正方形のミスリル
村は柵で囲まれているだけの簡素な守りだった。一応、ウルフが飛び越せないように柵の周りには溝が掘られている。しかし、唯一の村の入口にすら人の姿は無い。入口は閂のかかっている簡素な門だけで、自分で開けて門に開いている穴から手を入れて自分で閉めるシステムになっているようだ。
「誰も居ないのだけれど、勝手に入っていいのかしら?」
「ああ。一応、何かあっても各自で対応する事になっているらしいからな」
村の中には歩いている人の姿は無い。ドワングの話では、基本的に生活用品は物々交換だが、食料に関しては元冒険者や元傭兵が狩猟をして獲物を各家に配るらしい。穀物なんかは街へ物を売って稼いだ金で買い集め、村で分ける。なので、食料だけは村全体で協力して暮らしている。
「まあ、生活用品は商人が来るまで待つしか無いみたいだけどな。そこそこ腕の立つ奴が居るから、物々交換だけでもそれなりに物は手にはいる様だし。今から行く魔道具師が作る魔道具も、持って行くところへ持っていけば金貨数枚で取引されることもザラらしいからな」
「それなら、なおさら街で仕事にすれば稼げそうなのに」
「人付き合いがめんどくさいのと、好きなものを作りたいからだそうだ。興味の無いものを依頼されても作りたくないと街を出たみたいだからな」
「それだと、マオの魔道具も作ってもらえないかもしれないってことよね?」
「大丈夫だ。ワシと同じで、絶対に興味を持つはずだ」
ドワングは自信満々に言う。どんな関係の人物かは分からないが、類は友を呼ぶと言うから、似た者同士なのかもしれない。青い屋根の家に着くと、ドワングは扉を乱暴に叩く。
「おーい、マサムネ、居るか? ワシだ、ドワングだ」
「おい、扉が壊れるだろ。開いているから入ってこい」
家の中から返事があったので、扉を開けて入る。中はごちゃごちゃとして足の踏み場も無いが、一部屋だけ綺麗に片づけられた場所があり、そこに長髪の人物、マサムネが座っていた。
「久しぶりだな。って、後ろに居るのは客人か? 美女ばかり連れてどうしたんだ?」
「ああ、こやつらは街で雇った冒険者だ。ワシが鉱石を掘るための護衛を依頼したんだ」
「初心者冒険者を雇ったのか? 鉱山も危険がある場所だから、もっとベテランを雇った方がよくないか? それに、今から行くのか?」
「いや、もう採ってきたところだ。見て見ろ、ほれ」
ドワングは、アイテム袋から小さなかけらをマサムネに放り投げる。足場が無いので投げ渡すしかなかった。
「おっとと、何の欠片だ? ……ミスリルか。こんな貴重なものを投げんじゃねーよ」
「がはは、手に入った量を考えると、それくらい大したことない様に思えたが、確かに普通ならそれだけの量でも合金にすればナイフの一本でも作れるか」
「俺なら、ミスリル糸にして何個も魔道具の材料にできるほどだぞ。色々と聞きたいから、いつまでも入口に立っていないで早く入ってこい」
「行きたくても、通れないんだよ!」
「悪い悪い、今どかす」
マサムネはガラクタを横に寄せたり上に積み上げたりして通り道を作る。そこを通って唯一綺麗な部屋へ行く。
「あんな乱暴な扱いでいいのか? 全部魔道具だろ?」
「いいんだよ、ほとんど失敗作か未完成品だからな。それより、ミスリルを手に入れたんだな。それで俺にどうして欲しいんだ?」
「話が早くて助かる。空中に浮く魔道具を作ってくれないか? 杖の核になる結晶を俺が作るから、お前がそれを持ち主に追従する魔道具に改造して欲しい」
「ほぅ、それは面白そうだ。だが、浮かすとなるとよほど純度の高いミスリルが必要になるぞ?」
「大丈夫だ。ミスリル100%の結晶を作る」
「馬鹿な! そんなもん、一体どれほどの値段になると……それよりも、手に入れる方が大変だろう」
「それが、手に入ったからこうして来てるんじゃないか。見ろ」
ドワングは、アイテム袋からさらに十キロほどのミスリルを取り出す。それをマサムネはジッと見て確認する。
「インゴットにするまでもなく、純度が高いミスリルだな……。どこでこれを?」
「ダンジョンにミスリルゴーレム出てな。そいつの戦利品だ」
「信じられん。ミスリルゴーレム自体の存在も信じられんが、倒せるのはAランク冒険者ぐらいだろ? それも、大魔法でバラバラに破壊したり、武器で叩きまくって破壊したりして素材が綺麗に残らんはずだ」
「そこは話すことは出来ないが、そんな事よりも魔道具の事だろ?」
「確かにな。俺は現物さえあれば手に入れる過程はどうでもいい。いや、手に入れてくれるならどうでもよくはないが、どうせもう手に入らないんだろ?」
「それは分からんが、どっちにしろ2度目は恐らく無いだろうな。それに、ワシはもう十分すぎる量を手に入れたからな」
綺麗に確保するには、マオ達の力が要る。しかし、いつまでも街に居るとは限らないし、そもそもいつミスリルゴーレムが復活するのかも分からない。下手をしたら、数年から数十年待ってやっと復活する場合もある。
ドワングが手に入れたミスリルの量は、国が年間で扱うミスリルの量よりも遥かに多い。国のお抱え武器屋ですら、年間剣が1本作れればいい量しか手に入らない。今、エリザのアイテムボックスにはその数十倍の量のミスリルが入っている。
「だから、お礼に装備を作ってやろうと思ったんじゃが、杖を持ちたくないというものでな」
「別に杖じゃなくても、剣やナイフ、鎧や盾と使い道は沢山あるだろ?」
「そこは、いろいろあってな。とりあえず、手に持たずに使えるものならという事で、お主を頼ったわけだ」
「いいだろう。俺としても、試してみたい。もし完成したら、俺にも少しミスリルを分けてくれないか? それがあれば、そこらの未完成品を完成させることができる」
「もちろんいいぞ。それじゃあ、ワシはさっそく結晶を作る」
「それじゃ、俺は中に組み込む魔法回路を設計する」
ドワングとマサムネは、手分けしてそれぞれの作業へと入る。ドワングはミスリルを融かす炉はここには無いが、マオがミスリルを融かせる事を知っているのでマオに頼んでミスリルを融かしてもらう。当然、作業は熱のこともあるので街の外で。さらに誰にも見られないように土壁で覆った場所を作る。
「悪いマオ、予定では球の形にしようと思っていたのだが、作業効率を上げるために正方形にしたいのじゃがいいか?」
「そこは任せる。我は見た目は気にしない」
「それなら、正方形にするぞ」
やってみて、融かしたミスリルを丸くするのには骨が折れそうだと判断し、インゴットを作るように正方形にしていく。もともと不純物が含まれていないミスリルだったため、ドワーフ秘伝の粉を混ぜていくだけでいい。あとは、叩く回数と粉の量を見極めるだけだ。
「……出来たぞ」
ドワングは、失敗することなく正方形のミスリルを完成させた。




