裏切り
無事、クロンの冒険者登録とランクアップが終わった。ギルド内は、相変わらず冒険者は誰も居ない。
「悪いが、追加の報酬は他の冒険者と一緒で3日後に頼む。どれほどのものになるか、まだ分からないからな」
「分かったわ」
魔物の総量と程度が分からない限り、報酬がいくらになるのか分からない。参加した冒険者はすでに控えてあるため、あとは魔物の解体だけだ。ただ、最初のクロンによるブレスで、無傷な魔物はほとんどいないため、程度がいいものはガルダの素材くらいしかない。ウルフの牙や、多少傷がついていても食べるだけのオーク肉はある程度値段がつくが、頑丈な皮としての素材が期待されるオーガは安くなりそうだ。
「それじゃあ、私達は街でもブラつこうかしら。泊まる宿は決まっているみたいだし」
連絡手段が限られているため、3日間は冒険者それぞれの宿が決められていた。全員、中級クラスの宿だ。働きがどの程度か分からないから差をつけるわけにいかなかったので、全員が同じだ。エリザ達3名は、明らかに貢献度が違うが、エリザが普通の冒険者と同じがいいと言ったので差が無い宿屋になっている。優遇されたら、せっかくの冒険者生活が経験できなくなるからである。
街の方へと向かうエリザ達に近づく影があった。
「誰だ?」
当然、マオはそれに気が付いていた。それは、フードを深くかぶって顔を隠した男だった。
「ほぅ、俺の気配に気が付くとはやはり他の冒険者とは違うな。まあ、あの戦いを見る限り分かっていた事だが」
「お主も参加した冒険者か? 我らに何の用だ?」
「こんな場所じゃ話もできん、ついてきて貰えるか?」
「もちろん、いいわよ」
イベントの気配を読み取ったエリザは、マオが答えるよりも先に答える。男は、それを聞いて狭い路地へと入っていく。そして、1件のぼろい家へと入った。
男に続いて家に入ると、そこには簡素なテーブルと、何脚かの椅子があるだけで、生活感は全くない。
「こんなところで悪いが、目立つわけには行かなかったのでな」
「それで、改めて聞くが、我らに何の用だ?」
「まあ、慌てるな。茶ぐらい出すからよ。そこで座って待っててくれ」
男は、アイテム袋から湯呑と急須を取り出す。男は手慣れたもので、魔道具を操作してお湯を沸かし、そこに茶葉を入れていく。そして、人数分のお茶を用意した。
「さあ、飲んでくれ。俺の地元で人気があるお茶だ。熱い方がうまいぞ」
男はそう言って自分の分のお茶を飲む。お茶を飲むまで話す気配が無かったので、マオ、エリザ、クロンもお茶に口を付ける。
「へぇ、渋めだけどおいしいわね」
「我はもう少し濃い方が……」
「私は、もっと熱い方が……」
好き嫌いの無いエリザ以外が文句を言うが、男はそれに答える事無く話し始めた。
「それで、話なんだが、お前たちに頼みがある」
「何かしら? 私達にお願いするって事は、重要な案件なのよね? こう見えても、さっきCランクになったのよ」
「ほぅ、Cランクか。意外だな。俺はもっとランクが高い様に思えたのだが、気にし過ぎたか?」
「どういう事かしら?」
「お前たちの動きを封じてから、連れて行くつもりだ。ランクはともかく、お前たちの実力だけは侮れないからな」
「……どういう事かしら?」
「え?」
男は、不思議そうに男を見るエリザを逆に不思議な目で見る。そして、クロンとマオにも同様に目を向ける。
「えっと、何か変わったことは無いか? ほら、体がしびれるとか……」
「特に感じないわよ」
「我も大丈夫だ」
「私も」
「そう言う効果のあるお茶なの? 珍しいわね。それとも、個人差があるのかしら? アレルギーとか?」
エリザが見当違いの事をいいつつ、お茶をさらに飲む。男は、その異常性を感じ冷や汗をかく。なぜなら、そのお茶には強力な麻痺毒が入れてあったからだ。渋みは、その毒の味だった。しかし、どう見てもこの3人は普通に飲んでいる。痺れる様子が全くないし、薬を飲んだ様子もない。普通に、効いていない様に見える。
ちなみに、エリザは神なので毒は効かない。マオの体は世界樹を素材にした人形なので毒は効かない。クロンはドラゴンなので、人間の毒は効かないのであった。
「……お前達、こっちに着かないか?」
「こっちって?」
男は、麻痺毒が効かないと見て、穏便に話を進める事にした。下手な事をして敵対したら、確実に殺されると思ったからだ。本当は、麻痺したら仲間の元へと連れて行くつもりだったのだが、その予定を変更せざるを得ない。
「俺は、魔族側に着いた冒険者だ。他の高ランク冒険者にも同様に声をかけてある。知ってるだろ? この街の高ランク冒険者が全員居なかったことを。俺達は、示し合わせて魔物が来る前に街を離れていたんだ。ずっと冒険者ギルドに入り浸っていたザジ以外はな」
「そう、あなたたちが……」
エリザは、面白いことになりそうだと、心の中で舌なめずりをした。




