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この二人似たもの同士だなぁって思った瞬間………。

☆☆☆


ネット環境が麻痺しようが、護懐の一人が学校に押しかけてこようが、何日か経てば意外と気にならなくなるもので、最近はむしろ小毬さんと真道君が一緒に歩いている光景の方が日常と化している位だ。


だからだろう。


珍しく一人で雪白先生の花壇をぼんやりと眺めている小毬さんが何となく気にかかってしまった。


そして、つい声をかけてしまったんだ。


「どうしたんですか?こんな所で一人でいるなんて…」


小毬さんは面倒くさそうに且つ無気力にこちらを見上げる。

その瞳に見つめられた瞬間周りの温度が何度か下がったような錯覚に陥る。

絶対零度の瞳と言うのはこういうのを言うんだろう。

その態度に俺は一瞬、声をかけたことを誤魔化して、口笛でも吹きながら回れ右をしたくなったが、そこをグッと堪える。


「ああ、君か、えっと……………名前は…………確か…………音凪君。」

「いや、えっと、音長です。」


俺が控えめに訂正すると、小毬さんは一度空を見上げた後。「ああそうそう」と適当に相槌を打つ。



「それで、私に何の用?」

「ええっと、何をしているのかなって……。」

「何をねぇ………花を見ていた、かな?」

「そ、そうですか………」


その言葉を最後に俺たちの間に沈黙が流れる。

うん、正直辛い。

俺は「それでは失礼します。」とだけ言って踵を返そうとした。

したが、それよりも先に小毬さんが俺にある提案を持ちかけて来た。


「あ、そうだ。良かったら稽古つけてあげようか?」

「えっ?」


護懐ともあろう人が態々一介の生徒に稽古をつけてもいいという提案をしたことに俺の思考は一瞬止まる。


何か理由があるのだろうか?


「えっと、良いんですか?俺なんかに時間を割いてもらっても?」

「うん、いいよ~。これからも才君と仲良くして欲しいし……………………暇だったから。」


最後の方ボソッと何か呟いているようだったけど、なんていったか聞き取れなかった。

只、まあ真道君の友達と認識されていることが原因ではあるみたいだ。


実際の所はそんなに話すこともないんだけど…………。


なんか気不味いし断ろうかなぁ?


その思考が頭を過らなかったわけでは無い。ただ、その後直ぐに俺の頭に棚加君の顔が浮かぶ。

そして、自分の中の生きたいと思う部分が囁くのだ。


…折角奇跡のような確率で巡ってきたこのチャンスを不意にするのか?


力が無ければ生きてけないこの世界で?と。


俺は数秒の思考の末、結論を出す。


覚悟を決める。

真道君を利用しているような罪悪感を抱きながらも、仕方がないと自分に言い聞かせる。


「良ければ、稽古つけさせて頂けませんか?」


俺の発言を受けた小毬さんは気だるそうに立ち上がると俺の方に体を向ける。


「分かった。それじゃあ始めようか。」


こうして俺は小鞠さんに稽古をつけてもらうことになった。


☆☆☆


俺が小毬さんに稽古を頼んだ日から、小毬さんは自主訓練の時間や空いている時間に稽古をつけてくれるようになった。

日数にして週二日、時間は十時間ほど。


彼女が護懐の一人であるということを鑑みればこれ程親身に稽古をつけてくれる環境と言うのは防人にとって破格と言っていいだろう。

何故、自分に付き合ってくれるのか、いくら何でも親切過ぎないか?とも思ったが、どうやら、真道君がダンジョンに行っている間、時間が出来てしまうらしい。


ただ、ダンジョンにもついて行っているという噂を小耳に挟んでいたのが少し引っかかり本人にそのことを聞いて見たのだが、理由に関しては濁されてしまった。


向こうにも込み入った事情があるのだろう。


ともあれ、俺は小毬さんの下、稽古を積んでいた。

その成果は目に見えるほど、と言うことは無いものの、魔力制御に関しては多少マシになったと思う。


本人自身は天才肌のようだが、教え方が異様に上手い。

彼女に戦い方を教えた人の影響だろうか?


俺は小毬さんが来るまでの待ち時間にそのようなことを考えていた。


「お待たせ~。まった~?」


急な声に体が強張る。

ただ声の主には非常に身に覚えがあった。

そのため俺は自然体で背後を振り返る。


「いえ待ってませんよ。こんにちは小毬さん。」


俺はそう言いながら立ち上がる。

そして、訓練場の真ん中に移動すると魔剣を構える。

それに応じるように向こうも魔剣を構えた。


小毬さんの指導は基本的に模擬戦だ。

これは小毬さんの指導方針が戦いの中でこそ戦闘技術は磨かれるというものだったからだ。

どうやら、本人もダンジョンに潜ることで力を付けて行ったらしい。


見た目は若いが彼女はれっきとした歴戦の猛者なのだろう。


そんな彼女は現在、魔剣を構えたまま微動だにしない。

こちらの動きを待っているのだろう。


そのため、俺は彼女に師事するようになってから密かに練習を続け、この前ようやく形になったある技を使うことにした。


「≪エンチャントウォーター≫!」


そう言うと俺は、魔剣の周りを超高速で回る水の刃を小毬さんに振るう。

俗にいうウォーターカッターと言う奴だ。

まぁ、武器自体が刃物であるため、この魔法の用途は非常に少ない。

相手が炎で体を覆っている場合や大型であれば射程を伸ばす意味合いなどで使うこともあるだろうが、そうでもなければ≪シャープネス≫を使った方がよっぽどいい。


属性ダメージなんて概念もないし……。

だが俺もファッションでこの魔法を選んだわけでは無い。

俺が振るう魔剣を小毬さんは難なく受けるが、その瞬間俺は≪エンチャントウォーター≫に手を加え、小さな水の斬撃を鍔迫り合いの状態から飛ばす。


完全な不意打ち、鍔迫り合いで油断している隙を狙う一撃、しかし、小毬さんは俺の攻撃を読んでいたのか危なげなく避けた。


しかし、その時、水の飛沫が少し唇周りに飛んだようでびっくりした声を出す。


「しょっぱ‼」


そう、なんとこの水は塩水なのだ。


魔法を少し弄ることで俺は≪エンチャントウォーター≫で塩水の再現と、纏う水の一部を分離させ、小さな水の刃を飛ばせるようになったのだ。


俺の成長に小毬さんはびっくりしているのか目を白黒させる。


「えっ?しょっぱい?塩水、これ」

「はい、塩水です。傷口に塩を塗るってことわざから、塩水での攻撃の方がダメージを追うんじゃないかと思って‼」


俺がそこまで言うと小毬さんは合点が言ったという顔をする。

そして、顎に手を当てて考え始める。


正直、そんな急に考え込まれると不安になるんだけど……。


「多分、それをするにはもう少し塩分濃度を上げる必要があるんじゃないかな?」


塩分濃度?

塩分濃度が何か関係あるのだろうか?


俺は小毬さんに直接問いかける。


「塩分濃度ですか?」

「うん、傷口に塩を塗ると痛いっていうのは…そうだなぁ、まぁ、簡単に言うと体の中にある塩の濃さと外から入って来た塩の濃さの違いによるものなんだよ。」


小毬さんはそこまで言うと詳しく説明すると長くなるんだけど、と補足する。

まぁ、詳しい原理はどうでもいいか。

敵に対し効果的かどうかっていうのが重要だしな。


「でも、魔法に手を加えられるようになったんだね。もしかして他の魔法でも同じように手を加えられるようになってたりする?」

「えっと、一応、≪マナシールド≫の形を変えられるようになりました」

「そっか、凄いね!≪マナシールド≫は魔法を防御できるから、手を加えられるに越したことは無いからね」


その言葉に俺も強く同意する。

元々、小毬さんに稽古をつけてもらうようになり、自分の≪マナシールド≫の脆さに気づいたからこそ身に着けた技能だ。

それを本人に認めて貰えたのは正直自信に繋がった。


この調子で頑張っていこう。


取り敢えずは信濃さんの拘束魔法を逸らせるようになろう。

俺は新たな目標を立て、再度、小毬さんとの稽古に臨むのだった。



☆☆☆


つい先日捨て犬を保護施設から引き取った雪白狂実は鼻歌を歌いながら飼い犬となったイリアのブラッシングをしていた。


因みに現在は勤務中であるが、特に気にすることなく屋上でブラッシングをしている。

彼女にとって仕事とは催事に過ぎないのか、はたまた生き物のケアということで殊更に気を使っているのか、それは本人にしか分からないことである。


ともかく、彼女は現在飼い犬のブラッシングをしていた。

ブラッシングをしながらも訓練場で音長に稽古をつけている小毬に意識の一部を向けていた。


「こうやって距離を離すことで少しずつでも~真道君との仲が近づいて居て行けばいいんですけどね~。」


間延びした声でありながらもその声には確かに真道才と弧毬信濃のこれからを案じているのが分かる。


その心配そうな声に反応したのか真っ白いドーベルマンのイリアは雪白狂実の顔をぺろぺろと舐める。

雪白狂実はそれをくすぐったそうにしながらも受け入れ、思考は真道才と弧毬信濃の二人へと向けていた。


(信濃ちゃんは~勇利さんがいなくなってから一人で頑張って来たから人の話を聞かずに強引に物事を進めちゃう悪癖があるのですよね~。


真道君は~なまじこの前のウェアウルフの騒動を自力で解決したことで~すこ~し自信過剰になってしまっているようにも感じますね~。

いえ、それだけではなく、元々彼も父親が突然いなくなって、その上、やたらとアクシデントに巻き込まれることで、何でも自分で解決できるようにならなくちゃっていう焦りが生まれているのもあるのかもしれませんね~。

子供らしい慢心と言ってしまえばそれまでですが~。


まあ………………………)


そこまで考えて雪白狂実は音長盆多に視線を向ける。


彼を一言で表すならば秀才。

決して天才の域には到達できないものの、自分の才覚を理解し、努力を続け、自らの実力と相手の力量を図り、有効な戦術を立てていく、小器用な生徒。


ハッキリと言ってしまえば、天才の域に達することは出来ないが、それでも自らを冷静に見つめることが出来る能力はきっと彼女たちの成長に一役買ってくれるだろうと、雪白狂実は考えていた。


天才であるからこそ誰かを素直に頼れなくなっている二人には彼のような平凡な人間こそが必要になっているのだろう。


「イリアもそう思いますよね~」

「ワンっ‼」


雪白狂実の言葉を理解しているのかいないのか、新しく家族となった一頭の犬は只々行儀よくお座りをしながら高らかに吠えるのだった。


☆☆☆

昼食を食べに毒ノ森君と校舎の中にある学生食堂に行くと、小毬さんと真道君、それと真道パーティーの女の子たちとすれ違う。


「あれ?音長君。音長君もご飯?」

「ええ、はい、小毬さんたちも?」

「うん、そうだよ」

「そうですか、それでは自分たちは」

「じゃあね~」

「あっ、毒ノ森君、音長君またね‼」


小毬さんと、癒希さんが話しかけてくれた。

他の人たちもそれぞれ会釈などをしていってくれた。


小毬さんが稽古をつけてくれるようになってから暫くが経ちこのように稽古外などでもすれ違った際などは挨拶をしてくれるようになった。


まったく興味を持たれていなかったときと比べれば雲泥の差だろう。


俺としても良く分からないお姉さんから、師匠と呼びたくなるくらいには尊敬できる人になった。

正直、打算抜きで真道君と仲良くなって欲しいと祈っている。

やっぱり、親切にしてくれる人には幸せになって欲しいよね。


そんなこんなあり、ちょっとずつ俺の生活には変化が起こっていた。

なんなら、今度毒ノ森君たちも一緒に稽古に参加していいか聞こうと思っているほどだ。


勿論、毒ノ森君もやる気があればって話ではあるけど……。


そう考えながら日替わり定食を頼んでいると、食堂の中がにわかに騒がしくなる。

この感じは以前にも体験したことがあった。


確か、男子寮の食堂に初めて小毬さんが現れたときのことだ。

あの時も、こんな風に辺りが騒がしくなっていた。


俺がそう考えていると、学園長と防人本部の戦闘服を身に纏う男が真道君たちの前に現れた。

そして、小毬さんに耳打ちをするとそのまま小毬さんを連れて行ってしまう。

どうやら護懐である小毬さんに用事があり、ここに現れたらしい。


まあ、護懐ともなると色々と忙しくなるのだろう。


俺はそう考えながら、毒ノ森君と席に着くと、そのまま食事を続ける。

世の中には気にしても仕方がないことがあるからね。

今回もそう言う類だろう。


☆☆☆

雪白狂実の畑と飼い犬の世話をしていると時間はあっという間に過ぎ、お昼の時間になっていた。

弧毬信濃は直ぐに真道才の教室へと向かうと真道才と合流し、食堂に向かう。

しかし、いざ食事をしようと思った所で真理の直属の部下と学園長がが現れ、あれよあれよと弧毬信濃は二人に捕まって学園長室へと連れていかれてしまった。


「……それで、何の用?私お腹ペコペコなんだけど?」

「す、すいません。実は【真理】様から言伝を預かっておりまして」


そう言うと男は懐から封筒を取り出し、小毬に渡す。

小毬はそれを受け取りつつも、態々封筒などと言う古風な方法を取ってきたことに怪訝な表情を浮かべる。

また、何故端末からではなく、部下をよこして来たのかという点に関しても疑問が生じる。


「…あなたって、本当に【真理】の部下なんだよね?」

「そ、それは勿論!この通り、防人手帳もあります。」


小毬に疑われた男は急いで防人手帳を小毬に見せる。

そこには確かに、【真理】の直属の部下である記載されていた。

また、防人手帳特有の魔力の流れから、偽物という可能性も少ない。


そこまで確認した小毬は一端男を信じることに決めた。


「…でも、何で態々部下を寄こしたのかなぁ?端末で連絡くれればよかったのに……」


端末を懐から取り出しながら、【真理】に直接電話をかけようとした小毬は自らの端末の画面が砂嵐のようになり使い物にならないことに気づく。


「えっ?あれ、なにこれ、端末壊れちゃったんだけど⁉」

「…弧毬信濃言っておくが、十日ほど前から電子機器は全て使い物にならなくなっていたぞ」


学園長は弧毬信濃のその様子に呆れ交じりに答える。

最近の子供はタブレットやスマートフォンへの依存が社会問題となっているが、これはこれで如何なものかと考えてしまう。


小毬は学園長のその態度に対して気にした様子はなく、使い物にならなくなった端末をポケットにしまい、仕方なく封筒を開ける。


中には手紙が入っていたようで、それをじっくりと読んでいく。


当然ではあるが、中身に関しては直属の部下もましてや学園長も知らないため、どのような内容なのか気になり、弧毬信濃の反応を注視してしまう。


勿論、注視した所で内容が分かるわけでは無いが…。


「なるほど、何となくわかったよ~。【真理】の所に行ってくるね~。」

「【真理】様は何と?」

「任務の依頼だって~。」


そこまで言うと、小毬は部屋を出て行ってしまう。

【真理】の部下の男はそれを急いで追っていく。


しかし、外に出た所で高速で【真理】の下に向かった小毬に置いて行かれてしまった。



小毬信信濃の固有魔力波と肉体強化を併用すれば非常に短時間で長距離移動が可能になる。


そのため真理が普段勤めている防人本部に関しても数秒で辿り着いた。


防人本部に辿り着いた小毬は【真理】に与えられている執務室のドアを思いっきり開ける。


「おはよ~【真理】。来たよ~」

「早いわね。敵のアジトは突き止めたわ」

「お~、そっちも早いね。それで他の人たちは?」

「虚心には他の仕事を任せてる。それ以外の奴らは何か理由があるのか、それとも防人本部に来るのが面倒なのか…………一度も顔を出してないわ」

「成程ね~。了解。それじゃあ、私が受け持つよ。殲滅でいいね?」

「ええ、その場にいる魔物やそれに属するものは全て倒しなさい。」


小毬はその言葉を聞くと、敵の拠点が記された地図を受け取り、部屋を出る。

その様子はそれこそ、近所に買い物に行くかのような気軽さだった。



☆☆☆


信濃さんが学園長とかなりの実力を持つであろう男性に連れていかれて暫くが経った。

恐らく、仕事の話なのだろうが、俺は何となく落ち着かなかった。

親父も仕事から帰ってこなかったし、それが影響しているのだろうか?

俺の中で信濃さんの存在がそれだけ大きくなっているというのか?


「才?あんたどうしたの、さっきからソワソワして」


千弦は眉を顰めながら、俺に問いかけてくる。


「あ、ああ、すまない。ただ、信濃さんのことが気になって……」

「まあ、小毬さんにも色々事情があるのでしょう。」


カルミアは俺の心配を解きほぐそうと優しい笑みを浮かべながら、諭してくれた。


「そうだな……そう信じよう」


心配しても仕方がない。

信濃さんを信じて待とう。


俺はそう決意を固める。


「どうしたの?誰を待つの?」


俺が決意を固めた所で信濃さんが不思議そうに問いかけてくる。

そう、信濃さんが…………。



「あれっ?信濃さん⁉」

「そうだけど、どうしたの?」


いや、どうしたって、さっき学園長とかに連れていかれたばっかりだけど…………もう話は終わったのだろうか?


俺はその旨を信濃さんに問う。

すると信濃さんは


「うん、終わったよ。それでこれから任務に向かうからその前に挨拶に来たの。」


あっけらかんとそう言ってのける。


任務、やはり命懸けなのだろうか…………。

それにしては随分と軽い様子ではあるが、俺達だってダンジョンに潜る際はもっと気を引き締めているし、流石に戦闘以外の仕事だろうか?


「どんな任務か、差し障りのない範囲で教えて貰ってもいいでしょうか?」

「え?普通に敵を倒しにだよ。」


戦闘。

普通に、と言うことはダンジョンの間引きと言う可能性もあるが、このタイミングということはもっと面倒な案件なのだろうか?

それこそ、俺が首を突っ込めない程に重大な…………。


それでも、俺は


「…………あ、あの、それってついて行く事って出来ますか?俺結構強いと思いますし、お役に立って見せます。」

「はぁ⁉才あんた急に何言ってるの?」


俺の言葉に初めに反応したのは千弦だった。

千弦は俺の発言に目を大きく開き、信じられないものを見るかのように驚く。


それも、その筈で彼女たちには信濃さんが護懐だということを明かしている。

というか、一緒にダンジョンに潜っている内にその実力に薄々勘づいた彼女たちにばれてしまったのだ。


そして、相手が格上の護懐であれば俺の言っていることがどれだけ無茶苦茶であるかというのも分かるだろう。


ただ、俺が頼み込んだ相手である信濃さんは何も言わずに俺の目をジッと見る。

まるで俺の覚悟を確かめるように。

だからこそ、俺も信濃さんを見返す。

生半可な気持ちで言っているわけでは無いと伝えるために。


それから、どのくらい経っただろうか?

根負けしたのは信濃さんの方だった。


「はぁ、仕方ないか…………。良いよ連れて行ってあげる。

何てったって私は強いからね。」

「だったら私たちも行くわ!」


信濃さんの決定に千弦はそう言う。

他のパーティーメンバー達もその意思は同じなのか、コクリと千弦の言葉に頷く。

しかし、彼女たちの目を俺のとき同様ジッと見つめた信濃さんは首を横に振るう。


「ごめんね。君たちは連れていけない。流石に四人は守れないから」

「すまない。皆は待っていてくれ」


どうやら、彼女たちを連れて行ってはくれないらしい。

俺としてもそちらの方が安心できるから、彼女たちには悪いが、良かったと思っている。

それと先ほどの言動からどうやら、信濃さんが許可を出してくれたのは俺を信用しての言葉ではなかったらしい。

俺一人なら守れる自信があるからこそ、俺がついて行くのを許可してくれたのだろう。


それでも今は共に行けるだけでいい。

ついて行って、絶対に信濃さんの助けになって見せる。


「じゃあ、後は音長君にも挨拶しておこうかな」


そう言うと、信濃さんは音長の座っている席へと向かう。

音長と信濃さんはそこまで深い仲だったか?と一瞬考えたが、そう言えば、現在音長に稽古をつけているという話をこの前信濃さんから聞いた気がする。


一応、教え子だから伝えて置くということか…………。


俺は一人で納得し、信濃さんの後をついて行く。


☆☆☆


毒ノ森君とご飯を食べていると小毬さんと真道君と真道ハーレム達が俺の方に向かってくる。


どうしたんだろう?


俺は、俺の席まで来た小毬さんたちに会釈する。


「どうかしましたか?」

「実はちょっと伝えて起きたいことがあって」


小毬さんはそう言うと、学園長とかに呼び出された理由について教えてくれた。

何でも、任務で学校を離れなくちゃいけないらしい。


まぁ、そりゃ、そもそも学生でもないし、職員でもないし、仕事の際は学校を離れるよね。

というか、むしろ何でこの人ずっと学園にいるの?

俺はそんな疑問を頭の奥へとしまい、小毬さんに会釈する。


「そうですか、分かりました。お気をつけて」

「うん、それじゃあ、暫く離れるから」


小毬さんはそれだけ言うと手を挙げて離れようとする。

しかし、そこで待ったをかける男がいた。

そう、俺らの主人公こと真道才である。


「…音長、俺は小毬さんについて行くつもりだ。お前はどうする?」


そんなの決まっている。


絶対に行かない、だ!


自分の命は惜しいしね。

ただ、自分の命が惜しいので行きませんっていうのは、その、流石にこの覚悟ガンギマリ集団の中でいう勇気はない。


それでも命を預けるっていうのは簡単じゃない。

誰にでも預けられるわけじゃない。

どれだけ実力があっても………。


だから断らせてもらおう。

ちょっと、カッコつけながら…。


「悪いな、仲間と共に逝きたいんだ。」

「仲間と共に行きたい⁉」

「えっ?うん」

「音長君そこまで…………」


真道君が目を大きく

え、ちょっ、何々?

何か勘違いされてない?


嫌な予感がする。


「でも、音長君、命の危険があるんだよ?死んじゃうかもしれないんだよ?」


小毬さんは俺の目をジッと見つめてくる。

まるで真意を確かめるように………。

だから、俺も伝われと思い見つめ返す。


「………そ、そっか、そんなに私達のことを大切に思ってくれてたんだね。」


小毬さんは恥ずかしそうに顔を赤らめ、手で顔を仰ぐ。

少しでも、顔の熱を冷まそうとしているのが、直ぐにでも分かった。


…………どうしよう、何か余計にややこしくなっている気がする。

どうにか、誤解を解こう。

とはいえ、こんなに喜んでいるのを見ると、貴方は仲間じゃないですって言えないよなぁ。

い、いやいや、命が懸ってるし、言うしかない。


「あ、あの仲間って言ったのは「音長ぁぁぁぁ‼一緒に信濃さんを助けよう‼」


俺の言葉を遮り、熱い抱擁をしてくる。

普通に熱いし、離れて欲しい……。

しかも、周りからの視線があって、完全に引き下がれなくなってる。


まぁ、それでも命には代えられないけど………。


「うん、熱くなっている所わ「だったら、僕も連れて行ってください」


俺が断ろうと口を開くと、隣に座っていた毒ノ森君が立ちあがる。

しかも、あろうことか、俺と一緒に行きたいとか言っている。

いや、俺は行きたくないんだけど?


「本気なの?」

「はい」


小毬さんは毒ノ森君に短く、そう問いかける。

それに毒ノ森君は静かに頷く。


それを見た小毬さんは一度頷く。


「良いよ。君も連れて行こう」


………………………………どうしよう、後戻りが出来なくなった。


☆☆☆


音長と言う男を俺はどうやら勘違いしていたらしい。

元々、音長と言う男はそこまで目立つ生徒ではない。

成績は確か…………そこそこ良かった気もするが、それでも俺や麗には及ばない。


クラスで目立つタイプでもない。

はっきり言って名前は覚えていても、興味は差してなかった。


だけど今日、俺が試すように「…音長、俺は小毬さんについて行くつもりだ。お前はどうする?」といった時の顔と言葉を俺は忘れられそうにない。


「仲間と共に行きたいんだ」


そう言った奴の目は信濃さんをジッと見つめていた。

まるで、信濃さんが仲間と思っていなくても俺は仲間だと思っていると言いたげに、絶対に揺るがない、譲らない強い意志が宿っていた。


それでいて、絶対に死んでたまるかという気持ちも抱いていたように見える。


つまり、奴は言外に「俺も一緒に連れていけ、皆で生きて帰るぞ」

そう言っていたのだ。

護懐が呼び出されるような異次元の戦場に、ついて行くと言ったのだ。

防人でも特別防人でもない生徒が、だ。


更に、音長のパーティーメンバーである毒ノ森も同等の覚悟をもってついて来ると言った。


正直、信濃さんと音長が仲良さげに話しているのにモヤモヤして出た言葉だったのだが、予想以上に奴は強い心の持ち主のようだ。

信頼に足る人間だと思えた。


それでも、この心のモヤモヤは無くならないが……。



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