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えっ?ここはどこ?わたしはだあれ?

むにゃむにゃ。


むにゃむにゃむにゃ。


「起きなさ~い」


まって、まだ眠い。


もうちょっと、後五分間だけ…………



「ぼんちゃん。起きなさい。ぼんちゃん」


誰がぼんじゃ、ワイにはママンがくれた、くれた…………なんて名前だっけ?


ヤバい自分の名前全然思い出せんわ。

マジ、なんて名前だったっけ?


「ぼんちゃん、起きなさい。ぼんちゃん」


え~い、ぼんちゃん、ぼんちゃんうるさ~い。

ワイは地獄の業火のような怒りをぱうぁーに変え、思いっきり布団から起き上がる。


そこには腰に手を当てて般若のように眉を釣り上げるおばちゃんが立っていた。






いや、誰だよあんた。






ま、よ~分からんおばちゃんおって、ここがどこかも分からんが、別にいっか。

つ~か、腹減ったわ。


「おばちゃ~ん。腹減った~。」


「まあ、昔はおばちゃんなんて言う子じゃ無かったのに。

うぅぅぅ。

何時からこんな子になってしまったの?」

「?良くわかんのだけど。

飯くれるの。くれないのどっちなの?」

「うぅぅぅ。下に用意してあるから、早く食べてらっしゃい」



うわ~い、やった~、飯だ~。


それにしても何だか頭がふわふわするなぁ。

夢か?夢か。


じゃなきゃおかしいもんな。

知らん場所にいて、知らんおばちゃんが飯くれるなんて。


それよりも、飯、飯。

トンタッタトンタッ階段を華麗に下りてゆく~。


お、あったあった飯だぁ。


「いっただっきまーす。」



うまいうまい。

んんん。飯に夢中で気付かなかったが、何だ、テレビがついているぞ。


俺はテレビをジッと見る。


魔法、魔物、ファンタジーな感じなのか?


「もう、もう少し落ち着きを持ったらどうなの?

ぼんちゃんももう高校生なんだから」


おばちゃんはそう言いながら、鞄を制服を持ってくる。

制服の裏地には名前が刺繡されていた。


音長盆多(おとながぼんた)


音長盆多その名前を俺は知っている。


ちらりとテレビを見る。

そこには手のひらサイズの十字型の金属に関するCMが流れている。

俺はあれを知っている。

極めつけは、制服の胸ポケットに入っている学生証に書かれた

国立防人魔法学校。


急速に頭がクリアになっていくのを感じる。


「ぼんちゃん。ささ、着てみて、着てみて。」

「あ、ああ、分かったよ。(かあ)さん」


俺はそれを母親であるだろう人から受け取ると同時とある結論を出す。

ここ、俺が書いた小説の世界だわ。


☆☆☆


俺が昔に書いた小説。

タイトルは「ゲーム知識で無双できるかと思ったけど無理でした」

奇をてらってみようとした結果、エタッて書くのを辞めた小説だ。


内容としてはタイトル通り、ゲーム世界への転生であり、主人公はそのゲームのモブに転生する。


名前は音長盆多(おとながぼんた)


(おと)(ぼん)という意味を含ませた普通の名前。


ゲーム世界に転生を果たしたと知った主人公は何とか自分の力と知識で成り上がろうとするも、現実とゲームの違い、そして、主人公とは環境や境遇が違い全然上手くいかない。

しかしそれでも諦めることなく頑張るという話だ。


まあ、言ってしまえば、従来のゲーム転生小説の逆張りものだ。


制服に袖を通しながら、俺は思いっきり息を吐く。


「くっそ。こんなことなら、バリバリの成り上がり小説にすれば良かった。

安全かつ、確実に強くなれる方法とか設定すればよかった」


自分で作っておいてなんだがこの小説の世界観は結構シビアだ。

命を懸けることにはなるが、飛躍的なパワーアップを期待できる隠しステージ何てないし、危険を冒せば、有用なアイテムをゲットできる、なんてことは無い。


命を懸けて得られるものは「戦いが無いって幸せなことだったんだ……。」という実感だけである。


ぱうぁーあっぷ~?地道に努力しろ。

あいてむ~?店で買え。


基本的にこの二つで成り立っている世界でどうやって生きて行けばいいんだろうか?


ただ、今は出来ることをやらないと……。


俺は取り敢えず、この思考を脇に置き、母さん(仮)に制服姿を見せた。


母さん(仮)は涙を流しながら喜んでくれた。

その涙に俺は海よりも広い罪悪感を刺激され、少し気まずくなった。


☆☆☆


俺はその後、飯を食べたり、歯磨きを終え、学校に向かった。

学校に向かいながらも俺の懸念は更に増えていた。

一つはここが夢か現実か、という問題だ。

夢ならばいい。

せいぜい起きるまでこの世界を楽しませてもらうだけだ。

問題は現実の場合だ。


この小説がエタって書くのを辞めたという話を先ほどしたが、それはつまり、話の内容を最後まで知らないということでもある。


そう、俺にもこれから何が起こるのか皆目見当もつかない。


勿論、設定というのはある程度決めている。

例えば、この世界は全部で六つの世界、天界、人間界、戦人界、獣人界、小人界、鬼人界に分けられている。

そして、この六つの世界は余り()()()()()()()()()独自の発展をしていたのだが、ある時に魔物と言われる別の世界の人間に瓜二つの容姿の怪物が姿を現したのだ。


天界では人間、戦人、獣人、小人、鬼人。

人間界では天使、戦人、獣人、小人、鬼人。

戦人界では天使、人間、獣人、小人、鬼人。

小人界では天使、人間、戦人、獣人、鬼人。

鬼人界では天使、人間、戦人、獣人、小人。


という風に、ただ、魔物には通常の生物とは違う特徴がある。

それは体をどす黒い瘴気のようなものが覆っており、決して喋らず、食事や睡眠を必要とせず、何らかの方法で同族と意思疎通を図るのだ。

しかも、とても賢く、罠に嵌められて殺される防人が後を絶たない。


そのため、魔法適性のあるものは若いうちから親元から離れ、訓練を積むのだ。

国の命令であるため、親は泣く泣く子を見送るしかない。

母さん(仮)のように…………。


因みに魔法と言っても何もない所から炎とか雷とか出せる訳では無い。

勿論、天使、戦人、小人なら出来るだろうが、人には無理だ。

そのため、人間の場合はマジックチップという十字型の金属を使って魔法を扱う。

扱うと言ってもこのマジックチップには既に魔法が込めてあり、担い手はマジックチップを起動する魔力と解放された魔法を制御出来るだけの魔法制御能力があればいいのだ。


そんなことを考えながら、歩いていると丁度駅が見えてきた。

というか、歩きながら町を見ていて思ったが、夢にしてはリアルすぎる。

駅に関しても、ファンタジーと現代が混ざり合ってなんかいい感じだし…………。


夢なら良かったが全然そんな感じはしない。


俺はそう思いながらも、交通系ICカードを出し、駅の中に入る。

その後は特に語ることもなく電車に乗った。

電車の中には俺と同じ制服の人間がちらほらといる。

泣く泣く親元から離れて行った子供達だ。

可愛そうに…………まあ、大元の原因はこの小説を書いた俺にあるのかもしれないが…………。

そこは、まあ、許して欲しい。

俺も今は君たちと同じ境遇な訳だしさ。


電車に揺られていると、どんどんと俺と同じ制服の子供たちが増えてくる。


というか、よくよく考えれば、防人魔法学校の服装って初めて見るわ。

俺、趣味で小説は書いてたけど、絵は描けなかったし。

何か………そう考えれば途端に感慨深くなるな。


そう思いながら、制服姿の学生達をジッと観察していると電車の中にいた生徒たちが続々と電車を降りていく。


そっか、ここが防人魔法学校の最寄りの駅になるのか、初めて知ったわ。


割とここら辺適当に書いてたからなぁ。


俺はそう思いながら、他の生徒たちに続く。

ここら辺に関しては特に何のイベントもないって知ってるから気楽だわぁ。


課題をすべて終えた休日くらい気楽だわ。

俺がそう思いながら歩いていると、後ろから歩いてきた生徒と肩がぶつかる。


「おっと」

「あっ、わり」


ぶつかった生徒は赤髪、青目で耳にピアスをしていた。

………恐らくは、ゲームの方の主人公、という設定の真道才(しんどうさい)君だろう。


そっか、イベントとかなくても普通にすれ違ったりはするよね。

だって、同じ学校の生徒だもん。


因みに学校だけでなく学科も同じだったりする。

俺らの学科は魔法剣士科。

その名の通り剣と魔法で戦うクラスだ。


☆☆☆


学校についてからは、校舎の綺麗さや、敷地の広さに感動し、学園長たちの話を話半分委聞き、そして、現在俺たちは教室でホームルームを行っていた。


「はい、次、音長君。自己紹介どうぞ」

「音長盆多。好きなものはアニメや漫画です。これから三年間よろしくお願いします。」


決まった。

いや、普通に無難な挨拶だけど、これでいいのだ。

無難に挨拶しておけば無難に友達が出来るから。

まあ、その友達が明日も生きているかは分からないんだけど。


そんなことを考えながらも周りを見渡す。

このクラスのメインキャラは二人。

一人はさっきも挙げた、ゲームの主人公という設定の真道才。

もう一人はメインヒロイン、という設定の剣凪麗(けんなぎれい)


彼らはそれぞれ、


「俺の名前は真道才。

取り敢えず、大切な奴らを守れる防人になるのが目標だ。よろしくな」


「剣凪麗。最強の防人になるためにここで学べるものを学んでいくつもりです。よろしく」


と、まあ、中々に強キャラ感のある挨拶をしていた。

そんなんじゃ、友達が寄り付かないぞ!

と言いたいところだが、二人とも見目が良いからきっと友達には困らないんだろう。

良いな。

ワイもイケメン設定にしておけばよかった。


因みに、他のヒロイン、という設定の少女たちはそれぞれ、攻撃魔法科に一人、防御魔法科に一人、回復魔法科に一人ずつ、後一応他の世界に一人ずついる設定だ。


まあ、他の世界のヒロインたちは設定だけしかないから名前も容姿も知らないんだけど。


あっ、話は変わるけど、この三つの魔法学科は魔法剣士科と違い、専用のワンドというものを使って戦う。

このワンドは現状三つまでしかチップを入れられない剣と違い、九つまでチップを入れることが可能で、更に得意系統の魔法の強化率は剣を上回るのだ。


勿論、剣にも利点はある。

例えば、直接攻撃を仕掛けた際に相手の魔力を吸収する機能があり、これを利用し、初めから内蔵されている強化魔法のマジックチップを半永久的に使えるという点だ。


これにより、魔法剣士は魔物との白兵戦を可能とし、魔物たちから注意を引きながら戦うことが出来ている。


まあ、それでも死亡率は一番高い訳だけど。



「それでは、今日はここまでとする。魔剣の授与は後日行うのでお前たちもそれまでに戦う覚悟を決めておけ‼」



とのことで、ぼぉっと考え事してたらいつの間にかホームルーム終わったわ。


俺は学生鞄を手に持ちながら、他の生徒の後をついて行く。

いやぁ、自分の書いた小説の寮がどんな形をしているのかとかめっちゃ気になるわ~。


ドキドキワクワク。






「おぉぉ」



悪くない。悪くないぞ。


いや、むしろ良い。

想像とは違うけど。


俺の想像だと寮自体は結構クラシックな感じを意識していた。

何て言うか雅な寮?イタリアとかでヨーロッパ圏でありそうな感じ。

だけど、実際にはモダンな感じで現代風、もしくは近代に片足突っ込んでます感があった。うむ、作者的には少し思う所がないでもないがこれはこれで大変結構。


俺は皆についていき、自分のネームプレートがついている部屋に入る。

どうやら寮は一人部屋らしく、他の生徒の名前は載っていなかった。


こ、高校で一人部屋って本当に良いんですか?


と、思わなくもないが、魔法適性を持つ人間がそもそも少ないうえ、訓練途中にもバンバン人が減っていくから部屋自体は結構開いているのかもしれない。


こちとら命かけてるしね。

このくらいは好待遇でも許されるだろう。


俺は荷物を置いた後、ベットに座る。


いや、この後どうしようと思って。


普通に学生生活をしていたら、全然死ねるくらいにはシビアだ。

というか、一番初めのイベントでうっかり死んでもおかしくない。

とはいえ、コソ練して圧倒的な強さを手に入れられるかと言えばNOだ。

そう言う風に作ったからな、俺が。


しかし、どうすれば良いのか…………。

悩んだ、悩みまくった。


悩みまくった結果、閃いた。


あれだ、師匠とか、物語のキーを握る存在的な感じで、主人公を導こう。

そんで主人公に世界最強になってもらって、救って貰えばいいんだ。


いや、そうじゃん。

元々、俺の小説のコンセプトは脇役転生して最強になろうとしたけど、主人公とは境遇も環境も違うから最強にはなれないよねっていうだけで、主人公なら脇役(小説の主人公)が考えた方法で最強になれるじゃん。


えっ、現実になって勝手も変わってるんじゃないかって?


知らん知らん。

主人公補正で何とかして貰うしかない。

結局主人公が世界救っても自分(おれ)が生きてなきゃ意味ないし、真道君には悪いが、背負わなくていいリスクを背負ってもらおう。


よし、方針も決まったし、どうやって、アプローチをかけるかだな。




どうでもいい補足


『マジックチップ』

魔法が込められた十字型の金属板。既に魔法と魔力がこもっているため、マジックチップを起動するための魔力以外は込める必要はないが、一流の使い手であれば自前の魔力を込めることで威力を上げることが出来る。魔法を解放し、空になったマジックチップは回収し、再度魔法を込めなおして使うのが基本。


『魔剣』

刀身に魔力吸収機能が付いており、斬りつけることで吸収できる。更に内部には初めから肉体強化のマジックチップが搭載されており、これは刀身の魔力吸収機能と連動している。魔剣に内蔵されているマジックチップは特別製であり、他のマジックチップのように以前とは別の魔法を込めるということは出来ない。魔剣は肉体強化のマジックチップも含めて三つまでしかチップを入れられない。つまり実質二つだけ。


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