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俺の原点

真道君サイドです。

☆☆☆


俺は俺自身と愛華が吹き飛ばされないように踏ん張る。

一体何が起こってやがる‼


俺は事情を知っていそうな魔導師Pに顔を向ける。


「おいっ、これは……………」


しかし、そこに魔導師Pの姿は無かった。

あいつどこ行きやがった。吹っ飛ばされたか?

いや、あいつに限ってそれは無いだろう。


緊急時なのにも関わらず一切混乱することなく対処する判断力。

他人に指示を出せる視野の広さ。

それに、愛華の悲鳴に気付き、位置を正確に把握してみせた身体機能。


恐らく奴は国が抱える上位の防人。

もしかしたら、その中でも最強の上位五人、護懐の一人かもしれない。


なんせ、俺の出自を知ってるのは親父の元同僚の護懐の人間か、国を運営しているお偉いさんしかいない筈だからな。


そんな奴がなんでって疑問に思ったこともあったが、恐らくはお目付け役みたいなものだろう。


俺がより良き防人になれるように……………。

それはそれとして緊急時くらいは手を貸せよとは思ってしまう。


人の命がかかってるっていうのに。


奴の姿勢には少し不満を持ってしまうが、今はそれどころではない。

とんでもない衝撃に襲われ、ついでに天井も壊されたことで先ほどまでは土煙が立っていたが、ようやくそれも晴れる。


そして、気づく。

今まで見てきた雑兵級の偽天使とは比べ物にならない程の偽天使が目の前にいることを。

恐らくは高さ五メートルはあるだろう。


そいつは現在、羽を繭のようにたたんでいる。

空から落ちてきたことを考えれば衝撃に備えて畳んでいたんだろう。


ついでに、分かっちゃいたが、奴に向かって瘴気が流れ込んでいる。

恐らくはギミックによってか、生徒によって倒された魔物の瘴気が流れ込んでいるんだろう。

ここは学生ホールの目の前だしな。



通常、魔物っていうのは倒した相手に取り付こうと瘴気を飛ばすが、ある条件下においてはそれが覆される。


その条件とは自分よりも上位の魔物が近くにいる時だ。

この時、倒された魔物は倒した相手ではなく、より強力な魔物に力を分け与えようと瘴気を流す。


この現象を位階上昇(ステージアップ)と呼ぶ。


アイツが倒さないで防御に専念しろって言っていたのはこのためか。


仮に俺と愛華が天使を倒していたら今とは比べ物にならない程強化されていたことだろう。


高速で接近する敵にいち早く気づくとはな。


本当にアイツが戦闘に参加してくれたらと思わずにはいられない。


いや、今は俺に出来ることをしよう。


「愛華ッ‼援護を頼めるか⁉」

「うんっ!でも気を付けて!あの魔物の魔力量、足軽大将級みたい」

「!そうか、わかった」


まさか、足軽大将級が出て来るとはな。せいぜい足軽小頭級だと思っていたんだが。

これは、気を引き締めなくちゃな。


俺がそう考えていると、横から雑兵級の偽天使が攻撃を仕掛けてくる。

とはいえ、もう雑兵級なんて怖くはない。

初めの頃は、受け流すか、≪マナシールド≫で防ぐ以外の方法だと無傷で且つ次の行動に支障をきたさないように立ち回ることは出来なかった。だけど今は、魔法弾を簡単に斬り捨てることが出来る。


それに、位階上昇(ステージアップ)出来ないように、雑兵級が倒れないギリギリを見極め、斬りつけることで相手の魔力を吸って大幅に肉体を強化することも出来る。


今の俺からすれば、雑兵級は脅威ではない。

それはきっと愛華もだろう。

愛華の防御壁は既に雑兵級では割ることも出来ない程に強化されている。


抵抗力上昇(レベルアップ)の恩恵と戦いの中で魔力操作などの技術が大幅に上がっているのだ。


とは言え、流石に足軽大将級はそう簡単ではないだろう。


俺がそう考えていると、足軽大将級が魔法で槍を生み出し、俺に向かって飛んでくる。


速いッ、が対応できな程じゃない。


むしろ……………。


「偽天使の魔力で肉体強化を施している俺の方が、今のお前よりも速い!」


そう、本来の速度なら、俺の方が防戦一方となっていた。

しかし、偽天使の魔力を吸って肉体強化を施しているため、今は俺の方が圧倒的に速い。


足軽大将級は俺の攻撃に防戦一方になる。

それを見ていた雑兵級は援護とばかりに魔法弾を撃ってくるが、愛華の防御魔法でそれは防がれる。


ナイスだ愛華‼


ただ、今は防戦一方になっているが、奴は雑兵級じゃない。他の魔法も使えるはずだ。


俺の読みは正しく、足軽大将級は俺から距離を離すと、左手を槍から離し、こちらに向けてくる。

そして、離した手から三メートルはある極太のレーザーを撃ってくる。


レーザーは愛華が俺の為に張ってくれた防御魔法を砕く、俺はそれと同時に自前の≪マナシールド≫を展開し、レーザーの範囲内から離れる。


しかし、愛華は避けていなかったようでレーザーが愛華の防御魔法に当たってしまう。

俺は一瞬息を呑むが、愛華の防御魔法はレーザーを弾き愛華を守っていた。


「凄いぞ、愛華!」

「ありがと、才。でも、今のでマジックチップを三つ消費しちゃってる。」


愛華は空になったマジックチップを交換しながらそう言う。

どうやら、いくら愛華と言えど今の攻撃はそう何度も防げないみたいだ。


なら…。


「≪スパークバインド≫」


俺は足軽大将級に≪スパークバインド≫を使い、動きを止める。

しかし、相手も只でやられるつもりは無いのか、雑兵級をけしかけ、俺が足軽大将級に攻撃を仕掛けるのを阻んでくる。


それを俺は、向かってくる雑兵級を倒さない程度に斬りつけ、逆に魔力を吸収し肉体強化に充てていく。


あまりにも、出てくる数が多かったため、手こずったが、それでも何とか目前まで辿り着く。


「これで、終わりだぁぁぁ」


俺は≪スパークバインド≫による拘束が解けていると踏み、再度≪スパークバインド≫を放ちながら、足軽大将級に斬りかかる。


〈ガキィィィィィン〉


しかし、それは、阻まれてしまった。

足軽大将級の周りを半透明な黄色の防御膜が覆っていたのだ。


恐らく、無属性の防御魔法≪ジェネリックシールド≫だろう。


魔法、物理、両方を防ぐことが出来る魔法だ。

因みに無属性魔法は個人の魔力色によって色が変わる。


足軽大将級は防御魔法を展開しながら槍で攻撃を仕掛けてくる。


防御魔法の利点の一つは自分を防御魔法で守りながら敵には攻撃が通る点だ。


勿論、中にはそうじゃないのもあるが………………。


しかし、こうなってくるとかなり時間を稼がれてしまう。

もう一度、あのレーザーを使ってこないと良いんだが…。


俺がそう思っていると、足軽大将級は槍で俺と打ち合いながら、魔法を発動する。

幸いレーザーの魔法ではなく、四発の攻撃光弾魔法のようだが……………。


それにしても、リキャストタイムが切れるのが早すぎる。

勿論、使用する魔法や実力によって、リキャストタイムの長さは変わってくるそうだが、雑兵級と足軽大将級の間にここまでの差があったとは。


俺はその攻撃を≪マナシールド≫で何とか防ぐ。

とは言え、節約しながら使ってはいたが、そろそろ≪マナシールド≫は空になる。

それに対し、相手はまだまだ、戦える。

どころか、槍と魔法壁で万全の備えだ。


恐らくは槍と魔法壁でリキャストタイムを凌ぎ、魔法で倒すというのが本来のこいつの戦闘スタイルなのだろう。


初めの方は舐められてたって訳だ。


クソっ、どうする。


俺が内心でそう焦っていると愛華に声を掛けられる。


「才ッ!受け取って。」


何だ?

俺はそう思い、飛んで来た何かを受け取る。


これは!

≪マナシールド≫のマジックチップ。


「良いのか!」

「うん、防御魔法科はマジックチップを多めに貰ってるから」


恩に着るぜ。


俺は愛華から貰った≪マナシールド≫と今まで使っていたものを交換すると、敢えて何時でも回避ができるように防御主体で戦っていたのを止め、反撃を開始する。


ただ、それでも、戦局は一向に動かない。奴の防御膜に罅を入れたと思ったら、直ぐに修復されるからだ。


しかも、現在は防御膜を二重に張っている。


出来るのなら初めからやればいいものを。


正直、まだ手札を隠していてもおかしくはない。だからこそ、早期決着をつけたい。

だけど、火力が足りない。俺のチップ構成は防御と拘束。

勿論、どちらも非常に役立ってくれたし、この構成じゃなかったらこんなに早くここまで辿り着けなかっただろう。


だが、今、今だけは火力が欲しい。攻撃魔法か、付与魔法のマジックチップが………。

≪スパークバインド≫を攻撃に転用できないか?


いや、無理だ。


拘束系の魔法が攻撃魔法に転用出来た話なんて聞いたことがない。


やっぱり、攻撃力を上げるマジックチップが必要だ。

現状を切り抜けるにはマジックチップが足りていない。


俺がそう考えていると、ふと昔のことを思い出した。


『ねぇ、何でお父さんはマジックチップが無いのに、魔法が使えるの?』

『ん、それはな。お父さんが戦人だからだよ。戦人は自由に魔法が使えるんだぞ。』

『戦人ってすげぇ‼』

『そうだろう、そうだろう。戦人は肉体、魔法どちらにも優れていて、その力でみんなを守るんだ』

『俺も、父ちゃんみたいな立派な戦人になるよ!』


そうだ、俺は戦人 真道正義(しんどうまさよし)の息子、真道才。


マジックチップが無くても魔法が使えて、すげぇパワーでみんな守る、正義の味方だ。


親父が死んでから忘れていた小さい頃からの夢を思い出す。


思い出すと同時に手がパチリと静電気を帯びる。

いや、これは、静電気なんかじゃない。俺の魔法だ。意識して魔力を流し、魔法を操作する。


奴はまだ気づいていない。恐らく、気づいたら何らかの対策を取ってくる。一発勝負だ。


俺がそう思っていると、奴は四発の攻撃光弾を生み出す。


ここだッ‼

俺は天高く跳びあがる


「愛華!防御魔法を足場にしたい。頼めるか」

「うん、任せて。」


俺の指示に従い愛華が防御魔法を足場のように設置してくれる。

これで終わりだ。


足場を使い奴に向かって急降下する。

仮に攻撃光弾を使ってきても、≪マナシールド≫で防いで見せる。


その考えが見透かされていたのか、それとも偶々なのか。

奴は四つの攻撃光弾を集約させる。


これは…………。


「魔法改変⁉」


愛華がそう叫ぶ。俺も同じ意見だ。


魔法改変。それは同系統の魔法でだけ可能な高等技術。一度発動した魔法を発動からそれ程時間が経っていない時に限り、別の魔法に変更する技術。


こんな技術まで持っていたなんて。

俺はもう、ここから回避行動を取ることは出来ない。

奴が使うのは十中八九レーザー。

防ぐ手立てはない。


だがっ!それが何だ。


正義の味方は最後まで諦めない。俺がそう覚悟を決めたとき。


「魔法結界四重展開っ‼」


俺に四重の魔法防御が施される。それを為したのは当然愛華だ。

ただし、そうなってくると、愛華は無防備になってしまう。


つまり、彼女はこの攻撃にかけてくれたのだ。俺の勝利に賭けてくれたのだ。

なら、尚更負けるわけにはいかない。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」


俺は雄たけびを上げながら、敵に突っ込む。レーザーは彼女の障壁が防いでくれている。


それでも、この至近距離だ。徐々にではあるが、罅が入り、割れていく。


それでも、最後の一枚、割れる前に、相手の防御膜に辿り着く。


なら、後は簡単だ‼


「エンチャントスパァァァァァァァァァァァァク‼」


俺はそう叫ぶと同時に奴の防御膜ごと、奴の体を真っ二つに両断する。

そして、着地と同時に俺に掛けられていた防御魔法の最後の一枚が役目を終えたかのように割れる。


〈ズドンッ〉


奴の両断された体が崩れ落ちた。

それと同時に俺と愛華の体を瘴気が包む。


力が溢れる。


それは愛華も同じだったのか、無防備になった愛華に迫っていた魔法弾をただの魔力波で防いでしまう。

何だあれ?


ともかく、愛華が無事でよかった。俺も身を挺して、庇おうと足に力を入れていたが、自分の力で対処できたみたいだ。



そうだ!

早く、みんなの所に行かないと、俺はそう思い、愛華の方を向くと愛華も同じ気持ちだったのか、深く頷く。


俺たちは学生ホールまで走る。とは言っても、もうそんなに距離は無い。というか目前だ。

俺は勢いよく、学生ホールの扉を開ける。

どうやら、学生は入れるようになっていたようだ。

よくよく考えれば、何かしらのギミックが発動してもおかしくなかったよな。


「みんな、無事か⁉」


俺は声を掛けながら周りを見渡す。

どうやら、まだ、誰も怪我はしていないようだ。


壁が半壊になっていたため、心配したが、無事なようで安心した。


俺がほっと息を吐くと学内放送が流れる。これは魔物の侵入を教えてくれたものだ。


〈オシラセシマス。学園二アラワレタ、マモノハ行方をクラマセマシタ。〉


その知らせに学生ホール全体が歓喜に包まれる。


魔物は基本的に転移系の移動手段を持たない。ただし、住処であるダンジョンへの帰還だけは別でこの場合のみ転移を行える。


つまり、今回の戦いは完全勝利に終わったのだ。


あっ、そう言えば、魔導師Pの奴、結局どこに行ったんだ?

俺は魔導師Pを探すためにその場を離れ、廊下に出る。

まあ、神出鬼没なアイツのことだ、見つからないかもしれないけど。


俺はそう思いながらも階段を降りようとしたその時、声を掛けられる。


「その様子。無事に勝ったみたいだな」

「ああ、まぁ……………。」


俺は魔導師Pの言葉に返答しようとし、絶句する。

余裕綽々と言った様子を崩すことがないこいつが満身創痍になっているのだ。


見ていて心配になるほどの……………。

何故、立てているのか、何故、話せているのか、何よりも何故こいつはこんなにもボロボロになっているのか。


その様子は生前の親父に似ていて胸の奥がざわざわする。

親父もそうだった。人のため人のため、自分を蔑ろにし、死んでいった。

こいつも、もしかしたら………………。


「な、何で、足軽大将級と戦ってないお前がそんなにボロボロになってるんだよ。」

「……………………」

「………いたのか?足軽大将級以上の強敵が」

「………………ああ。」

「…どんな奴なんだ?」

「……………………………偽鬼人と偽天使の複合だ。」

「なっ」


俺は言葉を失ってしまう。天使の特徴は魔法特化でスピードが速い。反対に鬼人は物理特化で魔法以外の能力が非常に高い。何よりその肉体は魔法を弾く。


つまり、偽天使と偽鬼人を組みあわせた魔物とはデメリットを打ち消し合った最強の魔物と言うことになる。

そもそも、二種族を複合した魔物なんて聞いたことも無かったが、こいつが言うのだから本当なんだろう。


そして、そんな強者相手にこいつはたった一人で挑んでいたんだ。

俺やこの学園を守るために………………。


「…もっと、もっと自分を大切にしろよ‼」

「……………してるさ、多少はな」


魔導師Pはそいう言うと俺に背中を向け、立ち去ろうとする。

しかし、その直前、何か思い出したのか、こちらを振り向く。


「そう言えば、言い忘れていた。お前、良い顔をするようになったじゃないか」


その言葉に一瞬虚を突かれるが、俺は自然と頬が緩むのを感じる。


「まあな」

「原点を、自分の根幹にある信念を思い出した男の顔だ。」


一目見ただけでそこまで分かるなんて、やっぱりこいつは只ものじゃない。


「初めのチップに≪スパークバインド≫を選んで良かったか?」

「ああ、あんたのいう様に大切なものを思い出せたんだ。俺の願いを」

「そうか、それは良かった。」


男はそう言うと今度こそ、立ち去ろうとする。

立ち去ろうとしたのだが、再度何かを思い出したのかこちらを向く。


「そう言えば、一つ言い忘れていた。俺のことは秘密でな」


男は口のあるであろう場所で人差し指を立て、そう言って去っていった。

まったく、あの男はどこまで先のことを見通していたのだか……………………。

親父に似た、自己犠牲の塊のような男、魔導士P。


また、どこかで会えるのだろうか?


☆☆☆


七百体もの魔物に襲われたこの事件は後に英雄の誕生と呼ばれるようになった。

当時学生の身分にも関わらず、真道才、温実愛華はその勇気と力でもって学園に現れた足軽大将級をたった二人で撃破。

これにより、偽天使たちは学園への攻撃を辞め、退却を余儀なくされた。


学園の校舎自体は大きく損壊したものの、生徒、職員はたった一人を除き死傷者は出なかった。


そのたった一人もお腹が痛いという理由で学生ホールに避難することなく、トイレにこもっていたそうだ。


また、この生徒も重傷ではあったものの、近くにいた回復魔法士の手によって直ぐに治療され、後遺症もなく、その後の学園生活を送ったという。




これが主人公(真)と主人公(偽)の違いです。

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