろ試すつもりだ。エリザ達も、まだ護衛期間なので勝手にどこかへ行く訳には行かないのでドワングに着いて行く。そう言う事なら、土の壁はそのまま残しておけば良かったと思うが、作るのも一瞬なのでマオも特に嫌な顔をしない。
「クロン、稽古をつけてあげるわ」
「ありがとうございます。ご主人様の装備はそのままでいいのですか?」
「ふふっ、私に当てられるつもりなのかしら? 武器もそのままでいいわよ。来なさい。もし、私に一撃でも入れられたら、自由にドラゴンに戻れる様にしてあげるわよ」
「本当ですか! では、行きます」
暇なエリザは、クロンへの稽古で暇をつぶす。クロンは本気でエリザに斬りかかり、跳び、尻尾まで使ってなんとか一撃入れようと頑張る。それを、エリザはあくび交じりで躱し、避け、蹴り飛ばして防ぐ。軽く蹴っている様に見えるエリザの蹴りは、クロンを数十メートル弾き飛ばす。普通の人間なら、それだけで重傷か下手をしたら死ぬレベルだ。だが、防御力がドラゴンの半分あるクロンは、この程度では怪我をしない。けれども、距離を開けられて攻めづらい。
「もったいないな、嬢ちゃん。せっかく身体能力が高いのに、それを全く生かせていないな」
戦闘音が思ったよりも響いていたのか、いつの間にか近くに男が居た。当然、エリザもマオも気が付いていたが、戦うのに夢中だったクロンは気が付いていなかった。
男は、顔に傷があり片目だった。腕に自信があるのか、異常な身体能力を誇るクロンを見ても驚く様子は無い。声をかけられたことによって、クロンの動きが止まる。
「誰かしら?」
「おっと、邪魔をしたか。あんたが師匠か? 見た所、教えている様には見えなかったが」
エリザは暇つぶしとしてクロンと戦っているだけの為、特に何かを仕込んだり教えたりはしていない。それに、そもそもエリザは教えられるような技術を持ち合わせていなかった。ある程度の真似事は出来るかもしれないが、教えるとなるとどう教えていいのか分からないのだ。
「師匠じゃ無いわよ。暇つぶしに体を動かしていただけよ。それに、私の職業はレンジャーよ」
「あの威力の蹴りを放っておいて、レンジャーだと……? それはそれで信じられないが、それよりも嬢ちゃん、俺が剣術を教えてやろうか? 俺の名前はアレス。昔、冒険者をしていた剣士だ」
アレスは、ニッと人好きがするような笑顔をクロンに向ける。しかし、クロンはどうしたらいいのか分からずエリザの方を見る。
「そうね……。私じゃクロンに教えることは出来ないし、教えて貰ったらどうかしら。クロンが剣術を学んだら、どんなものになるのか、興味があるしね」
クロンはドラゴンなので、当然剣士の心得なんかまったくない。それでも、自己流で魔物と戦ううちに剣の振り方や人間の体の動かし方を学んできた。しかし、その道の人から見れば全くダメだったらしい。クロンは、少しでもエリザに一撃を入れる可能性を上げたいと、アレスに教えを乞いたいと思った。
「私はクロンと言います。ご指導、よろしくお願いいたします」




